バスクララ

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「なあ君。私はどうしてこんな口調なんだ?」
「……何かの哲学ですか?」
「いや、そういうわけではないのだが……」
 むーっと頭を抱えて先輩が眉間にシワを寄せる。
 こんなの先輩らしくない。おかしい。
 先輩は明るく快活で竹を割ったような性格で裏表が全くないけど人の話を聞かないし、興味のあることにまっしぐら。やると決めたことにはすぐに取りかかるけどそれ以外のことは全然なのだ。
 こんな何かに悶々と悩んでじっくり考える先輩なんて、見たことがない。
 先週二日も休んだりしてたけど、その前から何かあったのかもしれない。
 忘れていたことを思い出したとか言ってたけど、それが原因とか……?
「……口調というのはその人の環境や気質もあるが、何よりも感銘を受けたものに影響されやすい。
中二病とかその最たる例だな。
……私の周りにいたのか? それか私が忘れているだけでこれまで呼んだ本にあったのか……?」
 ものすごく難しそうな顔をしてブツブツ言う先輩に何と声をかけたら良いかわからなくて、でも何も手につかなくて。
 先輩の独り言と時計の針の音だけが部室に響く。
「なぜだ!!」
 急に先輩がそう叫びながら頭を机に打ちつける。
 突然なことに呆気にとられていたけど、何度もゴンゴンと叩きつけるのを見て、やっと思考が追いついた。
「先輩っ! 何してるんですか!?」
 乱心した先輩を羽交い締めにして、どうにか止める。
 でも先輩は力ずくで私から離れて、今まで見せたことのない涙に濡れた顔を見せた。
「わからない、わからないんだ!!
大切なことがあったはずなんだ! 私に多大なる影響を与えたはずの何かが!
だって! 私は一年の時文芸部なんかに興味なかった!
なのに二年になって、なんでこの部を無くさないように奔走したんだ!?
口調だってこんなんじゃなかった! もっと普通の話し方をしてたんだ!
私は……私は何を忘れたんだ!?
わからない……わからなくてどうにかなりそうなんだ!
ねえ、助けて……お願い……!」
 そう言って泣き崩れた先輩を慌てて受け止める。
 ボロボロと大粒の涙を流している先輩にいつもの姿はない。
 それにすごく胸が締め付けられる思いがして、苦しくなる。
「……先輩。まずは一旦落ち着きましょう。
それから保健室に行って絆創膏貰いましょうか。
おでこに血が滲んでますから」
「……うん」
 先輩がここまで取り乱すなんて、いったい何を忘れたんだろう? 過去に何があったんだろう?
 だけどそれを一番知りたいのは紛れもなく先輩自身だ。だから私は出来ることをできるだけやろう。
 そう静かな決意を固めながら私は先輩を抱きしめていた。

2/6/2026, 3:57:37 PM