バスクララ

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2/13/2026, 2:26:12 PM

『待っててね』……そう言ったのに君はどんどん先へ進んでしまうんだね。
昔は君と二人で勉強も運動も競い合っていたのに、僕が少し躓いてる間に君は先へ先へと行ってしまった。
どんなに後ろから待って待ってと追いかけても、君は振り返ることなくついには頂点へと辿り着いてしまった。
僕は君の遥か下。とても惨めだった。
勉強も出来て運動も出来る人を周りの人間が放っておくわけがない。
だから君の周りにはいつも人だかりが出来ていた。
たまたま廊下ですれ違った時、君は僕に一瞥もせずに『頑張れ』なんて無責任な言葉だけを吐いて人の輪の中へ入って行った。
……もう僕は君を追いかけない。
だから君も待たなくていい。
さようなら。かつて友達だった人。
大好きだったよ。

2/12/2026, 3:19:52 PM

「なあ君。もしも……もしもだぞ?
私がこの世から消え去ってしまったら……君は悲しんでくれるか?」
 文芸部で図書室から借りた本を読んでいると先輩がそう言ってきた。
 先輩は窓の外を見ていてその表情は窺い知れない。
 だから私も本に目を落としてから答える。
「何言ってるんですか。悲しむに決まってますよ」
「……ありがとう」
「いきなり何ですか? 死亡フラグでも立ててるつもりですか」
「死ぬつもりはさらさらないさ。まだやりたいことが沢山あるからな。
……そうだ、君。初恋の相手は覚えているか?」
 まさかの方向に話が飛び、私は先輩の方を見る。
 先輩はゆっくりと私のほうを向き、眉を下げて答えた。
「私は忘れてしまったよ。いつどんな人を好きになったかなんてな。
初恋をしたことは覚えているんだ。でもその相手はわからない。
そしてなんとなく思うんだ。その人はもうどこにもいないと。
伝えたかったことはあるとは思うのだが、それもよくわからない。
ただ、胸にトゲが刺さっているような気がするんだ。
……おかしいと思うだろう?」
 少し泣きそうな顔をしてから先輩が無理やり笑顔を作る。
 私はそんな先輩の顔を見たくなくてたまらず先輩の両手を握った。
「伝えましょう。今!
その相手に届くように、思いの丈を全部!」
「君、何を言って……」
「失恋なのか成就したのかは知りませんが、その思いは心の中で燻ぶらせていたらダメです!
伝えたい気持ちがあるならここで叫んじゃいましょう!
なんなら私も叫びますから!」
 先輩はポカンと口を開けていたけど、プッと吹き出してから大笑いをした。
「ははは! 君は中々に面白いな! さすが私の後輩だ!
ああ、そうだな。叫んでしまおう。トゲが抜けるように!」
 先輩はスゥと息を吸って思い切り叫ぶ。
「好きだ! ずっとずっと大好きだ! だから側にいてくれ!」
 思いの籠った真っ直ぐな言葉。
 その言葉は私に向けてのものじゃないのはわかっている。
 だけど、あまりにも真っ直ぐだったからつい錯覚してしまって、思わず頷いてしまった。
「……君に向けたわけではないのだが?」
「……不可抗力ですよ」
 なんとなく気恥ずかしくて手を離しそっぽを向く。
 すると耳元で「みどり」と優しく囁かれた。
「ありがとう。君が後輩で本当に良かった。
これからもよろしく頼むよ」
「……もう! 仕方ないですね!」
「ははっ! さて、久々に文芸部らしいことをしてみるか!
君も手伝ってくれるよな?」
 先輩が自信満々に笑って私を見る。
 私も嬉しくなって自然と口角が上がる。
 そして、私たちのこの一連の会話を覗き見ていた人がいて『文芸部の二人はデキている』という噂が流れるのはまた別の話……


§


(これにて数日続いていたシリーズはひとまずおしまいです。
読んでくださりありがとうございました。
後日タイトルを追加し、この()内の文を削除します。
またしれっとシリーズものを書くかと思いますが、その時もそっと見守ってやってください)

2/11/2026, 2:06:28 PM

「大昔にさあ、僕はこの世界を創ったわけ。
だけど一回壊されちゃってさ。壊した奴に途方もない時間をかけて創り直させたんだ。
そしたら世界がちょっと不安定になってね。これまではどうにかこうにか出来たんだけど、さすがにもう無理になっちゃってね。
ひじょーに心苦しいけどとても強い力を持っている命を使ってこの世界の柱として据えなきゃいけなかったんだ」
「……それで選ばれたのが私というわけか」
「そうなっちゃうね。でも、こんな体験生きてちゃ絶対に出来なかったよ?
この場所で創造神と二人で語り合うなんてさ!
あはっ、とっても得難い体験でしょ?
だから選ばれたのも悪くなかったでしょ〜?」
「……別に、こんな体験どうでもいいが」
「うわ辛辣〜。まあその答えが人間らしいけどね。
自分勝手で他者のこと全く考えないで迷惑かけてばっかり。そのくせ自分が同じことされたらやってたことを棚に上げて怒る……
全くもう、人間ってばなんて面白いんだろうね!
見ていて本っ当に飽きないよ!」
「……お前みたいなのが神だから、人間もそうなるのではないか?」
「蛙の子は蛙ってことかい? あはははっ! 凄いこと言うねえ!
ま、いいけどね。そう思ってても。たぶん嘘じゃないかもだし。
しかしまあ何とか記憶の修正が間に合って良かったよ。あのまま思い出されてたらまた誰かが芋づる式に思い出すところだったからね。あー、危なかった」
「なぜ?」
「だってしょうがないじゃん。いない人を覚えててもさ。
思い出した人が近くにいたら触発されてほんの小さな違和感が忘れられずに思い出そうと頑張っちゃうじゃん。今回の彼女や君のお友達みたいにさ。
もういないのに、もう会えないのに思い出だけ残ってるなんてとても辛いし最悪じゃん?
だから記憶を改変するんだ。僕なりのアフターケアってやつだよ。僕ってばちょー優し〜!」
「……私には理解できない考えだ」
「ふーん? そういうものか」

