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2/16/2025, 6:28:19 AM

君の声がする



時間はかかったが、これで全てが解決する。
別行動していた東吾と連絡がつかなくなって1週間。おそらく東吾のいたグループは全滅だろう。
私たちだけでもこれをあのお方に届けなければ...。

焦る気持ちがあったのもあり、背後に敵が近づいていたことに気づくのが遅れた。ばっと振り向くと後ろには奴がいる。
奇妙な仮面をし、真っ黒な服装で闇に溶け込んでいる。ついに気づかれてしまったか。逃げようとしたとき、不意に風が吹き、奴の仮面がとれかけた。ふと隙間から見えたあの顔に、私は見覚えがあった。嘘だ、とか有り得ないと脳内で繰り返す。だが、確かめずにはいられなかった。

「───⋯ねぇ、大和じゃない...よね?」

答えるわけない。答えてほしくない。
しかし、私の思惑に反して奴は、言った。

「そうだよ」

私が聞き間違うはずがない。
奴の声は、連絡がつかなくなった東吾と一緒に行動していたはずの君の声だった。
信じたくなかったが、そういうことなのだろう。
奴らは洗脳し、自らの手駒を増やす。大和は、すでに洗脳済みだったのだ。
あの方の言う通りだった。

「……あんただったわけね。東吾たちはどうしたの」
「すぐにわかるよ」

急に強い痛みが走る。大和が投げたナイフが刺さったのだ。
同じ声なのに、大和の声じゃないようだった。
そうか、もう君は……。
意識が飛びそうになった時、聞こえた気がした。
たすけて、と君の声が────

洗脳を戻す方法はまだない。しかし、あの方ならそれを解決できるかもしれないのだ。私たちの集めたあれを使って。涙がこぼれそうになる。ぐっと意識が遠くなるのをこらえ、かつての仲間を見る。
仲間を殺したならこいつは処分しなければならない。
それが、本人の意思に反したことであったとしても。
あと少し早ければ……悔しく思うが時は戻せない。
仲間にこれは使いたくなかったが、これ以上好き勝手させる訳にはいかない。

「大丈夫。一緒にいこう」

巨大な爆発を生むこれは私も生きてはいられないだろう。ありがとうと、今度こそ本当の君の声が聞こえた気がした。あとは皆に託そう───

2/14/2025, 4:34:56 PM

ありがとう


いつだって君の隣に相応しいように、努力してきたつもりだ。でも、君には通じない。

私ばっかり助けられてるね。ありがとう──⋯

かつて君が僕に言ってくれた言葉。
違うんだ。
本当は…本当は、僕の方が救われていたんだ、君に。
だから、そのセリフは僕が言うべきなんだ。

でも言葉にしたら…安っぽくなりそうで。
臆病だから僕は君に言えずにいるんだ。
感謝を伝えられるべき人間じゃないんだ。
''有難う''なんて、軽々しく言えない。言わない。
そう思っていたんだ。
君が消えるまでは。

どうして言わなかったんだろう。たった一言を。

2/14/2025, 8:15:03 AM

そっと伝えたい


11時。いつもの時間。この時間にあの人はやってくる。
果たして、その時はきた。うぃーんと図書館のドアが開く音がする。
(きた...!て、ハァァァン?!福原ぁぁ!?おま、なに富山先輩の隣歩いてんだ!!変われ!!)
憧れの人、富山先輩はあろうことか自分の嫌いな福原と図書館にやってきた。絶対に嫌がらせ目的である。わかりきっている。福原と目が合った。
(お前がいていい場所じゃねえ。か、え、れ、!)
アイコンタクトで話しかけてみる
福原は一瞬目をぱちくりさせたあと、ニヤッと笑って目を逸らした。
「あ、あっちの席空いてますよぉ〜」
なんて猫なで声出しやがって!どうにか追い出したい。
しかし、富山先輩の前では猫かぶっているため、あいつ単体に言わなければ自分のイメージダウンになりかねない。どうしたものかと悩みながら席に座る二人を目で追う。
(あいつぅ───!隣に座りやがった──!)
しかもなかなか席を離れないようだ。耐えられないのでもういっその事話しかけに行くことにする。
「あれぇ─?富山先輩じゃないですか!」
福原が舌打ちするのが聞こえる。同じ気持ちだよ。怒りを抑えながらあいつの方を向いた。
「あ、福原もいたんだ」
不意打ちで話しかけると予想外だったのかぽかんとアホ面を晒していた。ふはは。写真撮りたいわ。そのまま福原の隣に座る。状況が掴めない福原にほくそ笑みながら、そっと耳打ちした。

「─────⋯鼻毛でてるよ」

ばっと福原が口元を手で隠した。そのままトイレの方向を指差すと、悔しそうな顔をしながら走っていった。
嘘なんだけどね。ははは。
席が空いたので富山先輩のほうに詰めて座る。邪魔者はいなくなった。これで安寧の地は保たれた…と謎の達成感が生まれていたところ、富山先輩は急に走り去ったあいつを心配しているようだ。
「大丈夫ですよ。鼻血でも出たんじゃないですか。それより、先輩、この前言ってたおすすめの本なんですけど⋯⋯」

悪く思うなよ。最小限の働きで最大の利益を得る。それが自分のやり方なのだ───

2/13/2025, 9:07:11 AM

未来の記憶


手を伸ばした。なぜかそうしなきゃならない気がして─

ふと目が覚めるとベッドの中だった。なんだか夢を見ていたような気がするが、思い出せない。

頭はふわふわとしていたが、はっきりとした自分の意思があった。あの子のもとへ行こう。そうしなければならない。

あの子はきっと私を待ってる。私が手をさし伸ばすのを。どうして今まで躊躇していたんだろう。理由なんかいらないのに。ただ、私はあの子に笑って欲しいだけなのに。

いま、会いに行くよ。私はもう''知っている''から。

2/10/2025, 12:57:20 PM

『星に願って』


───それをもらった時、星だと思った。

(どうしよう…どうしよう…どうしよう…!)
小学一年生の立川そらは、近所でやっていた小さなお祭りに母親と来ていた。しかし、人混みの中で繋いでいた手は離れ、そらは言いようのない不安に襲われていた。
まわりは人で何も見えない。このままずっと母に会えないかもしれないという恐怖で、今にも泣き出しそうだった。そんな時だった。そらはふっと小さな手に引っ張られ、人混みを抜けた。
「だいじょうぶ?」
手を引っ張っていたのは、そらと同じくらいの女の子だった。ひらりとしたワンピースを着ており、肩で切りそろえられた髪は夜空に溶け込みそうな深い色をしていた。
驚きのあまり、何も言えなくなったそらを見て女の子はなにかを取り出し、そらの手のひらにもたせた。

「だれかが助けてくれるのを待つだけじゃだめだよ。勇気をだして」

そらは手のひらの上にあるものに視線を落とした。
初めて見るものだ。ころんとしているのに無数のとげがあって…きらきらしているように見える。
「星みたい……」

顔を上げた時にはもう女の子はいなかった。

───勇気をだして

女の子の言った言葉が反芻される。そらはぎゅっと手を結び、大きな声で母を呼んだ。

声を聞きつけた母ともう一度手を繋ぎながら、女の子にもらったものを見せた。金平糖というらしい。
そらには勇気をくれ、願いを叶えさせてくれた星のように思えていた。
その星は、眩しいぐらいに甘い味がした。

願っているだけではだめ。そうわかっていたが、そらはもう一度、あの流れ星のようなあの子に会いたいと願わずにはいられなかった。もう会えないような気がしていたけれど……。

手のひらの星はただきらきらと光っているようだった。

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