「お兄さん!少しお時間いいですか?」
後ろから急に話しかけられて少し驚いてしまう。
「私ですか?」
「はい」
「…なんのようですか?」
一応聞いてみたものの、インタビューのようなものだろう。
話しかけてきた女性はマイクを持っており、その後にはカメラマンがぞろぞろと。
「皆さんの大切なものをインタビューしております」
「はぁ」
大切なもの?
「早速いいですか?」
「え?あ、はい」
「貴方の大切なものを教えてください!」
「少し待ってくださいね、考える時間を」
「はい」
………。大切なもの……。大切なものか……。何かあるだろうか?私はまだ20代。
人生経験も豊富とは言えない。
そんな私の大切なもの……。
「あ」
「なにか思いつきましたか?」
「まぁ、ぶっちゃけた話し、お金ですかね」
「お金は大切ですよね〜!」
「そして、私にとってお金の次に大切なものは「時間」なんです」
「時間ですか、理由を伺ってもいいでしょうか?」
「理由?…そうですね、理由…ぱっと思いついた事でも良いですか?」
「勿論です」
「私はまだ20代なんですけど、趣味も子育ても仕事も、時間が足りなくなってきて…」
「すみません、質問があるんですが聞いても大丈夫でしょうか」
「答えられる範囲なら…」
「では、まず趣味は何をなさっているのですか?」
「…料理作りですかね」
「成る程!いつ頃からですか?」
「いつ頃から…小学生くらいからですかね」
「そうなんですか〜、次にお子さんは何歳くらいなんですか?」
「1歳です」
「奥さんとはうまくいっていますか?」
「うまくいってますよ」
「家事って分けてたりします?」
「子育ては妻がやってくれているので、その他の家事はすべて私がやっています」
「奥さん、不満とかを言ってくることは無いんですか?」
「いえ、一応子育てもできる事は手伝っています」
「夜泣きはどのようにしているのですか?」
「3時以降は私が対応しています、といっても家の子はそこまで泣かないのでやったことは数えられる程度なのですが」
「お仕事は何を?」
「すみません、控えさせていただきます」
「ありがとうございました、続きをお話し下さい」
「あ、はい。っと、さっきも言った通り時間が足りないんですよね」
「……」
「…だから、これからも一日一日を大切に使っていきたいと思っているんです」
「はい」
「でも、手に入らない時間を求めるのは余にも時間の無駄なので、少なくとも役にはたつお金が大切かなって思っています」
「だからお金の次に時間が大切なんですか?」
「そうですね」
「因みに時間の次ってなんですか?」
「………知識、ですかね?もっとも、私は頭が悪いんですけどね」
「偏見なのですが、「愛」と答えると思っていました」
「なぜですか?」
「貴方には奥さんも子供もいるじゃないですか」
「そうですね」
「愛がなければ奥さんも子供もできないんじゃないですか?」
「私はこう考えています。知識があればお金も愛も手に入ると、時間は無理かもしれませんけど」
「本当に知識で愛が手に入るんですか?」
「はい、自分が本当に愛した人に、今までの知識を使って愛してもらう…ではダメですか?」
「それは、今の貴方なのですか?」
「昔、友人がそうやっていたのを見ていただけです。さっきも言ったでしょう?私は頭が悪いんです」
「そうですか」
「もしも本当に私の頭が良かったら、時間の手に入れ方も分かったかもしれません、大切な用事があるので失礼します」
「失礼ですがどちらに?」
「頭の良い友人の所に会いに行くんです」
「今日はインタビュー有難うございました」
「いえ、ではこれで」
私は笑顔で立ち去った。
まぁ、全て「頭の良い友人」の受け入れなのだが。
ー大切なものー
4/2/2024, 12:29:37 PM