今、私はベッドに横たわっている。
枕元にある机にはアクエリアスと冷えピタ、それから体温計が置いてある。
今私は微熱が出ている。
多分昨日雨の中傘もささずに歩いて帰ったのが原因だろう。
家に帰ってタオルで拭いたもののどうやらダメだったらしい。
といっても37.8℃と微熱ではある。
しかし、起きてから昼過ぎになるこの時間まで誰一人見舞いに来てくれないのは淋しいものである。
もちろん、家のある場所が少し街に出にくいというのもあるが、せめて家族か友達は来てほしかった。
連絡もしたのに、既読スルーなどとは本当に辛い限りだ。
せめて、せめて返信してくれよ…
と思いつつも、もうスマホを使う気力もないし、動くのもめんどくさいので、ベットで横になったままゴロゴロとする。
アニメを観ながらダラダラしていると、気づけば夜になっていた。
その頃には熱もだいぶ下がり体が幾分が楽になっていた。
ちょうどその時玄関のチャイムがなった。
「はーい?」
「やぁ。見舞いに来たよ。」
そういって入ってきたのは先生だった。
「わざわざお見舞い有難う御座います。」
「いやいや。体調はもう大丈夫?」
「えぇ。こんな出にくいところまでわざわざ有難う御座います。」
そうして、先生はクラスの皆からだよ。といいながら紙袋を渡してくれた。
私は何度もお礼を言いながら先生が見えなくなるまで見送った。
ふっと心が温かくなった。
次の日、また微熱が出たけれど。
「好きです!付き合って下さい!」
晴天の中大きな声が響き渡った。
道行く人が皆その声の方を見た。
「ちょっと…ね?こんなところでやるのは…」
戸惑いながらそう返しているのは1人の男の子。
対する女の子は、頑なに顔を上げようとはしない。
全く。こんな公共の場で告白などしないでもらいたい。
と、思った。
僕のような非リアにとって、公開告白は地獄でしかない。
振られろ。
こんなところで告白するやつなんて碌なもんじゃない。
男よ。振れ。
と、念じながら成り行きを見守っていた。
「今、返事して下さい!」
しびれを切らした女の子のほうがバッと顔を上げてそう言った。
「じゃあ、嫌だ。と。」
と、男の子は返した。
ナイスだ。
「なんで?なんでなんですか?何がいけないんですか?嫌なところ直しますから。」
「そういうところもだけど、こんなところで告白したりするのとか全部嫌だ。」
若干めんどくさいことになりそうな気はしてきたが、気にしないこととする。
「ねぇ。お願いだから。捨てないで。」恋人らしいこと何も求めないから。」
女の子はまだ飽きもせず駄々をこねている。
しかし、もうこの茶番も見飽きたし進展がしなさそうなので帰ろうとした。
その時、
「仕方ないな。ちょっとだけだよ。」
座り込んでいた女の子にそういいながら手を差し出した男の子。
顔には困ったような笑みがあった。
クソリア充が…
心のなかで悪態をつきながらも今度こそ帰路についた。
僕たちは生きている。
この理不尽な世界を。
非リアに優しくない世界を。
リア充という光り輝く太陽の下で
今日も可愛い。
そんなことを思いながら智也は春見ていた。
春はそんな視線には気づかず、パソコンに向かって仕事をしている。
一方で智也は春を見ているせいで全く仕事が進んでいない。
この調子では残業になりそうだ。
しかし、智也は今日春をご飯に誘う予定だった。
そのため、定時に間に合うようにあっという間に仕事を処理してしまった。
これだけの才能があるなら普段から発揮すればいいのに。
と、同僚は皆思ったことだろう。
定時になると同時に鞄を背負い、部屋を出る。
会社の出口付近で立ち止まり春を待つ。
この時、待ち伏せをしている気がするが気のせいだ。
5分くらいして春が出できた。
同僚と楽しげに話している。
「少しいいかな?」
と、智也は声をかけた。
「なんですが?」
「よければ今度食事に行かないかい?」
「えーと…?」
「本当によければいいんだ。いつでもいいし、気が向いたら連絡して。」
そう言い残して小走りに智也は去っていった。
ただ、呆然とした2人だけがその場に残された。
別の日の太陽が落ちる頃。
偶然にも定時に帰れた智也は1人帰路についていた。
すると、遠くから春とその同僚が話している声が聞こえた。
「あのさ、前の食事に誘われたやつあったじゃん。」
「あぁ。あれきもすぎてまだ返事してないわ。」
「あんなんパワハラだよ。パワハラ。」
