森川俊也

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大好きな貴方へ
今は何をしていますか?
私は貴方のことを考えています。
貴方も私の事を考えていてくれていると嬉しいです。
貴方はよく眠る前にクラシックを聴いていましたよね。
クラシックに触れたことがない私がハマったきっかけは貴方でした。
私は貴方にとっての何かのきっかけになれましたか?
なれていたのなら、そうなら、それはすごく嬉しいことです。
ここまで書いたものの、あんまり性に合いませんね。
やっぱり私らしく書くことにします。
貴方はいつも、楽しそうに過ごしていましたよね。
私は貴方が同僚や友達と楽しそうに話している姿や、そんな話を貴方の口から聞くのが好きでした。
少し耳に残るような貴方の高い声を聞くと、胸が高鳴って話に集中できないことも多々ありました。
ごめんなさいね。
私にとって貴方はすごく特別な人。
だから、貴方にとっての特別な人に私もなりたかった。
こんな事書いたら貴方はそんなことないよ。君は俺にとって特別なんだよ。と、そう言うでしょうね。
その優しさが私は好きです。
もう少しだけそばにいられたのなら、もう少しだけ一緒にいれたら、何か変わったのかもしれません。
でも、もうきっとそれは無理なのでしょう。
貴方はとっくに知っているのでしょう?
私はもう長くない。
貴方が病院に毎日お見舞いに来てくれて嬉しかった。
約束していた指輪。買いに行けなくてごめんなさい。
今まで沢山のわがままを言ってきましたよね。
毎回叶えてくれてありがとう。
そんな私の最後のわがまま叶えてくれますか?
私が眠りにつく前に、貴方の顔が見たいです。


俺への手紙はそこで終わっていた。
紙に、彼女が愛用していた万年筆のインクが滲んだ。
ごめんよ。君が眠ったあとに来てしまった。わがまま叶えてやれなくてごめん。
嗚咽と共にそんな言葉だけが心の中に木霊した。
指輪。買ってきたんだ。
そっと冷たくなった薬指にはめたそれは、俺の心とは裏腹に綺麗に輝いていた。

11/2/2024, 10:17:30 AM