【神様だけが知っている】(300字)
ある日ある世界の天空で、天使たちがこんな会話をしていました。
「魔王が復活したので、勇者召喚プログラムを実行したいのですが、パスワードのメモってあります?」
「メモはないですねぇ。知っているのは神様だけです」
天使たちは顔を見合わせました。
「神様、パス覚えてると思います?」
「ボケちゃってますからねぇ」
「新陳代謝のある我々と違って、神様はずっとおひとりでしたからね」
「つまり」
「詰み」
「詰み」
天使たちはいっせいにため息をつきました。
「これが属神化の弊害というやつですか」
「神様ワンマンでしたからねぇ」
「早めに業務改革をしておくべきでしたね。まあ、あとは人間たちの魔王への抵抗を、そっと見守りましょう」
【この道の先に】(300字)
この道の先にどんな苦難が待っていようと、決して諦めない。最後まで進みきると誓おう。
俺は決意を胸に秘め、ぐっと拳を固めた。
そんな俺を、学ランを着崩した集団が、ニヤニヤ顔で追い越していく。
「おいヨッシー、足震えてっぞ」
彼らが行く先の道、スポットライトで照らされているのは、「興府高校第四回肝試し大会」と大書きされた看板。賑やかな男子たちが、看板横の真っ暗な道にどんどん吸い込まれていく。
「なにやってんの」
隣に立った小林先生は、冷ややか目で俺を見ていた。
「そんな悲壮な涙目で拳固めるほどのものじゃないでしょ。毎年安全確認で先に一周してるくせに、吉井先生は怖がりすぎ。さ、私らもそろそろ後を追うよ」
【日差し】
山あいに位置するトゥイ村は、冬の訪れよりも一足早く、雪に閉ざされる。
今年の雪はさらに早かった。うららかな秋晴れの日が続いていると思ったら、天は突然に牙を向き、暴風雪が山を襲った。トゥイ村晩秋の風物詩で、〈精霊の戸締り〉と呼ばれている唐突な気象現象だ。村は一晩で真っ白に染まり、麓につながる唯一の道も、雪に埋もれた。
たまたま行商で村を訪れていたペトリは、帰途を失った。〈精霊の戸締り〉を知らない年若い行商人には、たまにあることだ。村人たちは、よそ者が冬のあいだじゅう村に留まることを、快く許した。こんな山あいの辺鄙な場所まで、外界の物資を背負って登って来てくれる健脚の若者は、トゥイ村にとっては大事な客だ。村長の家で一晩の歓待を受けていたペトリは、そのまま同じ部屋で、一冬の宿を借りることになった。
ありがたく逗留させてもらえたまではよかったが、数日も経つと、ペトリは暇をもてあますようになってしまった。村人たちの手伝いをするにしても、農作業や狩りを休む冬は、仕事自体が少ない。村長の代わりに朝の雪かきをして、ついでに鶏小屋の掃除を済ませたら、もうすることがなくなってしまう。気力みなぎる二十歳の若者にとって、退屈な時間というものは、拷問を受けている時間にも等しかった。
そこで、ペトリは絵を描くことにした。幸い、行商の荷物の中に、大量の絵の具がある。トゥイ村は家の壁を華やかに彩る風習があり、そのおかげで絵の具が喜ばれる、と先輩行商人から聞いて持ってきたのだ。たしかに、トゥイ村の家々は、木の壁を花のような多種多様の紋様で彩り、真っ白な雪景色に負けないほどの華やかさを見せている。紋様は家を守るまじないのようなものらしく、鮮やかであればあるほど家も長持ちする、と信じられている。
そんな彩り豊かな光景に感化されたのだろう、ペトリはこれまで一度も絵を描いたことがなかったが、自分でもなにか描いてみたくなったのだった。一冬もあれば、いっぱしの美しいものが描けるのでは、という気がしていた。この村の冬は、それほどに長いのだから。
キャンバスは荷物に入っていなかったが、村長夫人から夏服の端切れをもらえたので、それを木の板に張ってキャンバスの代わりにした。スケッチ用の木炭ももらえたので、まず、村長の家の玄関を彩る紋様を真似てスケッチしてみた。なかなかうまくいったので、気をよくして、ほかの壁の紋様も真似ることにした。村長の家をぐるっと回って、細長い端切れに紋様を写しとっていった。
