閉ざされた日記
20××/〇月〇日
天気が良かったから散歩に行った〜。道端に綺麗なまん丸の石が落ちてて拾って帰った!綺麗な青色で可愛いので、明日磨いて部屋にでも飾ろうかな。
20××/〇月〇日
昨日拾った石を磨いてみた!それで気づいたのが、どうやらこれは人工物で、機械の一部?みたいな感じ。光に透かしてみたらめっちゃ綺麗だったんだけど、磨きすぎたのかつるつるして落としちゃった…。ヒビが入っちゃったからショック…。
20××/〇月〇日
すごいことがわかっちゃった!!あれは、日記だったんだ…!私と同じくらいの女の子の日記!これはすごい発見かもしれない!
これは私の推測でしかないんだけど、あの青い球体は多分、未来の記録用の機械だと思う。持ち主の女の子は日記と同じ使い方をしてたみたい。使い方がよく分からなかったけど、枕元(頭の近く?)に置いて寝ようとした日に多分使えた。VRに近い感覚で、女の子とリンクしてるみたいだった。映像と音声、空気とかも感じた。あれ、どういう技術?何年後の世界かわからないけどすごいな〜。日記(ってことにする)を見た感じ、日本ではあったけど、季節が逆転してたっぽい。なんか普通に日常〜って感じだったな。今日の夜も枕元に置いてみよう。寝ながら見れたら1番いいし、そーゆー使い方かもだし。今日は最後までみる!
20××/〇月〇日
すごい体験だった。本当にびっくりしてて、上手く書けない…。あれはもう二度と使えないと思う。どうして今の時代に落ちてたのかわからないけど、あの子の日記の内容を私のノートにまとめておきたいと思う。
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××××年1月6日
友達と海に遊びに行く約束をしていた。免許を取ったばかりの友達が車で連れて行ってくれるみたいで、女の子はすごく喜んでいた。
××××年1月7日
快晴だった。海に行くのにぴったりだと女の子はウキウキで海で遊ぶ用意をしていた。10時くらいに友達が迎えに来た。車はちょっと浮いていてUFOみたいだった。
車がすごい速度で進むから、景色なんか全然見れなかった…。私は見ていて少し酔った。
海に着いて、車から降りた瞬間だった。建物で遮られていたけど、鯨が潮を吹いたみたいな、海に水の柱ができてるのが見えた。女の子の友達は「鯨が出たんだ!」って大興奮で、スマホみたいなの持って海に近づいていった。女の子も少し怖かったみたいだけど、友達についていってた。キャーみたいな悲鳴は聞こえてたけど、興奮してる人達の声だと思って誰も気にかけてなかった。違うって気づいたのは、その瞬間、地面がすっごく揺れたから。私も体験したことないほどの大きな地震だった…。──車は浮いていて、景色は見えてなかった──それで気づかなかったんだけど、移動中に既に地震は起きていたんだと思う。免許をとったばかりの女の子の友達は地震アラートに気づけなかった。乗っていた私達もだけど。それで小さな津波が生まれていたみたい。鯨だと思っていたそれは、海で遊んでいた人々を飲み込んだ津波の赤ちゃんだったの。
あとで分かったんだけど、未来の世界では地震は完全にコントロールできるものだったみたい。政府が管理していて揺れも最小限に抑えられる装置がつくられたらしい。そしてこんなイレギュラーが起きたことはしばらく無かった。つまり、女の子たちはいわゆる''地震を知らない世代''だった。海に来ていたのは若い人たちが多くて、大抵が地震を体験したことがなかった。一瞬であたりはパニックになってた。女の子は恐怖で足が動かないみたいだった。100mはありそうな海の壁が迫っているのが見えているのに、足が震えて逃げることもできない。恐怖、としかいえないけれど、そんな言葉じゃ表せないくらい怖かった…。友達が車に乗って逃げようって言ってたみたいだったけど、パニックになってた女の子は周りの声なんか聞こえてなかった。危険を感じた友達が車を出した音がした。間違ってない。自分の命が1番大事に決まってる。でも、置いていかれた女の子は絶望してた。もう助からないと思ったから。だけど、大災害に備えてシェルターがあることを女の子は思い出したの。足が動かなかったけど、その時幼なじみの男の子が女の子を担いで逃げようとしてくれた。