「だよね!もう訴えたいくらい!」
「訴えればいいじゃん。」
「そうしようかな。」
笑い声とともにそんな話が聞こえる。
智也は自分のことだと気づくやいなや心が何処かにいってしまった。
訴えられてしまえば、社会的地位は落ちる。
職場の恋ももはや枯れ果ててしまった。
たった一度。たった一度が全てを壊してしまった。
ただただ、恋も智也も落ちていく
夕日とともに…
「昌美〜、その棚もう少しこっちへ移動できないか?」
いけるー。と大声を張り上げる。
今日は2人の家に荷物を運ぶ日。
重い荷物の運搬は圭祐に任せて私は棚や家具のレイアウトを決めたり、細かい微調整をしたりする。
部屋が完成するころにはすっかりと日が暮れてカラスが鳴いていた。
「今日は頑張ってくれてありがとな。」
圭祐からそんなねぎらいの言葉がかけられる。
愛する人にねぎらってもらえるなんてどれだけ幸せなことだろう。
そんな気持ちを抱えつつ、何でもないようにううん。大丈夫。圭祐こそ重い荷物持って疲れたでしょ。ありがとう。と、返す。
一ヶ月前私たちは籍を入れた。
圭介は収入が安定していないから親には反対されたけど何とかして結婚までこぎ着けた。
2人で住む家も決めて、憧れのマイホームをゲットした。
そんな昔のことを思い出していた。
今、私たちの間には3人の子供がいる。
長男の正哉、長女の圭子、次男の秀介。
皆すくすく育って今では正哉は小学校5年生だ。
子どもの成長が見れてうれしい反面。少し嫌なところもある。
それは、
「お母さん。今日のご飯はなんだい?」
「お父さん。まだ、ご飯の時間じゃないよ。」
と、お互いを名前で呼ばなくなったことだ。
はじめの頃はずっと名前で呼びあっいたのに、気づけば「お母さん」「お父さん」と呼びあっていた。
何だか昔が消えてしまったようで少し淋しい。
「おか〜さん!見て!テストでね、百点とったんだ!」
「そうなの!凄いね圭子!すぐ行くよ!」
「うん!早く早く!」
夜空にそっと呟いて圭子のもとへと向かう。
「圭介君。」
イヤホン越しに声が聞こえた。
「あのさ。いつまでそんなことしてんの?」
そんな聞きたくないことを言われてもどうすればいいのかわからない。
だから、聞こえないふりをして音楽をきいていた。
突如、耳から音楽が聞こえなくなった。
黙って上を見上げれば怖い顔をしたお姉ちゃんがいた。
「ちゃんと話くらい聞いたらどうなの?本当にこのままじゃダメだよ。」
「そんなこと言ったって、どうすればいいの?私にはなりたいものもやりたいこともないんだよ。」
今年で大学を卒業するはずの私は未だに夢を見つけられないでいる。
やりたいこともなく、あったとしても自分よりもできる人がいる。
そんな中自分じゃなくてもできることをやる意義を見いだせないのだ。
自分だけがその何かをできるんだったらまだしも…
ひとしきり姉の説教じみた話を聞いたあと、また私はイヤホンをつけて音楽を聞いた。
まともに考えたってどうしようもないと思ったから。
月明かりが窓から差し込む頃。ようやく私はのそのそと動き出した。
風呂に入って半水浴をしてから顔を洗って美容液もろもろを塗る。
ドライヤーで髪を乾かして艶を持たせたら布団に入り込んで寝る。
布団の中はあったかくて柔らかくていつまでも居れそうだ。
ニートになりたいなぁ。
ふとそんな考えが頭をよぎった。
多分親に追い出されるし無理なんだろうけど、やっぱり何もできない私にちょうどいい職業?だと思う。
好きなことはある。
音楽を聴くこと。歌うこと。本を読むこと。
やりたいこともある。
曲を作ること。本を書くこと。売れること。
なりたい夢もある。
作曲家。小説家。声優。
でも私はどれにも不適だ。
作曲なんてほとんど出来ないし、文才もない。しゃべるのが早いから声優にも向いてない。そもそも共感能力すらありはしない。
どんだけやりたいこと。なりたいものがあっても出来ないものは出来ない。
そのために努力を惜しむなと人は言う。
でも、そんなことは無理だ。土力したって上には上がいるし、出来ないものは出来ない。努力でどうにかなる世の中ならこんなに生きづらくはないはずだ。
悶々と考えていると気づけば朝日が差している。
結局今日も寝れやしなかった。
そしてきっと明日も明後日もいつまで経っても寝れやしないのだろう。
だからこそ、いつまでも、いつまでも人々に問い続けたい。
この世界で生きていくにはどうすればいいのかを。