バスクララ

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8/5/2025, 12:33:02 PM

人魚姫は王子をナイフで刺すことが出来ずに、海へ身を投げ泡となった。
自分以外の人と結婚する王子を殺めることをしなかった人魚姫。
返り血を浴びなければ自分が死んでしまうのに、自ら死を選んだ人魚姫。
……私はそんな高潔な心を持ってない。
大好きなあの人が、明日、結婚する。
兄の友達で、私が小さい時から一緒に遊んでくれた人だった。憧れが恋心になるのにそこまで時間はかからなかった。
年はそこそこ離れているけど、そんなの気にしなかった。
あの人がそばにいてくれるだけで、言葉を交わすだけでも幸せだった。
あの人もそうだと思っていた。だけど、それは私の思い上がりだった。
半年ほど前、高校生になりたての頃。兄と交えて遊んでいると、あの人が少し照れながら付き合っている彼女と結婚すると言ったのだ。
あまりにもショックすぎてどんなことを言ったのか、どんな振る舞いをしたのか覚えてない。
祝いの言葉を言ったような気もするし、泣いてしまったような気もする。
あれよあれよと言う間に日が過ぎていった。招待状もいつの間にか出席で出されていた。
……明日は結婚式だ。あの人と私の知らない人との。
明日はあの人の人生で一番幸せな日なんだ。私はただのモブで賑やかしに過ぎないんだ。
だけどやっぱりあの人の隣にいるのが私じゃないという事実だけで胸が張り裂けそう。
今だけ……今だけ、泡になりたい。
私も海に身を投げたら、泡となって消えていけるのかな。
それともたくさん泣いて、涙の海に溺れたら泡になれるのかな。
……ねえ、お願いよ。私が泡になるまで結婚なんてしないで。
明日になっても誰のものでもないあなたでいて。
お願い……

8/4/2025, 1:41:29 PM

秋は秒で過ぎていき、冬は寒いとこたつやストーブの前から動けなくなり、春は花粉よ滅びろと涙と鼻水垂らしながら念じる……
そしてやってきた夏はちょっと……いや少し……いやかなり、暑い。
おかしいな、昔はこんなに暑くなかったのに。エアコンなくても快適に過ごせてたはずなのに……
早く秋にならないかな……
そう思ってもただいま、夏。夏真っ盛りである。
でもこの暑さがあと一、二ヶ月、下手すりゃ三ヶ月ほど続くのかと思うとげんなりする……
せめてあと10℃とは言わないから、5℃ほど涼しくしてください。
本当に。マジで、切実に。

8/3/2025, 1:24:51 PM

実は君が炭酸嫌いということは知っているんだ。
だけど炭酸をグビグビ飲む僕に気を遣って黙ってるんだよね。
だから僕が炭酸を君に勧めることはないんだけど、君的にはそれがちょっと嫌みたいだね。
こうして喫茶店で飲み物の注文に、わざわざコーラフロートを頼むくらいだもの。
アイス部分を早々に食べて、コーラ部分はちびちびとすごい顔をしながら飲む君。
もうかれこれ十分は格闘してるかな。なのに全然減ってない。
途中、代わりに飲もうか? と聞いても無言で首を横に振る君。意地かプライドか、自分の力で飲み切りたいのかな。
そうしてちびちび飲んでいる君だったけど、時間が経ちすぎてぬるくなったのか、あからさまに美味しくなさそうな顔をし始めたね。
さすがにもう見ていられなくなって、僕は君のコーラを奪ってグビグビ飲んだ。
気の抜けたぬるい炭酸を飲むのは久々だったけど、甘さがやけに際立っている気がした。
ふと君を見るとポカンと口を開けていたけど、僕の目線に気づいてからちょっとだけ悔しそうな顔をした。
飲み切りたかったのか、僕に飲まれたのが嫌だったのかな。
まあでもぬるい炭酸と無口な君の相性が極悪だということがわかったから、次は小さめの炭酸……瓶ラムネから頑張ろうね。

8/2/2025, 12:38:06 PM

砂浜を歩いていたらガラスの小瓶がコロコロと波に遊ばれていた。
私の近くに転がってきたタイミングでそれを拾ってみると、なんと中に紙のようなものが入っている。
コルクの栓を抜いて中のものを取り出して開いてみると、こんなことが書いてあった。
『開ける瞬間、わくわくしたでしょ?』
……ただそれだけ。他はなんにも書いてない。
確かにわくわくしたけども、そのわくわくを返してほしい気分……
しょーもない気分ってまさにこの気分だろうなあ……と思いながら私は手紙を元通りに折り畳んでガラスの小瓶に戻す。
そして海に向かってポイッと放り投げる。
波にさらわれた手紙は沖に向かって流れて……行かずに戻ってきた。
ならば仕方がない。
私は大きく息を吐いて小瓶を思いっきり海へと投げ飛ばす。
ボチャンと音がしたのを聞いてから私は振り返らずに砂浜を後にする。
後は野となれ山となれ。また小瓶が転がってても私はもう知らないからね。

8/1/2025, 2:46:11 PM

“8月、君に会いたい”
 ……その一文だけが書かれた古ぼけた手紙を見つけたのは、倉庫の整理中の時だった。
 差出人の名前も宛先もない。内容もなんのこっちゃわからない。
 光に透かしたら何か別のことが書かれてないかなと眺めていると睦月兄さんがヒョイっと手紙を奪い取って「やよい、何これ?」と私に聞いてきた。
「倉庫で見つけた。誰が書いたのかは知らないけど」
「ふーん……。
8月……はちがつ、ねえ……」
 睦月兄さんはブツブツ言いながら手紙をしばらく眺めていたけど、ふと思い出したように呟いた。
「ばあちゃん……葉月だったよな」
 その言葉に私もハッと閃く。
「もしかしてそれ、おじいちゃんからおばあちゃんへのラブレター!?」
 兄さんは頷きつつも難しい顔をした。
 なぜそんな顔をするのだろうと思っていると、兄さんは周りを見回した後少し小声でこう言った。
「もしくはばあちゃんのことを好きだった別の男からかもな。
じいちゃんとばあちゃんはお見合いしたって言ってたから、手紙を書くにしても8月じゃなくて葉月と書くだろうし、差出人の名前を書かない理由なんてないだろ。
……それに、ばあちゃんは愛のこもったものを蔑ろにしないだろ?」
「た、確かに……」
 倉庫に仕舞われていた手紙。明らかに切実な想いが込められている手紙。
 この手紙を書いた人は、おばあちゃんのことどう思っていたんだろう……?
「ま、全ては憶測だ。答えを聞こうにも、じいちゃんもばあちゃんもあの世に逝っちまった。
その手紙は謎のまま……ってことだな」
「そうなっちゃうか……」
 少し物寂しさを覚えてしまうけど、こればかりはどうしようもない。
 ……でも知ってしまった以上、この手紙はどうしようかな……
 とりあえず……お焚き上げでもしてもらおうかな?
 そして祈っておこう。差出人がおばあちゃんに一目だけでも会えますようにって。

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