ミツ

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僕が死んだのはある夏の日でした。

夏が終わりに近づいていて、風鈴が綺麗に音を鳴らしていました。

外からはつくつくぼうしの鳴き声も聞こえていました。

その夏の日は僕の愛犬、ハナの13回目の誕生日でした。

ハナは随分歳をとっていました。

元気がなくなってきていて、12回目の誕生日とは少し様子が違いました。

急に怖くなったんです。

ずっと一緒に育ってきたハナが死んでしまうのではないかと。

不安になって、どうにも落ち着けなくなったんです。

そんな僕の様子をみて、ハナが近づいてきました。

落ち着かせようとしてくれていたのでしょうか。

ハナに寄り添われて少し落ち着けました。

家には僕とハナの二人だけ。

親は仕事でいませんでした。

ふと、思いついたんです。

ハナと一緒に死んでしまおうかと。

その時はそのことしか頭になくて、その後の事なんて考えもしていませんでした。

台所に包丁をとりにいって自分の喉元に近づけたんです。

でも、そんなの一種の気の迷いから来ていた自殺願望だったんです。

当然、死ぬ勇気なんてありませんでした。

僕は心の中で言い訳をしてしまいました。

ハナが死んでから僕も死のうと。

そんなこんなで包丁はまた台所に返しに行きました。

「ワン!」

最後の力で振り絞ったのかもしれない、その時の状態からは想像もできないほど大きな声が家に響きました。

ビックリしました。

僕がハナを撫でているとハナはゆっくりと目を閉じてしまいました。

徐々に体温がなくなっていって、今から言う事は僕の勝手な想像なんですけど。

今思うと、あの鳴き声は、僕達への感謝だったのか、はたまた、なにかもっと別の意味を込めていたのかもしれません。

徐々に冷たくなっていくハナをそっと床に横たわらせました。

涙が止まらなくて、視界が歪んでいました。

拭いても拭いても涙が止めどなく溢れてきて、その状態のまま台所に行きました。

包丁を手にとってまた、ハナの横に戻ってきました。

死のうか迷ったんです。

結局、死なないことにしました。

ハナの分まで幸せになろう、って思って立ち上がったんです。

そう、あれは不意の事故だったんです。

立ち上がったひょうしに転んでしまいました。

何故なんでしょうか。

持っていた包丁はなんの偶然か僕の喉に突き刺さったんです。

痛いのと悲しいのと。

なんとも言えない感情になりました。

喉は焼けるように熱くて。

動くこともできないので、隣の方にそっと目を向けたんです。

隣にはハナがいました。

ハナを抱き寄せようと腕を伸ばしました。

目が重くなっていき、やがて真っ暗になりました。

僕が覚えているのはこのくらいですかね。

「はい、ありがとうございました〜」

こちらこそ

「今回のお話は後日放送いたしますのでぜひ見てみて下さい」

はい

「では、本日は本当にありがとうございました」


                            ーそれでいいー

4/5/2024, 1:11:55 AM