バスクララ

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2/6/2026, 3:57:37 PM

「なあ君。私はどうしてこんな口調なんだ?」
「……何かの哲学ですか?」
「いや、そういうわけではないのだが……」
 むーっと頭を抱えて先輩が眉間にシワを寄せる。
 こんなの先輩らしくない。おかしい。
 先輩は明るく快活で竹を割ったような性格で裏表が全くないけど人の話を聞かないし、興味のあることにまっしぐら。やると決めたことにはすぐに取りかかるけどそれ以外のことは全然なのだ。
 こんな何かに悶々と悩んでじっくり考える先輩なんて、見たことがない。
 先週二日も休んだりしてたけど、その前から何かあったのかもしれない。
 忘れていたことを思い出したとか言ってたけど、それが原因とか……?
「……口調というのはその人の環境や気質もあるが、何よりも感銘を受けたものに影響されやすい。
中二病とかその最たる例だな。
……私の周りにいたのか? それか私が忘れているだけでこれまで呼んだ本にあったのか……?」
 ものすごく難しそうな顔をしてブツブツ言う先輩に何と声をかけたら良いかわからなくて、でも何も手につかなくて。
 先輩の独り言と時計の針の音だけが部室に響く。
「なぜだ!!」
 急に先輩がそう叫びながら頭を机に打ちつける。
 突然なことに呆気にとられていたけど、何度もゴンゴンと叩きつけるのを見て、やっと思考が追いついた。
「先輩っ! 何してるんですか!?」
 乱心した先輩を羽交い締めにして、どうにか止める。
 でも先輩は力ずくで私から離れて、今まで見せたことのない涙に濡れた顔を見せた。
「わからない、わからないんだ!!
大切なことがあったはずなんだ! 私に多大なる影響を与えたはずの何かが!
だって! 私は一年の時文芸部なんかに興味なかった!
なのに二年になって、なんでこの部を無くさないように奔走したんだ!?
口調だってこんなんじゃなかった! もっと普通の話し方をしてたんだ!
私は……私は何を忘れたんだ!?
わからない……わからなくてどうにかなりそうなんだ!
ねえ、助けて……お願い……!」
 そう言って泣き崩れた先輩を慌てて受け止める。
 ボロボロと大粒の涙を流している先輩にいつもの姿はない。
 それにすごく胸が締め付けられる思いがして、苦しくなる。
「……先輩。まずは一旦落ち着きましょう。
それから保健室に行って絆創膏貰いましょうか。
おでこに血が滲んでますから」
「……うん」
 先輩がここまで取り乱すなんて、いったい何を忘れたんだろう? 過去に何があったんだろう?
 だけどそれを一番知りたいのは紛れもなく先輩自身だ。だから私は出来ることをできるだけやろう。
 そう静かな決意を固めながら私は先輩を抱きしめていた。

【いつか見た花 4/10】

2/5/2026, 2:01:28 PM

今日は祖母の一周忌だった。
あれから一年経ったのか、と時の速さに少々驚く。
訃報を聴いた時は溢れる気持ちを抑えることが出来ずにただただ涙を流していた。
今は多少我慢できるようになったが、やはり祖母の事を思うと鼻の奥がツンとして泣きたい気持ちになる。
だけど泣いてはいけない。心配させるわけにはいかないから。
……それでもやっぱり、寂しい。
まだまだたくさんお喋りしたかった。相談もしたかった。また一緒にお茶したかった。
来年もきっと同じような感情を抱いて、ここに思いを吐き出すのだろう。
別に共感してくれなくてもいい。無理に評価してくれなくてもいい。
明日はなんとなく続いている連作の続きを書く予定だ。
通しで見ている方にはこの投稿がノイズとなってしまうが、どうか許してほしい。
あなたにとってはなんでもない日でも、私にとってどうしようもなく特別な日なのだから。

