──守らせてほしい。
「たすけて」
「突然訪ねてきたと思ったら、お前は」
「……うう」
灰色の髪の友人は、開けてくれたドアの先で酷く不機嫌そうな顔をした。
***
「私は言ったな? あいつを泣かせたら凍らせるから覚悟しておけと」
「泣かせてないからセーフ……」
「それに近いことはしたということか」
「いや、その」
「答えろ」
「……はい」
なんだろう、こいつの職業って尋問官だったかな。記憶が正しければ魔法省の法務局に就職したはずなんだけれど。なんなら入省式に一緒に出たような気もするんだけれど。
「記憶違いかな……?」
「何を独り言を言っている」
「すみません」
自分の言葉が婚約者を傷つけたことも、水色の瞳に氷のような温度を纏う友人が当の婚約者の親友であることも事実で。
「詳しく状況を話してもらおうか」
「はい」
冷たい言い方に聞こえて、友人が自分たちの関係を心配してくれていることも知っている。
「何があった」
さて、何から話せばいいだろうか。
(哀愁を誘う)
昨日の続きで、25〜49&今日の分です。それぞれのセリフに繋がりはありません。……が、最後の方だけはあるかもしれません。
#51
「どんなに短い時間でも、君に会いたくなる」
「いっしょなら何処へだって行けるんだよ」
「何も無くても会いに来てくれ」
「顔を見たいからに決まっているだろう」
「授業終わりに、空を見るのが好きだった」
「大人の一歩手前のくせに、子供みたいにはしゃいで、まったくもう」
「どれだけ高く跳べるか、良く勝負してたんだよ」
「大人びたその鋭い眼差しも、隠さずに見せてくれないか」
「君の瞳の光はやわらかくて綺麗だねえ」
「目に焼きついて忘れさせてくれないんだ」
「今日は空が高いよなあ。眩しくてしょうがない」
「光が無ければ生きていけなくなってしまった。お前のせいだ」
「先に見つめてきたのは君じゃないか」
「声が枯れたら、吐息で歌ってやるんだから。終わりになんてしてあげない」
「そろそろ服、仕舞わねえとな。もう秋がすぐそこだ」
「こんな青空の日は、何かを始めるのに相応しい」
「引き留めたら、優しい君は振り向いてしまうだろう?」
「ともだちでいてなんて、そんなこと」
「一日一個じゃ足りないだろ。何個言えばいい?」
「過剰な熱は、紅茶の香りを飛ばすというのに」
「明るすぎれば星と星は互いを認識できない。少し暗いぐらいがちょうど良くないかい」
「君に出会わなかった世界が存在すると仮定しよう」
「なあ、初めて話した時のこと覚えてる?」
「お前の腕の中で命が終えられるのなら」
「永遠、なんて言ってみようか」
「……そんなの信じない。でも、君なら良いかもね」
「死ぬまで側にいてやる」
「お前がそう望むのなら、好きにすれば良い」
「鏡の向こう側なんていらないよ。だって今、世界で一番幸せだもの!」
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
五十作品目、ということで、これまでのお題から台詞を連想して並べてみました。それぞれに繋がりはありません。今日は1〜24&今日の分です。
#50 眠りにつく前に
「命が終わるその時まで、君を愛すると誓おう」
「君から手紙が来るだけで、この単純な心は舞い上がっちゃうんだよ」
「もう泣くのはやめろって。意味ねえだろ、いい加減諦めてくれ」
「お前に一面の花畑は似合わない」
「人工の明かりが、星の明かりよりも心を落ち着かせる瞬間がある」
「とっくに永遠は消えた。ここにはふたりしかいない」
「何よりも大事な時間なんだよなあ」
「一枚の美しい紅葉が、時を止めたような気がした」
「君がいちばん最後に忘れるのは、この声だと良いな」
「深い深い森で迷子になっても、どうせ探しに来てくれるんでしょ」
「形がなくたって、この手で握っておいてやる」
「あの景色を最期まで覚えておく。迎えに来てくれ」
「金木犀の香りが美しい季節だね」
「もうすぐ雨が来るよ。そうしたら森が青々とし始める」
「夜にだって強く香る植物はあるだろ」
「この部屋で命を持っているのは、あの花瓶くらいだろうな」
「明日もおはようを言ってくれるかい」
「じゃあね、夕焼けに連れて行かれないように気をつけて」
「奇跡なんかじゃない。いつでも会える」
「生まれ変わっても、お前の傍に」
「ねえ、この手を取っておくれよ」
「あーあ、あの星に触れたら良いのに」
「どこにいるかもわかんないで走って、いつの間にかこんなとこまで来たんだな」
「何があろうとこの手を離すものか」
「ぜんぶぜんぶ、愚かな人間たちのお話さ。寝物語にでもしてやってくれ」
*10/24「行かないで」の続きです。
──ただいま。
長い長い七日間がようやく終わった。
初めての遠征先は首都から遠く離れた山奥。魔獣の生息域や個体数の調査は勉強になったけど、電話が繋がらなくて知り合いと連絡が取れないのが辛かった。
特に、出発の間際に爆弾を落とした同居人と。
***
遠征の疲れで重だるい身体に鞭打って、家への道を早足で行く。調査書の提出は後日で良いとのことだ。部下への理解がある上司は、こんな時でも優しい。
久しぶりの街並みに思いを巡らせる余裕も無く、ひたすらに足を動かし続けた甲斐あってすぐに家に着いた。
魔法錠を開けて、荷物と一緒に中に身体を滑り込ませる。玄関には見慣れた靴が綺麗に揃えてあった。もう帰ってきているらしい。残業の多いあいつにしては珍しいことだ。
「ただいまあ」
荷物を引き摺りながら廊下を歩く。おかしい、リビングの明かりは付いてんのに人気がない。
「居ないのか?」
暖色の照明が灯る広い部屋を覗き込むと、灰色の髪がソファからはみ出ていた。
「お?」
(永遠に)
──君とだからっていうのもあるかも。
「ここが天国かもしれない」
「ちょっと落ち着こうか」
顔を覆って震えながらそう呟くと、隣から至極冷静な声が飛んできた。
***
死ぬまでに、どうしても行ってみたい場所がある。
水中図書館。
古代魔法が隆盛を誇った遠い昔、本を愛した一人の魔法師が生み出した不思議な場所。
それは山奥の巨大な湖に建っている。正しくは、沈んでいる。
当時は魔法の全盛期であると同時に、戦乱が絶えない世でもあった。何よりも本を大切に思った魔法師は、それらを後世に残そうと、誰も入って来られない湖中に図書館を作った。水に弱い紙を守るために、永遠に続く特殊な保護魔法を全ての本に施して。
──本を愛する者だけがこの門を潜る権利を待つ。
水中に沈む図書館の門に刻まれた文には魔法が込められており、貴重な本を持ち出して悪用しようと考える人間は建物に触れることすらできない。さらには、いつの間にか湖畔に打ち上げられているという。
(理想郷)
後日加筆します。水中にある図書館、浪漫がありますね。