小さな小さな箱庭の庭を作り上げて、手のひらに乗せて眺めてみる。
枯山水に苔むした石灯籠、松の木とししおどしも配置したザ・和風の庭。
思いつくまま、思いのまま、私の好きを詰め込んだその庭は一つの空間だ。
手のひらの宇宙とまではいかないけど、それに近くはなったんじゃないかな。
さすがにその感想は自画自賛かな。手前味噌かな。
……まあでも私が創造したのだからそれくらい思ってもいいよね。
しっかり持ってたはずなのに……
風のせいで買い物メモがどっか飛んでっちゃった……
絵に描いたような風のいたずらだ……
こういう時のためにやっぱスマホにメモっとけば良かったのかなあ……
でも、そういうのは書いておきたいし、書いてあるのを見たいんだよねえ……我ながらアナログ人間だとは思うけど。
しかし、こういう自分の不注意を何かのせいにしたがるのも人間あるあるなんだろうかねえ。
とある魔法少女ものに出てきた白いかわいい宇宙生物も似たようなこと言ってたような気がするし。
……はあ。嘆いていても仕方ないし、記憶を頼りに買い物を遂行しようかね。
お味噌とお肉とお野菜にドーナツ、それから……何だっけ。
忘れちゃった。
その涙にどんな感情が込められているのだろうか。
彼女の目から流れる透明な涙を見て思った。
おおよそ百年前、彼女は魔女の呪いによって物言わぬ石像と化した。
生きているのかそれとも本当の石像となってしまったのか、それは呪いをかけた魔女にしかわからない。
しかし、こうして涙を流しているということは呪いが解けかかっているということだろう。
……まったく、今まで何人にこの呪いをかけただろうかねぇ。
擬似的な不老長寿を目指して開発した呪いは、人生をやり直したい人の救世主と化していた。
自分のことを知っている人がほぼいない百年後の未来へ全財産を払うだけで行けるからというのが主な理由らしい。
まあ、何人かはやり直したとしても必ずどこかでまたあたしを頼る気がしてならないから、今からでも二度目はないと噂を流しておくかねぇ……
そう思いながらあたしは石像部屋を後にした。
一人はさみしいから、あなたのもとへ私は歩くの。
あなたに会えるのは気の遠くなるような時間がかかると思うけど、それでもあなたの温もりを求めて私は歩くの。
あなたに会いたいって思いだけで私は歩ける。
私が歩くのをやめる時は、きっとあなたに会えた時。
その時たぶん私はとてもつかれてるだろうから、あなたのその大きな体で私をぎゅってして。
それだけで私は幸せに満たされるの。
だから、お願いね。
そーっとそーっと足音を立てないようにあたしはお姉ちゃんの部屋の前まで来た。
ドアもそっと開けて、バレないように部屋の中に入って、ベッドでお昼寝中のお姉ちゃんの顔を覗き込む。
……うんうん、すやすや良く寝てるみたい。
ふっふっふ……ついに! あのイタズラをやる時が来たわ!
寝てる人のほっぺにぐるぐる模様を描くっていうイタズラをね!
さあレッツイタズラターイム!
ペンのフタを開けた瞬間、カッとお姉ちゃんの目が開いてあたしの手をガッチリ掴んだ。
あまりに突然だったからつい、ぎゃー! と悲鳴をあげたあたしにお姉ちゃんはニコォ…と怖い笑顔を向けた。
「ねえ…… 今 何をしようと した……?」
「な……、何も! 何もしてない! まだ何もしてないわ!」
「じゃあ その ペンは 何……?」
「こっ、ここ、これは、その……」
「な あ に?」
お姉ちゃんの圧が怖い。泣きたいけど、泣いたらあたしが悪いことをしたって認めることになる。
でもやっぱり怖い……!
「ご……ごめんなさい……。ひぐっ、謝るから…ゆるしてください……!」
あたしの決死の謝罪にお姉ちゃんはフッと笑ってからあたしの耳元で囁いた。
「昼寝の邪魔しないでね」
手をパッと離されて、あたしはリビングまで走って逃げた。
ソファのすみっこでヒザを抱えてグズグズ泣きながらあたしは心に誓った。
お姉ちゃんにイタズラは二度としないでおこう……