バスクララ

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「問おう。なぜ君は小説を書く?」
 部室に来て早々、腕を組んで真剣な顔をした先輩が仁王立ちで私にそう訊いてきた。
 その目はしっかりと私を見据えていて、まるで猛禽類のように鋭い。威圧感もたっぷりで思わず後ずさりしてしまった程だ。
 変な返答したらどうなるかわからない。そう直感した私はしっかり考えてから言葉を出す。
「……私の書いた小説で誰かが楽しんでくれたら嬉しいからです」
「ほう。それは1000年先も楽しめるようなものか?」
「……それは、さすがに……」
「弱気になるな!」
 いきなりの大声に体がビクッと跳ねた。
 しかし先輩はお構いなしに言葉を続ける。
「自信を持て! せっかくの才能を自分が信じないでどうする!
胸を張れ! 自分の書いた文は未来永劫語り継がれるものになるのだと!
君なら成し遂げられる!」
 ドン! という漫画の効果音が付きそうな威勢のいい声が部室に響き渡った。
 てっきり怒られると思ったけど、これは……褒められてるのかな……?
「……ありがとう、ございます……?
でもなんで急にそんなことを……?」
 戸惑いながらそう訊くと、先輩は少しバツの悪そうな顔をしてこう答えた。
「……忘れていたことを少し思い出しただけさ。
すまない、今日は早引きさせてもらうよ」
 そう言い終わるとすぐに先輩はカバンを持って私の横をすり抜ける。
 あまりにも突然だったから引き止める暇もなかった。
 一人残された私はしばらく呆然としてたけど、このまま小説を書く気分になれなかったから私も家に帰った。
 明日になればいつもの先輩になるだろうと思っていた。だけど、次の日、その次の日も先輩は部室に現れることはなかった。

2/3/2026, 3:47:27 PM