「雪を待つ」
今年も残すところ後わずか、暖冬のせいか厳しい寒さも無く毎日が慌ただしく過ぎ去っていく。
この季節には必ずと言っていい程降り積もる雪も今年はまだ積もる事もないそうで、実家からは今年こそは年末年始は帰省せよと連絡までくる次第だ。
雪を見るとあの頃を思い出し
故郷に帰ると今はもう居ない貴女の影を探してしまう。
帰らない日々、還らない人
私はそれに耐えきれず都会に出て来たというのに。
そんなことを考えながら帰り道、ふと見上げると今年も降ってきた。
今年はだいぶとお寝坊さんだったね。
待ってたよ、ゆき…そうポツリと呟き涙が溢れた。
今年も仕事が忙しくて帰れそうに無いと連絡を入れ、俯きながら帰宅する。
「逆さま」
私と貴女はまるで正反対
産まれるまでは同一だったはずなのに
出てきた瞬間から貴女は愛されて
私は忌み嫌われた
それでも貴女だけは私を愛してくれた
母様からも父様からも空気として扱われる私を貴女だけが認識してくれた。
だけどそんな日々も続くはずもなく突如として忌み嫌われた日々は終わりを告げる
私が貴女を…
唯一私を愛してくれた貴女を落とした
暗いくらい井戸の底
貴女は何も言わずに、ただ笑顔で真っ逆さまに落ちていった
私はその日から貴女になった
だけど、貴女は愛されてなんかなかった
私は貴女に守られていた事を知った。
貴女はこの狂った家から逃げられるのが嬉しかったのか
私は今日も愛される
醜い奴等に貴女の代わりとして
「理想郷」
この世界は実につまらない
そう思って生きてきた30年、夢も何も無い。
ただただ社会の歯車として生きる日々
そんな日々の中で、私はついに見つけてしまった。
何処に続くのかわからない扉、ここを開けたら何があるのか
仕事帰りにたまたま目に入ったお店、こんなところにあったかなと勇気を振り絞って扉を開けてみた。
中にはたくさんの雑貨で埋め尽くされていた
懐かしいものから見たことないものまで、それは私が久しく感じてることのなかったワクワクする気持ちが溢れ、不思議と童心に帰ったようなそんなひと時を過ごすことができた。
何点か手に取りレジに行くと、ようこそ理想郷へ、お目当ての品はありましたかな?と老父がニヤリと笑った。
そして、商品を受け取りクスッと笑ってしまった。
あぁ、またこの理想郷に遊びにこよう。
そう思い、足取り軽く家路に着いたのだった。
「懐かしく思うこと」
ふわっと何処からか香る金木犀の香り
今年ももう秋か…
あの頃と何一つ変わらない景色と匂い、なのに私達はどんどん変わっていってしまった。
最近ではお互いに忙しく、同じ家に住んでるはずなのに顔を合わす事もすくなくなってしまった。
初めて出会った時も、告白して付き合う事になった時も金木犀が咲いてたっけな
あの頃みたいにまた2人で笑って過ごしたいな
そんなこと考えながらトボトボと歩いていたらふと花屋が目に入った。
こんなところにあったかな?と思い見ていたら店の中から、お姉さん、よかったら見ていきませんか?と声が聞こえた。
他に客もいないみたいでどうぞどうぞとそのまま店の中まで招かれ、あれよあれよと言う間に花束を勧められていたのだ。
どんな花が好きですかと聞かれても花なんて、実はこれっぽっちもわからずキョロキョロしていたら、何処からか金木犀の香りがした。
あの花でも花束って作れるんですか?あまり大きくないのがいいんですけど…
店員さんは優しく微笑み返してくれた。
今日はなんだか金木犀の花束が人気ですねと言いながらいろいろな花や草などと組み合わせてあっという間に可愛らしい花束が完成した。
それを、もって家に着くと、珍しく部屋の明かりがついていた。
私は嬉しくなってただいまと笑顔で帰宅すると、なんと数日ぶりに顔を合わせたはずなのに、同じ花束を手に持ち、まさに飾ろうと花瓶を出している彼女とぱちりと目が合い、彼女が驚いた顔で照れくさそうにおかえりといってくれた。
しばらくすれ違いの日々が続いていたのに、2人とも同じこと考えてたねと笑いあい、たまらず彼女を抱きしめた。
花束のおかげか、金木犀の香りと共に懐かしい思い出を語り合い、変わってしまったと思ってた懐かしい笑顔が今も変わらずそこにある事が実感できた。
「もう一つの物語」
いつも物語の最後は悪役をやっつけて終わりだけど、私はいつからか、それに納得ができなくなり、自分でハッピーエンドの裏側を考えては満足していた。
オオカミさんが狩人にやっつけられて、その後奇跡的に下流で助けられて、更生していく赤ずきんの狼の物語など。
1人作ってはみんな幸せの未来を作り満足する。
私なりの童話の楽しみ方。
今日は誰を助けようかな!
本編とは別のもう一つの物語、私だけのハッピーエンド。