──君たちの幸せを願おう。
「なかなか上手く行かないものだな」
水の神が言う。
「そうかい? これでも進展した方だと思うけれど」
風の神が言う。
「まあ最初に比べればなあ」
土の神が言う。
「ちょっと、うちの所の子も頑張ってるんだからね」
植物の神が言う。
四柱の神々が覗き込むのは不思議な水鏡。彼らによく似た容姿の人間たちが、忙しなく動いている。
「何もここまでお前に似なくて良いだろうに」
「何が言いたいわけ」
「植物のが鈍感だってことだろ」
「はは、君を落とすのには苦労したよ」
「え? 最初から落ちてたけど?」
「……」
「あ、固まった。だいじょーぶか、風の。……動かねえな、植物のの天然タラシなとこも似たんじゃね?」
「同感だな」
「水のと土のも全然進まなかったけどね。横で見てる分には明らかに好き合ってるのにさ」
「そっくりそのままお前に返すわ、その言葉」
「……本当にね」
「復活したか」
「はあ……無自覚なのやめて欲しいな」
「何が?」
「こいつに自覚を求める方が無駄だろぉ」
「そうなんだけどねえ」
「だから何が?」
「お前は知らなくて良いことだ」
「気になるんだけど」
「気にするな。……ほら、進展があったようだが」
「え、マジ? おー、良い感じじゃん」
土の神がにんまりと笑みを浮かべる。
「この感じで上手く行くといいけどねえ」
風の神が苦笑する。
「さてな。全ては子供たち次第だ」
水の神が微かに口元を緩める。
「まあ、どうにかなるでしょ」
植物の神が柔らかく眼を細める。
四柱の神々が覗き込むのは不思議な不思議な水鏡。彼らの愛し子たちは、笑ったり泣いたりと忙しい。
四人の人間たちがどんな結末を迎えるのか。
さてさて、それは神々ですらも知らないのである。
(もう一つの物語)
いつもの四人を見守っているかもしれない神様たちのお話。この四柱は一切本編に登場しません。
好みも分かれそうなので、もしもの話、と思っていただければ。
※10/24のお題「行かないで」加筆しました。
──君だけを照らすことができたなら。
輝く金髪、深い紫の瞳。どちらも貴族によく見られる見目だ。自分は下町で育った、ただの庶民だというのに。
実のところ、貴族の血は入っている……らしい。自分を一人で育ててくれた母が昔言っていた。普段はきはき話す姿と違って、言葉に詰まりながら。
『お前の父親は貴族だけど……もう、いないから。気にしないで』
母は、父だという男のことを夫とは呼ばなかった。それはつまり、そういうことなのだろう。自分の家族は母ひとり。それだけのことだ。
***
「君の金髪、きらきらしてて綺麗だよねえ。遠くから探しててもすぐ見つけられる」
「……そう?」
「うん。太陽みたい」
(暗がりの中で)
後日加筆します。
──知らないことがあってもいいからさ。
「……ん?」
玄関のドアを開けた途端、嗅ぎ慣れない香りを感じた。この香りはなんだったか。小さい頃、何度か家で嗅いだことがあるような。
箒を靴箱に立てかけて、首を傾げながらリビングの方へ足を進めると、懐かしい香りが強まる。
「ただいまぁ」
「ああ、遅かったな」
本を目を落としていた同居人が顔を上げた。机には湯気を立てる見慣れないデザインのカップ。これが匂いの発生元だろうか。
「そろそろ北で大量発生の時期なんだよ」
「もうそんな季節か」
たいていの魔獣の発生は予測が難しいが、一部の種は発生時期や条件が解明されている。まあ、いくら時期がわかったって対策に人手と時間が必要なことに変わりはないけど。
書類が詰まった鞄を置いて、椅子に腰を下ろす。前に座る相手が本を閉じてカップを手に取った。
「何飲んでんだ?」
「紅茶だ。先日、姉が旅行の土産だと言って菓子と一緒に渡しに来た」
「ん、でもお前、普段コーヒーだよな?」
(紅茶の香り)
後日加筆します。
普段、紅茶もコーヒーも飲まないのでこういうお題が来ると少し悩みます……。
#43 愛言葉
──信じてみてもいいのかな。
「『この心の揺らぎを愛と仮定したとして、わたしはあなたに愛を伝える言葉を持っていません。あいを受け取ることも、注ぐことも、みんなが当たり前にできるようなことが、どうにもわたしには一切できないようなのです。
これが生まれついてのものなのか、それとも成長する過程での……』ねえ、ちょっと、大丈夫?」
「何故お前は朗読の課題でそんなものを選ぶ……」
「いや、ちょっと愛について考えてみようかと」
「だからといって、おまえは、っ」
「待って、泣かないで!? え、ごめん」
「おまえはわるくない。さっさと覚悟をきめないあいつがわるい」
「あっちにも色々あるんでしょ」
「おまえのほうがいろいろある」
「まあねえ」
「そして、おまえもおまえだ」
「え?」
「そろそろ覚悟を決めてあいつの手を取れ」
「……まだ、」
「卒業までに決着が着かなければ、苦しむのは自分だろう」
「痛いところ突いてくるなあ」
「当然だ、何年お前の親友をやっていると思っている」
「えー、六年?」
「そんなにか、長いな」
「自分で言ったんじゃん」
「そうだが」
「ふふ、……どうすれば良いんだろうね」
「さてな。自分で考えろ」
「冷たい」
「お前なら自分で答えが出せるだろう」
「そう、だね。そろそろ信じてみても良いのかなあ」
(愛言葉)
10/29.加筆しました。親友な二人です。
──仲間、とでも呼んでみようか。
「だからさあ、あいつもあいつで酷いと思わねえ?」
「なんで毎回俺に惚気てくるのかな、やめてくれないかい?」
「は? 違ぇし」
「そうとしか聞こえないんだよね」
食堂のテーブルに突っ伏して文句のような惚気を吐く友人には自覚がないらしい。
「よくもまあ話の種が尽きないね」
「だってあいつが悪い」
「何が?」
「可愛すぎる」
「もう帰って欲しいな」
あ、帰ったらその可愛すぎる相手が家にいるのか。難儀なやつだ。
「俺ばっか話してるけど、そっちは上手く行ってんの?」
「たぶんね」
「たぶんって」
(友達)
後日加筆します。
土日に最低一個は加筆できると思います。