バスクララ

Open App
4/21/2025, 2:01:11 PM

今日は晴天。よし、部屋の掃除をしよう。
要らない紙はシュレッダーなりゴミ箱にポイなりして読まない本は売るか廃品回収に出してしまおう。
そう思いながら最初に机の引き出しを開けると、なぜか通っている高校の写真が出てきた。
閉まっている校門だけが写っているだけの大変面白味のない写真。
なぜ僕がこんなものを引き出しに? 妹のいたずら?
不思議に思いつつふと裏を見ると“Don't forget.”と書いてあった。
『忘れるな』
そんなささやき声が耳元で聞こえた気がしてハッと後ろを振り向く。
だけど閉まったドアしか僕の目には映らなかった。
……僕は何を忘れてしまったのだろう。
気にはなるし、悲しくもある……けど、今気にしていてもどうにもならない。
僕は自分にそう言い聞かせ、写真を元あったところに戻して掃除を再開する。
だけどずっと心はモヤモヤしてたし、掃除も全くはかどらなかった。
……明日、学校に行ったらこのことを誰かに話してみようかな。そうしたらこのモヤモヤも少しは晴れるかも。
それでもしあのささやき声の主を思い出せたら万々歳だけど、それはさすがに高望みしすぎだね。
まあでもポジティブに考えよう。
物事を良い方向に考えていたら良いことが起こりやすくなるってこの前言われたばっかりだし。
……あれ、それって誰が僕に言ってたんだっけ……?


【忘却のリンドウ 04/16】

4/20/2025, 1:09:11 PM

思い立って体をのび〜っと伸ばしてみる。
長時間同じ姿勢でいたからか肩のあたりからポキポキと音が聞こえた。
今年受験生だから志望校に入るために今から勉強しても早すぎることはない。
……けど、どうしておれは志望校にちょいとレベルが高いところを選んだんだっけ?
というかなんで勉強はここまで好きでもなかったのに受験に向けて頑張ちゃってんだろう?
後悔……するから?
……このままじゃ勉強モードに切り替えるのも集中もできそうにない。だから気晴らしにカーテンを開けて空を眺めてみることにした。
月という眩しい光が無いからか、星明かりが良く見える。
ぼんやりと星を見上げていると、ふいに誰かの言葉が脳裏に浮かんできた。
『知っているか? 今からおよそ一万二千年後、こと座のベガが北極星になるらしい。
北極星は不変だと思っていたが、その目印となる星は代替わりしていくのだな』
……こんなことをおれに話してくれた人は誰だったっけ。
姿も声も思い出せないけど、最近聞いたような気もする。小説で読んだ……っけ?
でも、なんでこの言葉を思い出したら痛苦しいほど胸が締めつけられて、鼻の奥がツンとするくらい悲しい気持ちが襲いかかってきてるんだろう……?
……今日はもう休もう。こんなに感情が乱されちゃあ勉強どころじゃない。
カーテンを閉めてベッドに転がると堪えきれなかった涙がポロリと外に飛び出した。
ああ……しばらく星明かりはまともに見られそうにないや。


【忘却のリンドウ 03/16】

4/19/2025, 1:46:43 PM

朝、目が覚めて制服のリボンを結んでいる途中、どうしようもなく悲しくなった。
どうしてそう思うんだろう、と首を捻りつつ涙を拭いて学校に向かう。
先生の点呼をぼんやり聞き流していると私の次に言われる人の名字が違う気がした。
休みかな? と思って先生に訊こうとしたけど、すぐやめた。
その人の名前も姿も顔も思い出せないことに気づいてしまったから。
大事だったはずなのに。写真も撮ったはずなのに。
そもそもクラスメイトで友達だったはずなのに。
……そう、家に遊びに行ったこともある。……はず。
でも頑張って思い出そうとしても、まるで影絵のように真っ黒なシルエットしか頭の中に出てこない。
あの人が男だったか女だったか、誕生日はいつだったか、席はどこだったかさえ思い出せない。
……でも、確かにいた。……よね?
この違和感を誰かに言いたいけど、周りはいつも通りに過ごしている。
だから私がおかしいんだ。
なんで急にイマジナリークラスメイトなんか頭の中で創造しちゃったんだろう?
罪悪感と違和感で頭がぐるぐるしていると具合が悪いと勘違いされて家に帰るよう先生に促された。
授業なんて受けても絶対身につかないと思ったし、何よりここから去りたい気持ちもあったから逃げるように家に帰った。
部屋に入るなり私は鞄を投げ出してベッドに倒れ込む。
そして適当な白い紙を引っ張り出して黒いペンで人のシルエットを殴り描く。
「ねえ……あなたは、誰……?」
わかってはいたけど、答えなんて返ってこなかった。


【忘却のリンドウ 02/16】

4/18/2025, 3:28:02 PM

私の人生の始まりはまさしくこの世に産まれた瞬間からだ。
しかし全てが始まった瞬間は違う。
弟が産まれた時?
いいや、それは私に兄としての自覚が芽生えた瞬間だ。
友達が記憶喪失になった時?
いいや、それは私に人の心の複雑さを知らしめた出来事だ。
現代社会にも関わらず、神への生贄とかいう理不尽に私が選ばれた時?
いいや、それはほんのきっかけに過ぎない。
……その後だ。
私がこの世を去ってから。
私がいなくなってから歯車が動き出したかのように、私と関わった全ての人の運命が大きくうねり始めている。
それはまさしく物語の始まりと言っても過言ではないほどに。
私がその舞台に立つことができないのは少し残念に思うが、この物語の登場人物ほぼ全員と私は何かしらの関わりがある。
まるで主人公みたいではないか。
そう思うとちょっとだけ気分が良くなる。
……だが主人公のいないこの物語を、残された人々はどう紡いでいくのだろう?
どんな結末になるのだろう?
楽しみでもあり、不安でもある。


【忘却のリンドウ 01/16】

4/17/2025, 1:03:49 PM

何度でも何度だって挑み続ける。
その目に静かな情熱の光を宿して。
彼女は目の前に立ち塞がる敵に幾度となく打ちのめされてもその度に立ち上がり、しっかりと前を見据える。
俺が止めても諦めるように促しても、彼女は意にも介さず敵に立ち向かって行く。
何が彼女をそうさせるのか、何が彼女の原動力となっているのか。それは俺にはわからない。
ただ、これはゲームの負けイベントで相手は絶対に倒せないと何度言っても「血が出るなら殺せるわ!」とどこかで聞いたようなセリフを言って特攻しに行くのはちょっと勘弁してほしい……

Next