ペトリが壁の前に立って花の紋様をスケッチしていると、突然、正面の窓が開いた。上に押し上げて開くタイプの窓だ。一人の女が、窓枠から生えるように身を乗り出す。女とペトリの視線が、ばっちりとかち合った。
「最近鶏小屋の近くで見知らぬ使用人を見かけると思ったら、なーんだ、今年の間抜けな行商人ってわけね」
女は鼻でせせら笑うように言った。
「あなたは……?」
ペトリは驚いてまじまじと相手を見た。村長の家の者とは、通いの使用人も含めてすでに全員顔見知りになったと思っていたのに、まだ知らない顔がいたとは。こんな日中にもかかわらず、女は厚手の寝巻きを着ていた。首は折れそうに細く、袖から覗く手首も筋が見えるほどに細かった。つまり、ひどく痩せていた。頬がこけているせいで、年もよくわからない。若い声なので、老人ではなさそうだが。
そういえば、村長宅には一室だけ、立ち入らないようにと言われている部屋があった。位置的に、この窓の部屋で間違いない。倉庫だろうと推測していたから、まさか人が暮らしているなんて、思いもよらなかった。
「もしかして……もしかしてですが、村長の娘さんですか?」
「そうよ。パパから聞いてなかったの?」
直接は聞いていなかったが、村人たちの会話を耳に挟んで、村長には病気の娘が“いた”、ということだけは知っていた。つまり、彼女はその「病気の娘」というわけだ。もう死んでいるはずだから、目の前にいる彼女は、幽霊に違いない。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。僕はペトリと言います。ケヴァットの町から来ました。雪解けまで、こちらでお世話になります」
ペトリは律儀に挨拶をした。行商人にとって、社交は欠かせないスキルだ。たとえ、相手が幽霊であろうとも。
「ふーん。私はクッカよ」
「花、という意味ですね」
「そう、花みたいに短い命、っていう意味」
クッカはまた鼻で笑った。
「この本を持ってきたのは、あなた?」
クッカが右手に持っていた本を振った。ペトリはうなずいた。本は高級な嗜好品なので、あまり買い手はつかない。重いので行商にも向かない。ただ、もしかしたらという期待をこめて、試しに一冊だけ持ってきたのだ。子供向け、とくに女児向けの、お姫様の冒険譚が書かれている。トゥイ村に来た最初の日の夜に、酒に酔った村長が言い値であっさり購入してくれたので、お酒の力は屈強な男性にこんなに可愛い装丁の本を買わせるものなのか、と感じ入っていたのだが、こういう事情だったとは。
「面白かったですか? 僕のおすすめなんです。よければ来年には続きの本を――」
「こんな子供じみたお話、面白いわけないじゃない。バカにしてるの?」
クッカは急に険しい目つきになって、ツン、とそっぽを向いた。そのままピシャッと窓を下ろしてしまう。さっとカーテンが引かれて、彼女の姿は見えなくなった。ペトリはあっけにとられて、窓を見つめるだけだった。トゥイ村初日の夜の嵐を思い起こさせるような、突然に現れ、突然に過ぎ去った出会いだった。
その日の晩餐で、ペトリは昼の出来事を村長夫妻に報告した。
「そうか。君はあの子に会ったのか」
村長は短い沈黙のあとに、深い声でそう言った。ペトリは身を縮めた。
「すみません。部屋に入ったわけではないのですが……」
「あの子から君を見つけて話しかけたのなら、仕方ない」
村長は鷹揚に笑った。
「君のような前途揚々たる若者の姿を見せるのは、あの子には酷だと思ってな。それで引き合わせなかったのだ」
「隠しごとなんて、ペトリさんには、悪いことをしたわね」
村長夫人が、ペトリよりも申し訳なさそうな顔で言う。
