──過去まで欲しいなんて言わないからさ。
恋人の子供時代を知ることはできない。出会ったのは魔法学園の高等部で、もうお互いに大人の一歩手前だったから。中等部からの親友だという同級生に嫉妬なんてしないけれど、愛しい人の幼少期を見たいと思うのも事実なわけで。
それなら魔法具で撮った写真や映像はないか、と聞いてみたことがある。でも、数秒の無言ののち鮮やかな緑の瞳を翳らせながら、無い、とだけ簡潔に返ってきた。過去を語りたがらない理由を追求するのは、きっとまだ早い。話してくれるだろう日を密かに待つばかりだ。願うならば、それがあまり遠く無ければ良い。
そんな恋人が、珍しく子供みたいにはしゃぐ時間がある。
(子供のように)
後日加筆します。
これで三十作品目です。いつも読んでいただきありがとうございます。
──ざわめきの中で、あなたはひとり静かな空気を纏っている。
放課後ってのはいいもんだ。次の授業の準備も、小テストの心配もしなくていい。魔法数学の課題が出たことなんて覚えてないったら覚えてない。
さっさと教室を出て、寮へ向かう。魔法学園は朝と放課後が一番賑やかだ。朝は遅刻しかけて騒ぐ生徒たちで、放課後は遊びの予定を話し合う声で校内中が活気づくから。
校舎を出たら、次にあるのは寮に続く渡り廊下。東屋のある道は放課後を過ごす生徒たちで溢れる場所の一つで、いつも混雑している。
「?」
なのに、今日はやけに人が少ない。授業でも長引いているクラスが多いのだろうか、と思いを巡らせたところで一人の生徒が目に入った。
なるほど、人が少ないのも納得だ。東屋の一つで、灰色の髪が特徴的な生徒が読書をしている。寮は違っても、名前くらい聞いたことはあった。なにせ総合一位の秀才だ。
「……」
そこだけが切り取られたかのように音が無い。同級生たちの話し声が遠い。美術館の絵画でも見てる気分だ。
(放課後)
後日加筆します。
──遅いおはようを君に。
どうにも朝起きるのが苦手だ。
いつまでも毛布に包まれていたいし、遅刻ギリギリまで体を休めていたい。なんならベッドの中で朝食を食べたい。前にそれをやったら真顔で怒られたからもうしないけど。自分の方が背が高いのに見下ろされてるような威圧感だった。
そんな怒ると怖い同居人はずいぶん早起きで、自分が毛布にくるまってうとうとしている間に身支度を済ませてしまう。あのきれいな銀髪を結ぶところを見られないのが悔しい。
(カーテン)
後日加筆します。一週間程度長文の投稿はできそうにないです、すみません。しばらく物語の冒頭だけの投稿になります。
──ただそばにいてほしい。
わけもなく涙が流れ始めることがある。
医局に行っても、目に問題はないので恐らく精神的なものだろうと言われるだけ。思い当たることがないかと言われれば、子供の頃に十分に泣けなかったことが影響しているのかもしれない。
特別辛くなるわけでも無いし、魔法学園時代に比べればずいぶんと頻度は減った。でも、突然泣き始めれば周りを驚かせてしまうから、瞳の奥がじわりとする感覚があればすぐに人目のないところに行くようにしている。
ただ、ここで問題がひとつ。慣れている自分と反対に、心配性な恋人は泣くのを見るとすぐにやってきて隣に座るのだ。大丈夫だと言っても聞かない。
(涙の理由)
後日加筆します。
──あなたとなら何処へだって!
初等部に通っている頃、同級生たちが旅行へ行った話をしているのが羨ましかった。魔導機関車に乗って何処へ行った、ハイキングで竜を見た、精霊が眠る土地の美しい景色を見た、そのどれもが家族の温もりを纏っていて、自分には程遠いものだったけれど。それでもやっぱり、旅行の思い出話はきらきらとした輝きを持って耳に届いて、憧れてしまうのだ。
友人たちとだって、弟と二人だけだって構わない。一度でいいから旅というものを経験してみたいとずっと思っている。いや、思っていた。
だって、そんな無謀な願いがこんな形で叶うなんて、思ってもみなかったんだから。
(ココロオドル)
後日加筆します。