女の子はシェルターがあるからそこに行こうといった。でも、自分を担いだままじゃ間に合わない。女の子は自分はあっちに行くから、もうひとつのシェルターに行けと男の子に言ってた。男の子は何か言いたそうな顔をしたけど、迷っている暇はなかった。女の子は力を振り絞ってシェルターに向かった。足がもつれて転びながらも、あと少しで着くところまで行けたの。後ろには波が迫ってる、ギリギリのところだった。その時、女の子の足に誰かが絡みついたの。誰かはわからない。その一瞬が命取りだった。助からないと察した女の子が青い球体を取り出して何か操作をしたの。それから、それを飲み込んでた。女の子は波に飲まれて、そこで映像は一旦途切れた。
××××年2月7日
次に見えたのは、鏡の中に映る女の子だった。違うのは、右目にあの青い球体がはめ込まれていたこと。
病院みたいなところで目を覚ました。大地震から1ヶ月経っていたみたい。
未来では、災害や事故で亡くなった場合、事前に申請していれば第二の生が受けれるらしい。脳の代わりに青い球体が記憶などを受け継いでいて、そこから情報を読み取って肉体も再現してくれるらしい。すごい技術…。女の子が波に飲まれる最後にしていたのは記憶の保存だったみたい。
女の子には一緒に暮らしていた双子の妹が一人いた。でも、女の子を迎えには来なかったな。
××××年2月8日
次の日、女の子は色々説明を受けてから自分の足で家に帰った。女の子が国に第二の生を申請していたのは、妹を一人残したくなかったからのようだった。
でも、家に帰るなり妹が言った言葉はひどいものだった。
「あんたなんか、〇〇じゃない!私に近づかないで!!」
その日妹は部屋にこもって出てこなかった。
××××年2月9日
女の子はあんな態度を取られたのに、妹に根気強く話しかけに言ってた。リンクしてたからわかるけど、女の子自体、自分が自分じゃないみたいな葛藤と戦ってた。妹には明るく接してたけど、部屋でこっそり泣いてたのを知ってるから、正直私は妹に腹が立ってた。あんたのためにこの子は帰ってきたのよって代わりに怒鳴ってやりたかった。
××××年?月??日
そこから日付が飛んでた。多分私が落としてヒビを入れちゃったから…。
そこからあの子がどうやって立ち直ったのか、私にはわからない。ただ、最後に見た時あの子の周りは人で溢れてた。
津波の時、車に乗って逃げた友達や、第二の生を受けた友達とはギクシャクしたはずだし、亡くなった友達もいたと思う。なのに、あの子は……。
鏡を見てあの子は、ありがとうって言ってた。
気のせい、気のせいだと思うけど、私に言ってたみたいだったな……。
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あの子は、未体験の恐怖にも、孤独にも負けない強さを持ってた。
閉ざした心の中ではたくさんの傷があると思う。でも、それを見せない。
私が、あの子が閉ざしていた日記を勝手に見てしまったけど、これもきっとなにかの運命だったと思う。
起きた時、私はなぜか泣いてた。理由はわからない。
でも、あの子に会いたいなぁ、そう思った。
時代も違うし、私が一方的に知っているだけだけど、あの子の力になりたかった。
一方的にじゃなくて、互いにリンクできたらいいのに…。
私はヒビの入った青い球体を手に取り、まじまじと見つめた。
この世界は
「椛さぁ〜ん、ご飯ができましたよ〜。」
管理人さんの声がする。いい匂い…今日は炊き込みご飯かな?
「はーい、今行きます!」
家を出て彷徨っていた私を受け入れ、温かいご飯をくれた管理人さん。私は今、民宿「ぽんすけ」でお世話になっている。事の発端は2週間前──
ぐぅぅぅぅきゅるるるる……
「お、お腹空いたぁ…。死んでしまう…。」
スーツケースをゴロゴロ引きながら、私は行く宛てもなく彷徨っていた。昔から運が悪い方ではあったけど、財布を落とすなんて…。おかげで交通機関は使えないし、ご飯は買えないし…!!空腹は限界を迎えている。
「もう、だめだぁ…。」
目の前が真っ白になって、私の意識はぷつんと途切れた。
ふわっと出汁の香りに釣られて目を覚ました。
「いい匂い…」
って、あれ?布団で寝てる…?そんで、ここどこよ?