「クッカはね、長いこと病に伏せっているの。この土地の若い女性、とくに見目のいい子が稀にかかる風土病でね、精霊の嫉妬、と呼ばれているの。臓腑がじわじわと弱って、だんだんものを食べられなくなって、痩せていく病気なの」
村長夫人が目頭を押さえる。
「あの子はもう、お粥かスープの汁しか食べられなくなってしまって……」
「で、では、クッカさんはまだ生きていらっしゃる……?」
ペトリはようやく自分の勘違いに気づいた。
「幽霊だと思ったか? そう思うには、まだすこし早いな」
村長が寂しげに笑った。
「村の者から、あの子は死んだと聞かされたんだろう。あの子の希望で、昨年葬儀を済ませたからな。そんな事情だから、村の者たちには、あの子が生きていることは秘密にしておいてほしい」
「それはもちろんです。でも、クッカさんはどうして生きているあいだに葬儀なんか……」
村長夫妻が顔を見合わせる。
「痩せ細った姿を、村人たちに見られたくないと思ったのかしらねぇ」
「本人は、心が死んだから、と言っていた。自分で自分を見送りたかったから、と。たしかに、昨年の春に病が発覚してから、あの子は抜け殻のようだった。だが、例の本を読んですこし気力を取り戻したようだな」
村長が居住まいを正して、ペトリに頭を下げた。
「君には深く感謝している。君が村に来てくれて、ほんとうによかった」
ペトリは慌てて手を振った。
「そんな、恐縮です。本の対価はいただいていますし、一冬やっかいになるご恩には、まだまだとうてい及びません。ほかにも、僕にできることがあればなんなりとおっしゃってください」
村長がようやく顔を上げる。
「その言葉に甘えてもいいかね? これまで君に会わせなかったくせに勝手を言っていると承知の上で、親としての頼みを聞いてほしい。冬のあいだ、あの子の相手をしてやってくれないか」
「僕が? いいんですか?」
村長夫妻がそろってうなずく。
「今日、夕食のお粥を持っていったとき、クッカの目が輝いていたのよ。きっとあなたに会ったからだと思うの」
「ペトリ君はクッカと年も近い。若者同士、話が合うかもしれないな」
「おいくつなんですか?」
「十七だ」
「僕の妹と同い年ですね……」
ペトリはその事実に衝撃を受けた。あの痩せこけた顔が、溌剌とした妹と同じ若い娘のものだったとは。
「精霊の嫉妬を受けた者は皆、十八歳になる前に死ぬさだめだ。あの子は長く生きたほうだ。この冬はもう越せないだろう」
諦めの深い声で、村長は言った。
「あの子が亡くなったら、わたしたち家族だけで、ひっそり山に埋葬するつもりだ。そのとき君がまだ滞在していたなら、君にも手伝ってほしい。酷なことを頼んでいるのは、百も承知だが」
「……わかりました」
複雑な思いのこもった二つの視線を受けて、ペトリは神妙にうなずいた。
以後、ペトリは毎日クッカの部屋を訪れるようになった。
彼女の部屋ではいつも、惜しげもなく暖炉が燃え盛っていた。クッカは厚みのある毛布にくるまり、寝ていることが多かった。ペトリは彼女が目覚めるまで傍らの椅子に座って絵を描いたり、枕元の本をぱらぱらとめくってみたりした。本はペトリの姉が書いたものだった。来年には続きが仕上がる予定だが、クッカがそれを読むことはできないだろう。だからペトリが本の続きを話に持ち出したとき、クッカはあんなに怒ったのだ。ペトリはクッカの前で来年の話をしないよう、気をつけることにした。クッカ自身も、とうにわかっているのだ。自分に「来年」がないことを。
ペトリは本を閉じ、窓に目をやった。今日は冬にしては珍しいほどにあたたかいからか、窓が開放され、午後の光が淡く差し込んでいる。一人娘には似つかわしくない北向きの薄暗い部屋だが、鶏好きのクッカが、いつでも鶏の声を聞けるようにと、この部屋を希望したそうだ。窓枠の中に、鶏小屋の壁が見える。
