透明な雫は海に溶け落ちていつか貴方に雪として降る
(あなたのもとへ/透明な涙)
誰かが夏に海で流した涙が、水蒸気になって雲になって雪になって想い人に降る、なんてことがあれば良いですね。
痛みすら伴うようにゆっくりと笑顔をつくる君を見ていた
(そっと)
いつの日か宇宙の果てを見に行って僕といっしょに星になろうよ
(まだ見ぬ景色)
多忙につきしばらく小説はお休みします。
──ゆめの続きを探して。
「ゆめを見ました。
叶わない、ゆめを。あのひとは、もういないのに」
「叶えようともしないで諦めてしまうんだね?」
「それは、ゆめを叶えたいと思っている人の言葉ですね」
「夢は叶えるものだろう?」
「世界でいちばん大切なひとが不幸になっても?」
「そのひとを幸せにする方法を見つければいい」
「酷いことを言いますね」
「そうかもね」
「あなたは、今、幸せなんですか?」
「大切なひとが幸せだからね」
「自分がそんな姿になっていても?」
「些細なことだろう」
「あのひと、酷いんです」
「そうかもしれないね」
「私が幸せなら僕も幸せだって言うんですよ」
「なら、君は世界でいちばん幸せにならないと」
「あのひとはもういないのに?」
「幸せになれるかどうかなんて、死ぬまで生きてみなければ分からない」
「だから私を助けたんですね」
「さてね」
「とりあえず、お腹が空きました」
「好きなだけ食べていくと良い。ひとりぶんには多すぎる量を作ってしまったんだ」
「なら、お言葉に甘えて」
「そう、その意気だ。いろんなことを考えるのは、腹を満たしてからでも良い」
(あの夢の続きを)
──いらっしゃい、不思議なお客さん。
君は、星のかけらが落ちてきた日のことを覚えているだろうか。
そろそろベットに入ろうと話していたときだった。
突然家の前が眩しく光って、慌てて様子を見てみたら、燦然と輝く不思議なかけらが落ちていたんだ。
君の手に収まるくらいで、案外小さかった。
オパールかクォーツか、それともダイアモンドか。
二人で近づいてよく見てみると、それはどうやら、いのちを持っているようだった。
僕たちが触れると、ちかちかと光って何かを訴えようとしてきて。
どうにもならないから明日の朝まで置いておこうかと相談していれば、近所迷惑になるほどの激しい光を放つ。
とりあえず家の中に入れようと決めて、布で包んでストーブのきいたリビングへ運んだ。ああ、そうだ、あの日はとても寒かった。外に出していた如雨露の水が凍ってしまうくらいだったね。
君が膝の上に乗せて布で汚れを拭ってやると、かけらは嬉しそうにぴかぴか輝く。
試しにと隣に水の入れたコップを置いてやれば、なんの力か一瞬で中の水が無くなった。ビスケットを近くに寄せれば、それもすぐに消えてしまう。
そうしてしばらくの間、不思議な客をもてなしていると、星のかけらはふわりと君の膝から浮き上がって、窓を叩き始めた。
外に出たいのだろうと窓を開けてやると、また嬉しそうにぴかぴか光って寒空の下へ出ていったんだ。
窓から数メートル離れたところで、星のかけらは振り返って──顔も何もないから雰囲気を感じたのみだけれど──最後に一度だけ強く光って、すごい勢いで宙へ昇って行った。
不思議なお客だったと顔を見合わせて、互いの瞳がおかしいことに気付いたんだ。
君の竜胆色の瞳に、小さな星が宿っているようなきらめきがあった。鏡の前に立つと、僕の瞳の中にも同じようなものが見えた。
きっとあれは、星がくれた贈り物なんだろうね。
だってその日は、いつも月の隣にあるはずの一等星が、ひとつ、足りなかったんだから。
(星のかけら)