2/4/2026, 1:48:02 PM

「やあ君、いいところに! ちょっとこれを見てくれ」
 昨日と一昨日と学校を休んでいた先輩が、何事も無かったかのように私を手招きしてきた。
 私は呆れたやら心配して損したやら安堵したやら、いろんな思いが胸を駆け巡り、なんかどっと疲れた気分になった。
「……何してたんですか」
 ただそれだけを言うと、先輩は首を傾げてさも当たり前のように答えた。
「学校をサボっていたぞ? 考えたいことや調べたいことがあったからな」
「よく親が許しましたね……」
「体調悪いと言ったからな。自分で言うのもなんだが私は風邪を引いたことがほぼなくてな、親が一も二もなく休ませてくれたぞ。
実際頭が痛かったから体調悪いのは嘘ではなかったし、まあ大目に見てくれ!」
「別に怒ってませんよ……
で、何ですか?」
 机の上に広げられていたそれは綴じられた原稿用紙の束だった。別段変わったところは無さそうに見えるけど、先輩が手招きするくらいだから何かあるのだろう。
「見たまえ」
 先輩が一番最後のページを開く。そこにはリンドウの押し花と誰かのKissマークがあった。
 押し花はともかく、Kissマークが異質すぎて思わず小さな悲鳴をあげてしまった。
「な、なんですか、これ……」
「わからない。私にはこれを作った記憶も、誰かから貰った記憶もない。
まるっきり謎の存在なんだ」
「え……まさか、呪いのアイテムとか……?」
「いや、そういう気配は一切ない。
むしろ……違和感を抱くことに特化した物のような……?」
 先輩はアゴに手を当て、むむむと考え込む。
 でもすぐにバッと顔を上げて「わからん!」と叫んだ。
「仕方がないから運動だ! ラジオ体操第一をするぞ!」
 そう言ってすぐにラジオ体操の曲を口ずさみながら背伸びの運動を始める先輩。
 ……なんというか、これぞ先輩だなあ……
 そんなことを思いながら私は図書室で借りた本を読み始めるのだった。

【いつか見た花 3/10】

2/3/2026, 3:47:27 PM

「問おう。なぜ君は小説を書く?」
 部室に来て早々、腕を組んで真剣な顔をした先輩が仁王立ちで私にそう訊いてきた。
 その目はしっかりと私を見据えていて、まるで猛禽類のように鋭い。威圧感もたっぷりで思わず後ずさりしてしまった程だ。
 変な返答したらどうなるかわからない。そう直感した私はしっかり考えてから言葉を出す。
「……私の書いた小説で誰かが楽しんでくれたら嬉しいからです」
「ほう。それは1000年先も楽しめるようなものか?」
「……それは、さすがに……」
「弱気になるな!」
 いきなりの大声に体がビクッと跳ねた。
 しかし先輩はお構いなしに言葉を続ける。
「自信を持て! せっかくの才能を自分が信じないでどうする!
胸を張れ! 自分の書いた文は未来永劫語り継がれるものになるのだと!
君なら成し遂げられる!」
 ドン! という漫画の効果音が付きそうな威勢のいい声が部室に響き渡った。
 てっきり怒られると思ったけど、これは……褒められてるのかな……?
「……ありがとう、ございます……?
でもなんで急にそんなことを……?」
 戸惑いながらそう訊くと、先輩は少しバツの悪そうな顔をしてこう答えた。
「……忘れていたことを少し思い出しただけさ。
すまない、今日は早引きさせてもらうよ」
 そう言い終わるとすぐに先輩はカバンを持って私の横をすり抜ける。
 あまりにも突然だったから引き止める暇もなかった。
 一人残された私はしばらく呆然としてたけど、このまま小説を書く気分になれなかったから私も家に帰った。
 明日になればいつもの先輩になるだろうと思っていた。だけど、次の日、その次の日も先輩は部室に現れることはなかった。

【いつか見た花 2/10】

2/2/2026, 2:59:51 PM

「勿忘草の花言葉は『私を忘れないで』……人間って時々ド直球で適当な花言葉を考えるよねえ。
まあ君が彼らに贈った花は竜胆だったけどさ」
「……私の名前の由来にもなった花だ。彼らもそれをわかっていたから、記憶のトリガーになればいいと願いを込めたのだが……」
「あはっ、ほとんど意味なかったよね!
あ、そうそう気になってたんだけど、人はどうしたって忘れる生き物なのにどうして忘れることが前もってわかったらあんなにも拒否反応を起こすの?」
「……おそらく、そこまでに得た知識、経験、思い出が全て無に帰す気がするからではないだろうか。
人は無意味なことを嫌う傾向にあるから」
「ふーん、そういうものか。
まあ君も無駄な足掻きをしてたけどね。
散々人に忘れるな忘れるな言っていたのに結局忘れ去られてさ!
あはははっ! 今思い出しても笑える! 人間ってやっぱり口だけなんだよね!
でもあの魔女が出しゃばらなかったらみーんな君のこと忘れてたのに、余計なことしてくれてさあ。
ほんと、やんなっちゃう」
「……心にも思ってないくせに」
「あ、バレた?
そうだよ。彼らの下した選択、決断にこの僕が嫌になることはない。
面白可笑しく見守って時々ちょっかいをかけるだけだよ。君たちの物語をね」
「……悪魔め」
「ひどいなあ。創造神さまって呼んでよ」

【いつか見た花 1/10】

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