人魚姫は王子をナイフで刺すことが出来ずに、海へ身を投げ泡となった。
自分以外の人と結婚する王子を殺めることをしなかった人魚姫。
返り血を浴びなければ自分が死んでしまうのに、自ら死を選んだ人魚姫。
……私はそんな高潔な心を持ってない。
大好きなあの人が、明日、結婚する。
兄の友達で、私が小さい時から一緒に遊んでくれた人だった。憧れが恋心になるのにそこまで時間はかからなかった。
年はそこそこ離れているけど、そんなの気にしなかった。
あの人がそばにいてくれるだけで、言葉を交わすだけでも幸せだった。
あの人もそうだと思っていた。だけど、それは私の思い上がりだった。
半年ほど前、高校生になりたての頃。兄と交えて遊んでいると、あの人が少し照れながら付き合っている彼女と結婚すると言ったのだ。
あまりにもショックすぎてどんなことを言ったのか、どんな振る舞いをしたのか覚えてない。
祝いの言葉を言ったような気もするし、泣いてしまったような気もする。
あれよあれよと言う間に日が過ぎていった。招待状もいつの間にか出席で出されていた。
……明日は結婚式だ。あの人と私の知らない人との。
明日はあの人の人生で一番幸せな日なんだ。私はただのモブで賑やかしに過ぎないんだ。
だけどやっぱりあの人の隣にいるのが私じゃないという事実だけで胸が張り裂けそう。
今だけ……今だけ、泡になりたい。
私も海に身を投げたら、泡となって消えていけるのかな。
それともたくさん泣いて、涙の海に溺れたら泡になれるのかな。
……ねえ、お願いよ。私が泡になるまで結婚なんてしないで。
明日になっても誰のものでもないあなたでいて。
お願い……
8/5/2025, 12:33:02 PM