2/10/2026, 3:36:45 PM

 誰もがみんな、忘れてしまったことを思い出すわけじゃない。それを強く実感した一日だった。
 彼の後輩は思い出しかけたけど、ふとした瞬間にこれまで感じていた違和感を何もかも全て忘れ、別の悩みへと書き換えられた。
 間近で見ていたはずの彼女の後輩もさして不思議がらずにその状況を受け入れていた。
 ……僕はポーカーフェイスを貫けただろうか。
 さっきまで彼について話していたのに、いきなり『一人暮らしに必要なものや初期投資はどれくらいかかるだろうか? 家賃の相場は? 黒渕さんが暮らしている部屋の広さはどれくらいだ?』ときたものだからとても驚いてしまった。
 ……きっと、彼女は彼のことはもう思い出さないだろう。
 なんとなく思った悲しい憶測だけど、それが間違っているとは到底思えなかった。
 どうして僕たちが思い出せたのか、それを知るのは神のみぞ知るというやつだろう。
 何か条件があるのか、それとも付き合いの長さか、そんなもの僕たちには知りようがない。
「……君なら考え込んで、検証して、答えを導き出せるんだろうね――」
 彼の名を呟いたその瞬間、季節外れの雷鳴が轟く。
 周りに落ちた気配はない。ただ耳を塞ぎたくなるようなつんざく音だけが響いていた。
 辺りにいた人々は不意の音にびっくりしてキョロキョロ見渡したり近くにいた人と今のはなんだったのかと話したりしている。
 だけどそれも一過性のもので、すぐに何事もなかったかのようにそれぞれの生活へと戻る。
 ……僕たちは完全に元の生活には戻れない。思い出してしまったから。忘れるなんてできないから。
 だけど、それでいいんだ。
 僕たちは彼の思い出を胸に抱いて生きていく。
 誰にも話せない楽しかったあの日々を時々静かに振り返る。
 それくらいなら神さまも許してくれるはずだから。

2/9/2026, 3:07:55 PM

「いやあ、有意義な時間だった!
やはり第三者に話を聞いてもらうというのは大事なんだな!」
 ニコニコと明るく快活な笑顔を浮かべる先輩。
 ここ数日先輩は暗い表情ばかりしていたから私は心の底からホッとした。
「まったくもう、心配したんですからね!
いきなり頭を打ち付けたりしてとうとうおかしくなってしまったのかと」
「君は中々辛辣だな! まあそれが君の良いところなのだが。
いやはや、悩み過ぎたら私は奇行に走るとわかったから今度からはちゃんと君や誰かに相談するさ。
そうだ、今度学食を奢るよ。
君の意見もしっかり聞きたいしな!」
「いいですけど……私、一人暮らしなんて考えたことないのでお役に立てるかどうか……」
「最初から一人暮らしの人なんていないさ。
そうだろう? 黒渕さん」
 黒渕さんは「そうだね」と穏やかに笑う。
 先輩のお姉さんでもある保健室の南部先生が紹介してくれた黒渕さん。先輩の大学へ進学したら一人暮らししたいという悩みにとても親身になって具体的なアドバイスをしていた。初対面の人にも優しくてしかも教え上手な人……この人はきっとモテてるはず。
 ……でも、なんで先輩はその悩みを真っ先に私に相談しなかったんだろう? 私じゃ頼りないと思われたのかな……
「ところで、これは貰ってもいいんだよね?」
 そう言って黒渕さんは例の原稿用紙を私たちに見せた。
 先輩は大きく頷いてシッシッと手を振った。
「持ってるのも見ているのも気味が悪いし、ぜひ貰ってくれ。
おそらく姉のおまじないの類いだと思うが、所詮素人の真似事だから変なことは起こらないはずだ」
「わかった。何かあったら南部先生に抗議しておくね」
 そう言って黒渕さんはそっと原稿用紙をカバンに仕舞う。
 その目が愛おしそうな悲しそうな感じに見えたのはなんでだろう……?
「しかし姉にも困ったものだ。中二病を発症したかと思えばおまじないにどハマりし、ありとあらゆるおまじない関連の本をかき集め、運気を上げるならこれをすればいいだとか恋愛成就ならあれをすればいいだとか……
ああ、思い出しただけでも気が滅入る……」
「そ、そんなすごかったんですか?」
「もはやおまじないに支配されている日常だったぞ。
例えば花束を買うにしても決まった順序で買わないと何かの効果がどーとかこーとか……
恩師にあげる花束ぐらい好きに買わせてほしかったんだけどな……
……あ、今言ったこと絶対誰にも言わないでくれよ。
私が話したとバレるからな」
「誰にも言いませんよ」
「南部先生にそんな過去が……大学で話したら盛り上がるかな〜」
「やめてくれよ絶対に!」
 そうして三人で笑いあって今日はお開きとなった。
 何かを忘れているような気もするけど、たぶん大したことないはず。
 それにしても一人暮らしに大学かー……先輩ももう少ししたら受験生になるからそりゃあ悩むか。
 ……文芸部、どうなるんだろう。

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