ガバッと起き上がり、あたりをキョロキョロ見回す。古そうだが掃除の行き届いた和室だ…。なんか落ち着くなぁ。ん?障子の向こう側に人影が見える。
「あの、そこに誰かいますか?」
人影がビクッと動いた。おそるおそるといった様子で障子が開けられる。おっとりとした垂れ目が優しそうな印象を持たせる少しふくよかな若い男性だった。手に持ったお盆からいい匂いがしてくる。
その人はその場で座り込むと、私の方へお盆を寄せた。お盆にはほかほかと湯気をたてるご飯とお味噌汁、漬物や煮物なんかが載せられていた。
「美味しそう…!」
ぐぅぅぅぅきゅるる…。
「ふふ、どうぞ、食べていいよ。」
うう、お腹の音笑われちゃった…。
「あ、ありがとうございます…いただきます…。」
恥ずかしい気持ちはあるが、こんなに美味しそうなご飯、逃せない…!バッと箸を掴んで味噌汁から口に入れた。
「美味しい〜っ!」
美味しすぎて涙が出そう…空腹に味噌汁…効くなぁ。
ガッガッとご飯を食べ進める私を、男の人はにこにこと微笑みながら見守っていた。
「ご馳走様でした!」
「良い食べっぷりでしたね。」
「とても美味しかったです…!!本当にありがとうございます。ところで、ここはどこであなたは誰ですか?」
「当然の疑問ですね。ここは民宿ぽんすけで、私は管理人をやっています。あなたはここの前で倒れていたので私がここに運ばせて頂きました。一日一善、誰かのためにが私の信条です。」
ふふんという音が聞こえてきそう。素敵な人だな。…それになんだか面白い人だ。
「管理人さん、この恩は忘れません。何か返したいのですが、あいにく財布を落としてしまってお金が払えないんです。良ければここでタダ働きさせて頂けませんか?」
「そんなそんな、私が勝手にした事ですからお礼などは結構ですよ。しかし…財布を落とされたとは…。うーん…。良ければ、ここで短期で働いてみませんか?お給料は出させてもらいますし、部屋も使ってもらって大丈夫ですので。お金がないとどこに行くにも不便でしょうし。」
「い、いいんですか?!」
「ただ、ここに泊まっている方々は個性が強くってですね…少々手を焼くかもしれません。アルバイトの方を探しているんですが、なかなか定着しないんです。私も働き手が増えると有難いですよ。無理のない範囲でかまいません。よろしくお願いしますね。」
私って、運がいいかも……!なんて優しい世界…この世界と運命に感謝します……!
「まかせてください!」
tiny love
ざっざっ…誰もが振り向くような美少女は、白く絹のような肌を引っかき傷でぼろぼろにし、そんな体とは反対にスッキリとした顔をしていた。
(痛いわね)
ふっと思い出してつい笑い声が漏れた。生まれて初めて、他人と喧嘩をした。情けなくて、みっともなくて、とても見られたものじゃなかったけれど、不思議と嫌な気持ちは残っていない…。むしろほのかな高揚感と達成感のようなものに包まれ意外と心地よい。自分の中の負の感情を、あんなにも人にぶつけられるなんて。初めて自分が信じられなかった…。
数時間前──⋯
『そんな、私の方こそいつもだめだめで…』
この子はまたこんなふうに自分を卑下する…!どうしてわからないの、こんなにも才に溢れているというのに!
「よしてちょうだい!」
私は貴女のそういうところが……!
バシッ!
頬を叩かれたあの子の目は見開かれたまま。そのまま、ここから去ってちょうだい…。私の醜い劣等感が出てきてしまう前に………!
だけどそんな私の願いなどおかまいなしに、あの子は予想外に動いた。
ひゅっという音がしたかと思うと──バシッ!
あの子は、私の頬を叩き返した…!
