“8月、君に会いたい”
……その一文だけが書かれた古ぼけた手紙を見つけたのは、倉庫の整理中の時だった。
差出人の名前も宛先もない。内容もなんのこっちゃわからない。
光に透かしたら何か別のことが書かれてないかなと眺めていると睦月兄さんがヒョイっと手紙を奪い取って「やよい、何これ?」と私に聞いてきた。
「倉庫で見つけた。誰が書いたのかは知らないけど」
「ふーん……。
8月……はちがつ、ねえ……」
睦月兄さんはブツブツ言いながら手紙をしばらく眺めていたけど、ふと思い出したように呟いた。
「ばあちゃん……葉月だったよな」
その言葉に私もハッと閃く。
「もしかしてそれ、おじいちゃんからおばあちゃんへのラブレター!?」
兄さんは頷きつつも難しい顔をした。
なぜそんな顔をするのだろうと思っていると、兄さんは周りを見回した後少し小声でこう言った。
「もしくはばあちゃんのことを好きだった別の男からかもな。
じいちゃんとばあちゃんはお見合いしたって言ってたから、手紙を書くにしても8月じゃなくて葉月と書くだろうし、差出人の名前を書かない理由なんてないだろ。
……それに、ばあちゃんは愛のこもったものを蔑ろにしないだろ?」
「た、確かに……」
倉庫に仕舞われていた手紙。明らかに切実な想いが込められている手紙。
この手紙を書いた人は、おばあちゃんのことどう思っていたんだろう……?
「ま、全ては憶測だ。答えを聞こうにも、じいちゃんもばあちゃんもあの世に逝っちまった。
その手紙は謎のまま……ってことだな」
「そうなっちゃうか……」
少し物寂しさを覚えてしまうけど、こればかりはどうしようもない。
……でも知ってしまった以上、この手紙はどうしようかな……
とりあえず……お焚き上げでもしてもらおうかな?
そして祈っておこう。差出人がおばあちゃんに一目だけでも会えますようにって。
8/1/2025, 2:46:11 PM