紅黒零茜

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2/17/2024, 11:29:30 AM

「お気に入り」

お気に入りの場所、景色、食べ物……人によって色々とあると思う。
例えば物語も、そのひとつに入るだろうか?
私が気に入っているのは、ただただ日常を穏やかに過ごす少女の物語。
特別素晴らしいことが起きるわけではないが、その逆に特別悲しいことも苦しいこともない。
小さな幸福を大切にする。そんな物語。
……でも、少女はその穏やかな日常に退屈している。
何か刺激はないものかと、彼女の世界からはみ出さない程度の距離感で“普通ではない”ことを探し求めている。
「私の欲しいものはどこにあるの?ねぇ教えてよ」
虚空を見つめながら、ぼやく少女の言葉がやけに重く感じ取れたのを覚えている。

2/5/2024, 3:59:30 PM

「溢れる気持ち」

あぁ、どうしよう。どうしたら良い?
この気持ちにどうやって整理をつけたら良い?
君を一目見たその瞬間から、俺の世界は色を持ったんだ。
今まで灰色だった世界が、君を中心に輝き、そして彩られた!
「最近、お前は楽しそうだな」
当たり前だ。暗く澱んでいた世界に別れを告げたのだから!
「ふぅん……なら。お前はソレをどうするつもりだ?」
どうする、だと?お前こそ何を言っている?
どうするも何もない。ただ俺の視界の中で君が鮮やかであれば良い。
「そうか……お前にはそういうふうにしか認識できてないんだな」
あいつの言っていることの意味がわからないが構わない。そう、君はいつまでも永遠に俺の見る世界の灯りになってくれればそれでいい……
あぁぁ……っ!愛しているよ!


「例え君が壊れて動かないものだとしても」

1/30/2024, 12:50:35 PM

「あなたに届けたい」

走る、走る──
呼吸もままならないほど、息を乱しながら。吸い込む空気が鉄錆の香りに変わるほどに長く、深く……
「はぁっ、はっ!」
こんなに必死になって、私は何をやっているんだろう?
“あなたが何処かに消え去る前に、見つけないと”
肺の焼けるような苦しみに耐えながら、いつまで続くともわからない道を走る。

ふと、揺れる視界に追い求めていたあの子の背中が見えた。
「待って……いかないで!!」
そっちに行ったら、あなたはもう戻れなくなる……!
私の声が聞こえていないのか、あの子の背中はどんどん遠くなっていく。
私がどれだけ必死に追いかけても、その差が縮まることはない。
──当たり前だ。追いつけるわけがない。

だってあの子は死者で、私は生者なのだから。
そもそも、私があの子を追いかけられていること自体がおかしな話なのだ。

そこまでして、何故追いかける?
「わたしっ……はっ、あの子に届けなきゃならないものがあるんだっ!」
自らの命を死に近づけてまで、精神をすり減らしてまで……なぜあの子に執着する?
「あの子がいたから……私は人でいられた……バケモノじゃなく、ただの女の子でいられた!だからっ!?」
疲弊した足がもつれて、勢いよく転がる。
痛い……はずなのに、何も感じない。
あぁ、もう追いつけないの……?ここまで来たのに。コレを届けられないまま……
自分の無力感に先程まであった強い意志は簡単に押し潰されそうになる。
「うぅっ……」
「このバカ者が。死に近寄りすぎだ」
「えっ……?」
おもむろに顔をあげようとするが、上から頭をぐぐっと抑えられる
「見るな。見ればお前も完全にこちらに来てしまう。だから大人しく聞け」
あの子の声は相変わらず威圧的で、でもとても安心する。
「お前の言葉も、想いも、最期に渡すはずだったソレもちゃんと持って行くから。だから……」
“おれの分までちゃんと生きろ”

「……っ」
目を覚ます。そこには真っ白な天井が広がっている。
横に視線を移せば、そこにはところどころ焼け焦げた結婚指輪の箱が置かれていた。
重い腕を動かして、その箱を開ける。
「あぁ……」
そこには、ふたつの指輪が入っているはずだった。しかしそのうちのひとつは窪みだけだ。
「とどけ、られたんだ……」