鶏の家は人間の家と違って手入れは頻繁にされていないため、壁を彩る草花の紋様は掠れ、消えかかっていた。蔓のような細い線はとっくになくなって、数枚の葉の紋様だけが残されている。それも吹雪のたびにだんだん洗い落とされ、ペトリが初めて見たときよりも、ずいぶん薄くなっているように思えた。
「また来てたの?」
掠れた声が聞こえた。クッカが目を覚ましたのだ。
「婦女子の部屋によく堂々と立ち入れるわね」
クッカが上半身を起こす。
「許可は得ていますから」
ペトリは水差しからコップに水を注ぎ、クッカに手渡す。クッカはいつものようにすんなり受け取り、水を飲み干す。
「今日はどの町の話をしましょうか」
「昨日の町のことをもっと聞かせて」
クッカは来年の話を嫌う代わりに、外の町のことはやたらと聞きたがった。たとえ自分が元気に生きていようと、この村から出られないことを知っているからか、あるいは次に生まれ変わる町を夢見ているのか。あるいは、冒険譚の途中でいろんな町に立ち寄ったお姫様と自分を重ねているのかもしれない。
クッカは話の途中で、必ずこう尋ねた。
「その町に鶏はいないの?」
「多くはないですが、飼っている家もいますよ」
「だったら、私、その町をちょっとだけ好きになれるわ」
クッカはそう言ってころころと笑った。
そんなほの明るい日々は、一冬のあいだの、さらに短い期間で終わってしまった。
クッカの体は、ペトリが初めて会ったときからいっそう、痩せ細っていった。せっかく輝きを取り戻した目も光を失い、ほとんど笑わなくなってしまった。笑うとすぐに疲れてしまうらしい。ペトリも町の話をしなくなった。クッカがぼんやりと窓を見つめる傍らで、ペトリが黙々と絵を描くだけの日が続いた。
「私が死んだら、パパは鶏小屋を建て直すつもりみたい」
ある日、クッカがぽつりと漏らした。空気を入れ替えるために、ペトリが開けた窓の外を見つめて。
「ということは、あの葉っぱが全部消えたら、私もいよいよ死ぬときね」
「そんなこと……」
いまはなにを言っても彼女には辛辣に聞こえる気がして、ペトリは唇を噛んだ。
鶏小屋の紋様はいまや、かろうじて小さな緑色の塊が見えるだけで、ほとんど消えていた。村長は小屋を建て直す予定で、まじないの紋様を描くのをやめたのだろう。あの壁には、華やかな彩りの代わりに、この家の諦めが描かれているのだ。
次の吹雪が来れば、きっとあの緑色もなくなる。目覚めた彼女がそれを見たら、なにを思うだろう。
ペトリはクッカが話したことを、すぐ村長に伝えた。村長はただ、「そうか」と言った。
折しもその晩、吹雪が訪れた。ガタガタと揺さぶられる家の中、村長と夫人は、娘の部屋で夜を過ごした。ペトリは気を遣ってか、姿を見せなかった。夫人は娘の手を握りしめ、一晩じゅう離さなかった。風は明け方になって、ようやく止んだ。
「ねぇ、窓を開けて」
いつのまに目を覚ましていたのか、クッカがぽつりとつぶやいた。
窓際の椅子でうとうとしていた村長は、はっと目を覚ました。驚いて娘を見る。薄く開いたクッカの目が、ぼんやりと、窓の外に向けられていた。
村長は夫人と目を合わせた。夫人は真っ赤に染まった目でうなずいた。村長は立ち上がり、震える手でカーテンを押し開いた。続いて、窓枠を押し上げる。
そして、言葉を失った。
よろめくように、窓枠からあとずさる。
そのときちょうど、窓の右から朝の光が差し込んだ。日差しはまっすぐに、鶏小屋の壁を照らした。
「あ……」
クッカが微かな声を漏らした。それから、がばりと身を起こした。勢いのままにベッドを転がり降り、履き物も履かずに窓に駆け寄る。
「花だわ! 花が咲いてる!」
クッカが指さした先で、大輪の花が朝日とともにきらめいていた。たった一輪、だが、どんな景色よりも鮮やかな黄色の花が、鶏小屋の壁を彩っている。花の下には、ぶかっこうな鶏の絵も描き添えられていた。