「なにするのよ!」
『先にやったのはそっちじゃない!』
そこからはもう止められなかった。お互いにお互いを罵りながら叩いて、殴って、髪を引っ張りあって…もし別の誰かが見ていたら、正気を疑われたでしょうね。息も切れてきて、頭が冷えてきたころにあの子が言ったの。
『あなたがそんな人だったなんて』
あの感情をどう表したらいいかわからない。勝手に理想押しつけないでと腹が立った気もするし、なんだか悲しかった気もする。でも、それ以上に続けた言葉が胸に残った。
『あなたの本性を知ってるのは私だけでしょ』
にやっと笑った顔が悪人のようで、私は共犯者になったみたいにふっと返してみせた。
顔を見合せて、同時に吹き出した。
ああ、喧嘩ってこうするのね。
本心を吐き出したら、負けたくないと焦っていた気持ちはどこかへ行ってしまったようだ。
私とこの子は違うと…敵同士であるように思っていた。けれど、違った。私たちは確かに違うけれど、敵ではなく好敵手同士なんだわ。この時、気づいた。私の心の99%はこの子への闘争心かもしれない。けれど1%くらいは……きっと、愛と呼べるもの。
(私の1番近くにいるのは…貴女よ。そして──貴女の1番近くにいるのも、私よ)
馴れ合ったりなんか、しないわ。私は私の、あの子はあの子の道を行く。
家へ戻る帰り道。痛む傷はふたりだけの秘密。
消えない焔
「いい加減やめたら?」
何度言われたことだろうか。やめられるならとっくにやめている。
「女の幸せ捨ててんじゃん」
なんだそれ。女の幸せって、誰が決めたの?私は、私は今幸せだ…しあわせ……そう思いたいだけかもしれない。だけど、自分で望んでこの場にいるんだから。自分がやりたいと思ったことを続けているんだから。
『いい加減やめたら?』
やめない。だってまだ、私の中で情熱が燻っている。焦りも不安も…孤独も、全て燃料にしてしまえ。
燃えろ。燃えろ。
消えてしまったら、私が無くなる気がするから────誰かが言う。
焦げついた跡に執着してるだけだろうと。もう、消えている、と。
幻想と心中したっていい。むしろそうなら、この身を動かす熱はもう消えないじゃないか。
まだ知らない世界
ウィーンと開いたドアに、いざと覚悟を決め1歩踏み込む。その先に広がる世界にアイサはたまらず声を上げた。
「──⋯っ!!広ぉ!!」
集まっていた数百人のうち何人かがこちらをちわりと見てきた。あんぐりと空いた口をはっとふさぎ、気を引き締める。待っていたかのようにタイミングよく放送が鳴る。知らない男の声がホールに響いた。
『勇敢なる者たちよ。今からきみたちにはこのショッピングモールで'あるもの'を探してもらう。期限は誰かがそれを購入するまで。購入者には…今更何を得られるかなど説明するまでもないな。では、健闘を祈る』
(けっ。なーにがショッピングモールだって?こりゃジャングルのが近いだろーが)
アイサは心の中で悪態をついた。特別なショッピングモール─ここでは商品は綺麗に陳列されてなどいない。動き回っているのだ。通路などあってないようなもの、看板ですらデタラメで言語になっていないものもある。また、1度入ってしまえば何かを買わねば出られない。しかもそれは指定制であり、現在その権限を持っているのがあの放送していた男のようなのである。指定された商品はいくつあるかわからない。つまり何人が外に出られるかなどわからないのだ。1度入れば出られない…そんな危険をおかしてまで年若いアイサがこのショッピングモールに挑む理由は、妹の存在であった。
アイサの妹、シイラは去年の今頃このショッピングモールに挑んだ。そして購入者になれず、このショッピングモールに閉じ込められてしまったのだ。シイラがなぜこのショッピングモールにきたのか、アイサは何も知らない。しかしただ1人の妹シイラを助けたい一心でここまで来た。購入者にはいくつか特典がある。そのうちのひとつ、ショッピングモールからなんでもひとつ持って出てよいという特典にアイサは飛びついたのだった。ショッピングモールでの買い物はいつでもできるわけではない。今回を逃せばシイラを助けるのがまた遅くなってしまう。アイサには絶対に負けられない理由があった。
(シイラ、絶対に姉ちゃんが助けるからな…!)
シイラがまだ生きている保証など無いが、単細胞なアイサの頭の中にはシイラが既に死んでいる可能性など1ミリも存在していなかった。
ついに始まったショッピングモールでの買い物。妨害行為などは特に禁止されていないが、ショッピングモール内を故意に汚すことは御法度である。逆に言えば血などが出なければいいのだから、ライバルを減らそうとする者も少なくない。若い女性であるアイサは真っ先にターゲットにされた。しかしアイサには恐れる様子もない。それもそのはず。アイサにとってこの程度のモブは障害にすらならない。アイサの''味方''の力の前では。
味方の力──アイサにはある特別な力がある。それは、手のひらを見せた相手が自分の味方になる力である。アイサは知らないようだが、アイサは桃太郎の加護を受けていた。この力は自分と向き合ったものすべてに効果がある。
「襲いかかったりしてすいません」
「心入れ替えてアイサさんの力になりやすぜ」
「お供させてくだせぇ」
アイサに襲いかかった者たちはこの通り味方の力に抗えず、アイサのもとについた。
「いいよ、アタシは味方は大切にする主義だからね」
その様子を影で見ていた者たちがいた。敵か味方か…。アイサの買い物は始まったばかりである。