そっと伝えたい
11時。いつもの時間。この時間にあの人はやってくる。
果たして、その時はきた。うぃーんと図書館のドアが開く音がする。
(きた...!て、ハァァァン?!福原ぁぁ!?おま、なに富山先輩の隣歩いてんだ!!変われ!!)
憧れの人、富山先輩はあろうことか自分の嫌いな福原と図書館にやってきた。絶対に嫌がらせ目的である。わかりきっている。福原と目が合った。
(お前がいていい場所じゃねえ。か、え、れ、!)
アイコンタクトで話しかけてみる
福原は一瞬目をぱちくりさせたあと、ニヤッと笑って目を逸らした。
「あ、あっちの席空いてますよぉ〜」
なんて猫なで声出しやがって!どうにか追い出したい。
しかし、富山先輩の前では猫かぶっているため、あいつ単体に言わなければ自分のイメージダウンになりかねない。どうしたものかと悩みながら席に座る二人を目で追う。
(あいつぅ───!隣に座りやがった──!)
しかもなかなか席を離れないようだ。耐えられないのでもういっその事話しかけに行くことにする。
「あれぇ─?富山先輩じゃないですか!」
福原が舌打ちするのが聞こえる。同じ気持ちだよ。怒りを抑えながらあいつの方を向いた。
「あ、福原もいたんだ」
不意打ちで話しかけると予想外だったのかぽかんとアホ面を晒していた。ふはは。写真撮りたいわ。そのまま福原の隣に座る。状況が掴めない福原にほくそ笑みながら、そっと耳打ちした。
「─────⋯鼻毛でてるよ」
ばっと福原が口元を手で隠した。そのままトイレの方向を指差すと、悔しそうな顔をしながら走っていった。
嘘なんだけどね。ははは。
席が空いたので富山先輩のほうに詰めて座る。邪魔者はいなくなった。これで安寧の地は保たれた…と謎の達成感が生まれていたところ、富山先輩は急に走り去ったあいつを心配しているようだ。
「大丈夫ですよ。鼻血でも出たんじゃないですか。それより、先輩、この前言ってたおすすめの本なんですけど⋯⋯」
悪く思うなよ。最小限の働きで最大の利益を得る。それが自分のやり方なのだ───
2/14/2025, 8:15:03 AM