1/27/2024, 12:28:49 PM

「優しさ」

他人の優しさが痛い。
褒められたり、頼られたり、そういう光のような感情が眩しくてつらくて仕方がない。
そう思うようになったのはいつのことだろう?
本当は嬉しいんだと思う。認められて、肯定されて……
嬉しいと思っているはずなのに、涙が溢れそうになる。
それを堪えて笑って……チクチクと痛む心を見ないフリして。
「はぁ……」
大きくため息をひとつ。
まだ、私は大丈夫だ。この痛みがあるうちはきっと、まだ私の心が壊れていないという証のはずだ……

1/25/2024, 12:50:31 PM

「安心と不安」

暗い部屋の中でひとり。孤独という寒さに凍えながら、僕は彼女の帰りを待つ。

「仕事終わったら帰ってくるから〜いってきまーす」
「うん、いってらっしゃい」

毎朝、こうして彼女を光の中に送りだした後、僕は何をするでもなく窓から一番遠い部屋の隅に、膝を抱えてうずくまる。
遮光カーテンが太陽の光を閉ざしていても、漏れている光が恐ろしくて仕方なかった。
僕が外に出られなくなって、光すら怖くなって、どうすることもできなくなって……震えていた時に唯一手を差し伸べてくれたのが彼女だ。
彼女は、こんな状態の僕を見ても、なにも聞かなかったし、なにも言わなかった。
今まで偽善で僕を助けようとした人間どもと違って、善意を押し付けたり、探りを入れたりしてこなかった。
ただ、寄り添ってそばにいてくれた。ほんの少し温もりを分けてくれた。
それが、どれだけ僕を救ってくれたか……
“ずっとそばにいて欲しい”
そう思っても、彼女には彼女の生活がある。その足枷になってしまうのは僕が嫌だったし、縛りたくなかった。
だから、毎夜少し疲れた顔で彼女が「ただいま」と帰ってきてくれるだけで、僕は幸せだ。そのはずだ。

でも……もしも彼女が帰ってこなかったらどうしよう?
ふと、そんな不安に駆られる日が最近増えた。
そんなことないとわかっているけれど、外の世界ではなにがあるかわからない。
事故にでもあって、死んでしまったら……?
彼女の帰宅予定時間が近づけば近づくほど、あの朝の会話が最後なんじゃないかと、不安で心が押し潰されそうになり、身体中が冷たくなる。
予定時間を過ぎても帰ってこない時は、爪が食い込むほどに腕を握りしめて恐怖に震えてしまう。
どうしようどうしようどうしたら僕一人じゃ何も出来ないこわいこわいこわいこわいこわ……

ガチャ

「はぁぁ〜ただいまぁ……上司に捕まって残業させられたぁぁ……うわぁっ!?」
ぎゅぅっと、彼女に抱きつく。安心する、彼女の匂いだ。
「お帰り、なさい……!」
そんな僕に最初は驚いた様子だった彼女も、またいつもの事だとわかってからは、へにゃりと笑った。
「あはは……また心配しちゃったのかな?甘えん坊さんだなぁ」
僕の背中を優しく撫でる。この手の温もりも、僕を安心させてくれる。
「大丈夫だよ。私は君を置いてどこかに行ったりしないからね」
僕をなだめるその優しげな声まで聞いたところで、僕はやっと冷たい不安から解放された。
その様子を見た彼女は、いつもの問いを投げかけてくる。
「ねぇ、お腹空いてない?大丈夫?」
空いている、とても。でも……
「ううん。平気だよ」
「そう……?また我慢して倒れたりする前に言うんだよ?【血を吸われる】くらいのこと、嫌がったりなんてしないからさ」
「うん……」

普段は洋服に隠れて見えない彼女の首元には、傷がある。僕がつけてしまった傷。二度と消えない傷……
……僕が彼女に感じる安心と不安は、この血への渇望のせいなのかもしれない。
いつでも食事にありつける安心と、それがなくなってしまう不安……
あぁなんて、僕は醜いバケモノなんだろう……

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