「今日も優奈ちゃんは可愛いねぇ。」
「優奈ちゃんは優しいねぇ。」
「優奈ちゃんは本当に偉いなぁ。」
そうでしょ?私、偉いし、優しいし、可愛いでしょ?
だって、お母さんがそういったもの。
可愛くて優しい子になりますように。そんな思いを込めて優奈なんだって。そう、言っていたもの。
だからね、私、優しくて偉い子になるの。
困っている人には手を差し伸べて、いつでも笑顔で。
勉強は常に学年1位をキープする。
可愛さだって、手を抜かずに毎日努力してる。
ねぇ、お母さん。私、お母さんの望むような子になれた?
鏡の中の私は、少し淋しげないつも通りの笑顔だった。
大好きな貴方へ
今は何をしていますか?
私は貴方のことを考えています。
貴方も私の事を考えていてくれていると嬉しいです。
貴方はよく眠る前にクラシックを聴いていましたよね。
クラシックに触れたことがない私がハマったきっかけは貴方でした。
私は貴方にとっての何かのきっかけになれましたか?
なれていたのなら、そうなら、それはすごく嬉しいことです。
ここまで書いたものの、あんまり性に合いませんね。
やっぱり私らしく書くことにします。
貴方はいつも、楽しそうに過ごしていましたよね。
私は貴方が同僚や友達と楽しそうに話している姿や、そんな話を貴方の口から聞くのが好きでした。
少し耳に残るような貴方の高い声を聞くと、胸が高鳴って話に集中できないことも多々ありました。
ごめんなさいね。
私にとって貴方はすごく特別な人。
だから、貴方にとっての特別な人に私もなりたかった。
こんな事書いたら貴方はそんなことないよ。君は俺にとって特別なんだよ。と、そう言うでしょうね。
その優しさが私は好きです。
もう少しだけそばにいられたのなら、もう少しだけ一緒にいれたら、何か変わったのかもしれません。
でも、もうきっとそれは無理なのでしょう。
貴方はとっくに知っているのでしょう?
私はもう長くない。
貴方が病院に毎日お見舞いに来てくれて嬉しかった。
約束していた指輪。買いに行けなくてごめんなさい。
今まで沢山のわがままを言ってきましたよね。
毎回叶えてくれてありがとう。
そんな私の最後のわがまま叶えてくれますか?
私が眠りにつく前に、貴方の顔が見たいです。
俺への手紙はそこで終わっていた。
紙に、彼女が愛用していた万年筆のインクが滲んだ。
ごめんよ。君が眠ったあとに来てしまった。わがまま叶えてやれなくてごめん。
嗚咽と共にそんな言葉だけが心の中に木霊した。
指輪。買ってきたんだ。
そっと冷たくなった薬指にはめたそれは、俺の心とは裏腹に綺麗に輝いていた。
「何時までも一緒にいるって言ったじゃん…」
君は泣きながらそういった。
だけど、僕がその言葉に釣られて足を止めることはなかった。
君は泣き崩れて、その場に座り込んでいた。
僕はそれを後ろ目に進むことしか出来なかった。
初めて君に出会ったのは合コンだった。
一目見た時からとても素敵な人だと思った。
君も僕に興味を持ってくれていて本当に嬉しかった。
その後、連絡先も交換して2人で幸せに過ごしたよね。
付き合いたての頃は2人とも気恥ずかしくて、中々進展しなかったよね。
暫く経った辺りから2人の距離がずっと縮んだよね。
将来の話もしたね。
覚えてるよ。
君が嫌いになったわけじゃないんだ。
むしろ君のことが好きだ。
でも、だからこそ君とは一緒にいれないんだ。
昨日、僕に手紙が届いたんだ。
手紙には、君と別れろと書かれていた。
さもなくば君に被害が行くとも。
だからこうするしか無かった。
君には僕のことを嫌いになって欲しい。
せめて、嫌いになって、僕のことを一生恨んで、
記憶に僕を残してくれ
君が死んでしまうその時まで永遠に…