泡藤こもん

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8/16/2023, 4:40:57 PM

とりあえず、今、息をしている。
深く深く、腹の底から息を吐き出す。
周りから褒められることをした訳では無いし、反対に幾人もに被害を及ぼすような甚大な失敗をした訳でも無い。何も無く、ただ疲労を背負い込んだだけの一日だった。
だが、ああ。今ここで自分は息をしている。
この厭世観に、この疲労感に、この自己嫌悪に別れを告げずに不思議とここに立っている。
楽な方へ、易きに流れてばかりの自分が、何故か不思議とそうとは選ばずに、ここに居る。
「⋯⋯あ、明日、漫画の最終回だっけ」
ただ生きているだけの自分を、自分だけは、褒めてやりたい。

8/15/2023, 7:19:52 PM

どぉーん、と、音はどこにも引っかからずに真っ直ぐ響いた。
月の無い夜だった。風もほとんど無くて、まとわりつく湿気がぺたぺたと肌にシャツの袖を引っ付けた。
真っ暗闇の中、手元をスマホのライトで照らしながら、見るからに安っぽい色のライターを握り締めていた。爪の先まで光っていた。
華奢な指先だと中々ライターが灯せなくて、「やろうか」「いいよ」と押し問答しながらどうにかこうにか。
しゅぽ、と軽い音を立てて導火線に火がついて、すぐさま背を向けて暗闇の中へ駆け出していく。距離をとる。
安っぽくて、ちゃちくって、おもちゃみたいで。花火大会のなんかとは比べ物にならないほどちっぽけな私たちの打ち上げ花火は、それでも二人分の財布を空っぽにするくらいの値段がした。
ぱっとたんぽぽくらいの小輪の花が咲いて、光って、真っ暗な海に散っていく。
ずっとずっと、訳も分からないくらいに楽しくて仕方が無くて、私たちはずーっと、けたたましく笑い声を咲かせていた。

8/9/2023, 4:33:05 AM

フォロワーとオフ会したら人じゃないものだったら良い。
エイリアンとか、不定形生命体とか、名状しがたいものでも別に構わないのだけど、「あんり(HN)さんって、その、ご種族は⋯⋯?」「♯*★♪♡'〉です」って発音出来ないものだとお互い気まずいから、出来れば地球上の生命体の、トカゲとか、トガリネズミとかだと良い。
「え〜、映雑賦(HN)さんが言ってた上司ってギラファノコギリクワガタなんですかー!」「そうなんですよー」「どこも横暴な人がいるものですねぇ」「そうですね、まぁうちの上司は人じゃないですけど(笑)」みたいなやり取りをしたい。
人じゃないものなら、なんでもいい。
蝶でも、花でも、プランクトンでも、何でもいい。
私の疎外感にほんの少し寄り添ってくれた貴方が人じゃないなら、私もほんのり人じゃないのかなって、空虚感に疑問符を詰め込んで埋めてしまいたい。

8/6/2023, 2:35:48 PM

眩しいな、と思ったのが第一印象だった。
色を抜いた髪に、色素の薄い肌。同じく他より色素の淡い瞳に、真っ白な歯がきらりと光る。
「よろしく」
なんて差し出された手を、「お近付きにはなりたくないな」と内心思いながら、愛想笑いで握り返した。

「それなら、今はどう思ってるワケ?」
ひとつの布団の中で、高い体温でまとわりつきながら、いつもの歯を見せる笑顔を見せてくる。
「……きみがいないと生きていけない」
ぎゅううっときつく抱きしめられて、
「だから、近すぎ!暑苦しい!!」
と抗議の声だけはきっちり上げておいた。

8/5/2023, 6:10:10 AM

「貴方と、なら」
向かい合う彼女にそう微笑まれて​────吐き気がした。
取るに足りない小さな出来事であっても、傍にいる誰かと共有することで大事な思い出になる。そのことは、十分に分かっている。知っている。
だが、その「つまらなさ」「楽しさ」「大切さ」の判断基準を一方的に押し付けてくるのは​────違うだろう?
私は、貴女と行くレストランも、結婚式場の下見も、ドレスブティックも、どれも楽しくは無かったよ。
貴女が頬を赤らめる度、瞳を輝かせる度、ちらとでも顔をこちらに向けて、私の淀んだ瞳に気付いてくれないものかと願っていたよ。

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