うみ

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10/31/2024, 11:55:32 AM

 ──君とだからっていうのもあるかも。


「ここが天国かもしれない」
「ちょっと落ち着こうか」

 顔を覆って震えながらそう呟くと、隣から至極冷静な声が飛んできた。


***


 死ぬまでに、どうしても行ってみたい場所がある。

 水中図書館。
 古代魔法が隆盛を誇った遠い昔、本を愛した一人の魔法師が生み出した不思議な場所。

 それは山奥の巨大な湖に建っている。正しくは、沈んでいる。
 当時は魔法の全盛期であると同時に、戦乱が絶えない世でもあった。何よりも本を大切に思った魔法師は、それらを後世に残そうと、誰も入って来られない湖中に図書館を作った。水に弱い紙を守るために、永遠に続く特殊な保護魔法を全ての本に施して。

 ──本を愛する者だけがこの門を潜る権利を待つ。
 水中に沈む図書館の門に刻まれた文には魔法が込められており、貴重な本を持ち出して悪用しようと考える人間は建物に触れることすらできない。さらには、いつの間にか湖畔に打ち上げられているという。


(理想郷)

 後日加筆します。水中にある図書館、浪漫がありますね。

10/30/2024, 12:54:45 PM

 *10/26のお題「愛言葉」加筆しました。


 ──話し切れないほどに。


 同居人は、出かけた先でやたら写真を撮りたがる。
 暖かい季節には一面の菜の花畑で、暑くなってきたら夏祭りのりんご飴を手に持って、金木犀が香ってくれば紅葉した葉を拾いに、ある時は季節外れの冬の海を見に行った。
 浮遊魔法でカメラを浮かせては二人で撮る写真に、初めは慣れなかったものだ。今では、外出する際には必ず鞄に入れるほどに馴染んだが。
 慣れとは不思議なものだ。


***


 年末の大掃除はどこの家でも恒例だろう。日頃から片付けるようにしていても、なぜか溜まっていく紙類にため息が出る。なんだ、この家には増殖魔法でもかけられているのか。
 不要な古紙をまとめて紐で縛ったところで、後ろから声が降ってきた。

「なあ、これ見て」
「なんだ」
 

(懐かしく思うこと)

 後日加筆します。
 なんだか季節外れの話になってしまいました……。

10/29/2024, 11:11:50 AM

 ──君たちの幸せを願おう。


「なかなか上手く行かないものだな」

 水の神が言う。

「そうかい? これでも進展した方だと思うけれど」

 風の神が言う。

「まあ最初に比べればなあ」

 土の神が言う。

「ちょっと、うちの所の子も頑張ってるんだからね」

 植物の神が言う。


 四柱の神々が覗き込むのは不思議な水鏡。彼らによく似た容姿の人間たちが、忙しなく動いている。


「何もここまでお前に似なくて良いだろうに」

「何が言いたいわけ」

「植物のが鈍感だってことだろ」

「はは、君を落とすのには苦労したよ」

「え? 最初から落ちてたけど?」

「……」

「あ、固まった。だいじょーぶか、風の。……動かねえな、植物のの天然タラシなとこも似たんじゃね?」

「同感だな」

「水のと土のも全然進まなかったけどね。横で見てる分には明らかに好き合ってるのにさ」

「そっくりそのままお前に返すわ、その言葉」

「……本当にね」

「復活したか」

「はあ……無自覚なのやめて欲しいな」

「何が?」

「こいつに自覚を求める方が無駄だろぉ」

「そうなんだけどねえ」

「だから何が?」

「お前は知らなくて良いことだ」

「気になるんだけど」

「気にするな。……ほら、進展があったようだが」

「え、マジ? おー、良い感じじゃん」

 土の神がにんまりと笑みを浮かべる。

「この感じで上手く行くといいけどねえ」

 風の神が苦笑する。

「さてな。全ては子供たち次第だ」

 水の神が微かに口元を緩める。

「まあ、どうにかなるでしょ」

 植物の神が柔らかく眼を細める。



 四柱の神々が覗き込むのは不思議な不思議な水鏡。彼らの愛し子たちは、笑ったり泣いたりと忙しい。

 四人の人間たちがどんな結末を迎えるのか。

 さてさて、それは神々ですらも知らないのである。


(もう一つの物語)


 いつもの四人を見守っているかもしれない神様たちのお話。この四柱は一切本編に登場しません。
 好みも分かれそうなので、もしもの話、と思っていただければ。

10/28/2024, 11:57:42 AM

 ※10/24のお題「行かないで」加筆しました。


 ──君だけを照らすことができたなら。


 輝く金髪、深い紫の瞳。どちらも貴族によく見られる見目だ。自分は下町で育った、ただの庶民だというのに。

 実のところ、貴族の血は入っている……らしい。自分を一人で育ててくれた母が昔言っていた。普段はきはき話す姿と違って、言葉に詰まりながら。

『お前の父親は貴族だけど……もう、いないから。気にしないで』

 母は、父だという男のことを夫とは呼ばなかった。それはつまり、そういうことなのだろう。自分の家族は母ひとり。それだけのことだ。


***


「君の金髪、きらきらしてて綺麗だよねえ。遠くから探しててもすぐ見つけられる」
「……そう?」
「うん。太陽みたい」

(暗がりの中で)

 後日加筆します。

10/27/2024, 11:29:07 AM

 ──知らないことがあってもいいからさ。


「……ん?」

 玄関のドアを開けた途端、嗅ぎ慣れない香りを感じた。この香りはなんだったか。小さい頃、何度か家で嗅いだことがあるような。
 箒を靴箱に立てかけて、首を傾げながらリビングの方へ足を進めると、懐かしい香りが強まる。

「ただいまぁ」
「ああ、遅かったな」

 本を目を落としていた同居人が顔を上げた。机には湯気を立てる見慣れないデザインのカップ。これが匂いの発生元だろうか。

「そろそろ北で大量発生の時期なんだよ」
「もうそんな季節か」
 
 たいていの魔獣の発生は予測が難しいが、一部の種は発生時期や条件が解明されている。まあ、いくら時期がわかったって対策に人手と時間が必要なことに変わりはないけど。
 書類が詰まった鞄を置いて、椅子に腰を下ろす。前に座る相手が本を閉じてカップを手に取った。

「何飲んでんだ?」
「紅茶だ。先日、姉が旅行の土産だと言って菓子と一緒に渡しに来た」
「ん、でもお前、普段コーヒーだよな?」
「実家だと紅茶の方がよく出た。父が好んでいたからだろうな」
「ふーん」

 紅茶についてはよくわかんねえけど、産地とか種類とかいろいろあるんだよな、たしか。

「な、俺にも淹れて。飲んでみたい」
「……他人に淹れてやったことは無い」
「じゃあ初挑戦だな」

 遠回しに自分でやれという意味を含んだ言葉を無視して、頬杖をつきながら相手を見上げる。面倒そうに溜息を吐いたものの、カップを置いてキッチンへと向かってくれた。

「不味くても文句は言うな」
「別にいーよ」

 お前が淹れてくれたことに意味があるんだからさ。


 
(紅茶の香り)

 後日加筆します。
 普段、紅茶もコーヒーも飲まないのでこういうお題が来ると少し悩みます……。

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