部屋にいる誰もが、しばし言葉を失った。
「……彼が、やってくれたのか……あの吹雪の中で……」
村長が目元を覆った。
「わかったわ」
クッカは泣き笑いの顔でうなずいた。窓の外の花から目を離さずに。
「もうちょっとだけ、長生きしてみる。あなたと過ごす時間を、すこしでも長く楽しみたいから」
トゥイ村の長い冬がついに過ぎ去って、道は再び外界へと通じるようになった。しかし、ペトリは風邪を引いて寝込んでいたため、まだ村を出ることはできなかった。
ペトリはクッカと同じ部屋に寝かされたので、二人がそろって起きているあいだは、他愛もない会話を楽しんだ。ペトリが行商で訪れた町のこと。クッカと同い年の、春に結婚を控えている妹のこと。作家をしている姉のこと。そして、冒険譚の続きのこと。
会話のあいだ、横になっているペトリの代わりに、クッカが身を起こして絵を描くようになっていた。弱々しい手つきで、十日かけて、クッカは鶏小屋の花と、鶏を描いた。
そして春の花々が咲き始めたころ、クッカはついに息を引き取った。
風邪からすっかり回復して体力を取り戻したペトリは、約束どおり、村長とともに彼女の埋葬を手伝った。トゥイ村で亡くなった者は、村を見下ろす山頂付近に埋葬される。本来は精霊を描いた石を抱いて埋められるのだが、クッカは石の代わりに、自分が描いた絵と、それからペトリが描いたいくつかのスケッチを抱いて埋められた。
最後にかけた土をスコップで叩いて固め、ペトリは村長と顔を見合わせた。それから、もう一度足元に目を落とした。
盛り上がった場所に日が当たり、雪混じりの土をきらきらと輝かせている。土を彩る雪は春のあたたかな日差しを受けて、周囲を染めながらじわじわと溶けだしている。ペトリの長い冬も、ようやく終わろうとしていた。
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オー・ヘンリーの『最後の一葉』オマージュです。結末は逆ですが……。お題の日差しどこ行った。
【君と最後に会った日】(300字)
もうずいぶん長いこと、君の姿を見ていない。最後に会った日の記憶も曖昧だ。だって、君に会うと私はすぐに動揺してしまうから。目の前の君と向き合うことに精一杯で、思い出なんか残せない。今だって、君の姿を思い出そうとしただけで、心臓が早鐘を打っている。
君がめっきり姿を見せなくなったのは、自分のせいだとわかっている。私が君を――家族のいる君を、拒んだから。
君を避けるために、家の隅々に配置した、黒い駆除剤。その名も、ブラックキャップ。そして君は、Gと呼ばれるもの。またの名を、御器かぶり。
願わくば、君と最後に会った日が、このままずっと、「最後に会った日」であり続けますように。私の平穏な日々のために!
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アース製薬の回し者ではありませんが、5月の連休中にブラックキャップ結界を張っておくと、その年はGを見ずにすむのでおすすめです。
【子供の頃は】(300字)
「君の子供時代は、こーんなにちっちゃかったのになぁ」
片手でまるいくぼみを作って、あなたがそんなことを言います。
「さすがにそこまで小さくはなかったでしょう。僕が子供のときは、あなたも子供だったんですよ。子供の片手サイズなわけがないです。せめて大人の片手です」
「言われてみれば、そうだったかも」
あなたは笑い、僕を見上げます。
「でもさすがに、いきなりここまで大きくなるなんて、予想外だよ」
「だって、あなたとたくさんお喋りしたくて……」
僕は二つに分かれた尾をうねらせました。
「ただの猫だった頃は言葉が喋れず、ぜんぜん意思疎通できませんでしたからね。これからは化け猫として、末長くよろしくお願いしますね」