旅は楽しいものだけど、それだけでもない。
辛い出来事や悲しい別れもあれば、小躍りしてしまいそうなほどに嬉しい便りやつい笑ってしまうくらいにほほえましい場面に遭遇することもある。
それらをひっくるめて旅の醍醐味とも言うのだろうけど、俺はそんな言葉で片付けたくない。
俺にとって旅とは日常であり人生のスパイスだ。……とか言うとチープでありきたり過ぎるとか言われると思うが、実際そう感じているのだから仕方がない。
帰る故郷もない、待ってる人もいない根無し草の俺にできることは精々旅を続けることだけ。
いつかどこかの町か村かに腰を落ち着けることもあるだろうが、今しばらくはこのままがいい。
……ああ、汽笛が聞こえる。船が来たんだな。
さあ行こうか。まだ見ぬ景色を見るために。
水たまりに映る空の色は青色だったりオレンジ色だったり灰色だったり黒色だったりと様々。
いろんな色を映し出す水たまりだけど、一番長く映し出している色は青と黒どっちだろう?
夏は青色な気がするけど、冬は黒色な気もする。
気にはなるけど、一年中存在する水たまりを探す方が大変そうだから調べるのはやめておこう。
それと人工的に水たまりを作るのは水道代も水ももったいないからやめておこう。
ずっと気になってる人がいる。
その人の為ならば、あたしはどんなことだってやってやる。
あの人の幸せや笑顔を守るためなら誰かを傷つけることも、普通ならやってはいけない悪いこともやる覚悟はできている。
だけど今はできない。あの人に気づかれてしまうから。
だからいつかきっと、あたしのウデに磨きがかかって誰にも気取られないようになったら、あたしはあの人の影になってあの人を守る。そう決めてるの。
この感情は恋か、愛か、それとも執着かはどうでもいい。
あたしはあたしのやりたいことをやる。
それだけでいいじゃない。
「何かあったら絶対におれさまが駆け付ける!
何もなくてもお前が死ぬ前には駆け付ける!
男と男の約束だ!」
声高に宣言する幼子に我は心の中でため息を吐く。
我はドラゴンで幼子は人間だ。種族も寿命も違い過ぎる。
我に何かあったとしてもこやつが生きているかどうか……
だが幼子の思いを無下にはしたくない。
「……ならばその時は存分にぬしを頼るとしようぞ」
「おう! おれさまにどーんと任せとけ!
いいか、忘れんなよ! 約束だぞ!」
ドンと自分の胸を叩く幼子に頼もしさを覚えると同時に、この約束は果たされることはないのだろうなと諦めが胸中に漂う。
……そして案の定と言うべきか、我に何もなく時が過ぎ、千年ほど経った。
我も年老いてしまい、天寿を全うする日が近づいてきた。
だがあやつは来ない。千年も生きる人間など聞いたことがない。
「あの大嘘つきめ……」
「だ〜れが大嘘つきだって?」
その声の方を見ると、約束したあの日と変わらぬ姿の幼子がいた。
まさかそんなはずは! と驚いていると幼子は得意げに笑って腰に手を当てた。
「そんな驚いた顔すんなよ。おれさまを誰だと思ってるんだ。
約束しただろ? 死ぬ前には駆け付けるって。
つーかドラゴンの人生……竜生? って案外平凡なんだな。危機も何も起こらないなんてな!」
「……ドラゴンを何だと思っておるのだ」
「んー……孤高の生き物?」
「ふっ、わかっておるではないか」
我らは笑った。久方ぶりにふたりで笑った。
積もる話はたくさんある。我の命が尽きるまで語り合ってもおそらく誰も咎めはしないだろう。
……しかし、なぜこやつが今も生きておるのか?
気にはなるが……それは聞くだけ野暮と言うものだろうな。
雨の中の相合傘は互いの声がとても綺麗に聞こえている……らしい。
嘘か本当かわからないけど、僕は本当だと信じてる。
いつもかわいい彼女の声がいつもよりもクリアに聞こえて、より魅力的な声になっているんだから!
ということは僕の声もいつもより良く聞こえているのかな……?
そう思って彼女の耳元である言葉を囁いてみたら、彼女はみるみるうちに顔を赤くして「もうっ!」と怒ったけど満更でもない顔をした。
……僕が何を囁いたのかは、まあ、傘の中の秘密ってことで。