もしも、あの時君に好きだと言えていたなら。
もしも、あの時、嫌だと言えていたなら。
もしも、あの時辛いとないていたのなら。
もしも、あの時別の学校に行っていたのなら。
もしも、あの時死んでいたのなら。
もしも、あの時生まれてこなければ。
そうすれば、こんなに辛くなかったのかな。
そうすれば、こんなに今を嘆かなくてもよかったのかな。
私、どこから選択を間違えていたんだろう。
君が好きで仕方なくて、それなのに、今もまだ好きなのに。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
君は私の元を離れてどこへ行くの。
私を置いていってどこへ。
連れて行って欲しかった。
君と一緒ならどこへでもいけたのに。
こんなこと考えたって意味がないことくらい分かってる。
嘆いたって、憂いたって、過去は変わらない。
もとには戻らない。だから、意味のないことだ。
それでも、それでも、嘆くことをやめられない。
憂うことをやめられない。
それが、私。それが人間。なのだから。
私にとっての貴方は、素晴らしい人だ。
高身長イケメンで、優しさもあって勉強もできる。
少し低めのボイスが耳に残って私を離さないでいる。
同期の人と楽しそうに話しているのを見ると、尊すぎて胸が締め付けられる。
私にとっての貴方は、推しだ。
こんなにも近くにいるのに届かない。
すぐに話せるのに遠い。
貴方は推しだ。
住む世界が違う推し。
なら、貴方にとっての私はなんだろう?
貴方は私のことなど気にもとめていないんだろう。
何ひとつ印象を抱いてもらえない私は貴方にとっての何になれるだろう。
烏滸がましい。ひどく烏滸がましい。
それでも、願わしてほしい。
私にとっての救いが貴方のように、貴方にとっての救いが私になりますように。
貴方と私。遠く離れていようと、関係が崩れることはありませんように。
俺は昔から、異質だった。
周りがはしゃいでいる中ずっと1人だった。
遊びたくないわけじゃない。
むしろ、遊びたかった。
それをさせなかったのは俺の異質さだ。
周りの人間が
「今日さ、私のお母さんがね。」
「へぇそうなんだ。私のところはね。」
なんて話しているのを聞いているとムカムカして仕方がない。
なにせ、それのせいで俺は異質なのだから。
世間は個性を尊重しろという。 ならば『俺』も尊重されてもいいのではないだろうか?
周りは『私』しかいない。
それでも、その中に『俺』がいて何が悪い。
ずっとずっと考えてきていた。
俺は本当におかしいのだろうか。
向かう先には雨が降っていた。
やがて、俺は別のところへ行った。
そこには『私』もいた。けれど、『僕』もいたし、『あたし』もいた。残念ながら『俺』を見つけることはできなかっただけれど、それでも、ここでは『俺』は否定されなかった。
未だに俺には分からない。
どちらが正しいのか。
前の『私』達も、自分たちとは違うという恐怖から逃れるために『俺』を嫌がったに違いない。
そういった人間としての本能的なものを持たない今の住民たち。
どちら等というのはないのかもしれない。いや、ないのだろう。
それでも、俺は考えることをやめられない。
向かう先の雨は柔らかい雨になっていた。
私の世界は光に溢れていた。
友達も多くて、勉強だって運動だって人並みには出来た。
カースト上位とは言わずとも、それなりに充実した生活を送っていた。あの時までは。
あの日、いじめを受けている子を助けただけだった。
偽善者ぶるのでなく、諭すのでもなく、先生に言っただけ。
それがどうやら気に食わなかったらしい。
次の日、いじめのターゲットは私になっていた。
友達は離れずに一緒にいてくれた。
でも、その友達もいじめのターゲットとして、見せしめにされたのをきっかけに、どんどん友達は居なくなっていった。
勉強も運動も人並みにできる。それでも、友達のいない孤独はどれだけ辛かったか。
誰にも相手にされずに、友達という希望すら失った私には逃げ道など一つしかない。
一筋の希望という名の光。
これは、悪いことでも何でもない。
ただ、自分による自分のための救済だ。
そう言い聞かせて夜の世界に旅立った。
喧嘩した翌日。
意地っ張りな君は何も言わずに家を出ていった。
引くに引けなくなった僕も何も言わなかった。
それでも、仕事をしているときも君のことばかりを考えていた。
先に帰ってきていた君は案の定何も言わずに、いつもしている挨拶すらせずに寝室に入っていた。
僕は扉越しに声掛けようか迷い、喉まで出かかったところでやめた。
次の日も、その次の日もずっとそんなことが続いた。
やがて君の背はどんどん小さくなった。
僕もどんどん元気がなくなっていった。
久々に僕が君より早く帰った日。僕は君を玄関で待っていた。
君は帰ってくると少し驚いた顔をして、その後すぐに立ち去ろうとした。
僕は、少し迷って、君を抱きしめた。
「何すんの!」
君の声を久々に聞いた。
前までは嫌だった怒った声も今となればすごく嬉しかった。
「この間はごめん。言い過ぎた。」
僕がそう謝ると、君も
「こっちこそごめんなさい。それに、ずっと意地張ってた。」
そう、謝ってくれた。
その後、仲直りをした僕らは空いてた空白を埋めるようにずっと話していた。