No name いろんなふたりやひとりの、概念や小噺

Open App
2/26/2024, 12:27:29 PM

君は今何をしているんだろうと思ったら、君は居間でうたた寝をしていた。君の手から放り出された本を拾い上げて、寝室から毛布を引っ張ってきたら、それをそっとかけてやった。きっと君は目が覚めたらハッとした顔で体を起こして、時計を見ようとする。そうして、ここにいる僕に気付いて、またハッとした顔をするのだろう。夜になれば、昼のうたた寝のせいで眠れないと呟いた君はにやりと笑って、きっと夜更かしに僕を誘おうとする。でも、明日は僕に仕事があると気付いた君は一瞬だけ落ち込んだ子犬のように眉を下げて、だけど、じゃあなにか飲みながら話でもしようか、と彼女が言葉を紡ぐより先に切り出す僕に、君は申し訳なさそうな、嬉しげな顔をする。
そしてふと、あれ僕は今何をしているのだろうと思ったら、僕は居間で君との事を思い出しながらうたた寝をしていたんだ。

2/25/2024, 10:19:05 AM

カンカン照りな空だった。いやもう、言葉の通りに日差しは皮膚を貫いて薄く伸びる雲だって少ししかないものだから、高いビルに囲まれて見上げると狭い空もはっきりとした水色なのだとわかった。きっとこちらからは見えぬ後方に続く空もビルの裏手もきっとすべてが水色だ。
そしてその空はまるで、あちらこちらと足早に行き交う人間をあざ笑っているようであった。自分にとってそう見えるだけなのだろうか。
兎にも角にも自分にはそれは物憂げな空でしかなく、さっと日差しに逃げ込んだ。日差しに逃げ込むと、先より日差しが眩く見える。あざ笑われているような心地は消えた。そしたら今度は日陰のしんとした冷たさに頭がクリアになって、途端に日差しが羨ましくなった。いや、違うかもしえない。日差しを浴びて、こちらが日差しをあざ笑っているような……これも違う。それすらも気付かない日々が、気にも止めない日々が羨ましくなったのだ。あの頃はいつだって上でも下でもなく、目の前のことに夢中であった。もう一度。もう一度、あの頃のように日差しの中に飛び出すことは出来るのだろうか。ひとつ、進めた革靴は光にコーティングされて、ああ、もしかしたらいけるかもしれない、と夏のはじめの真っ昼間に抱えた空腹を満たすべく、ふたつみっつとゆっくり駆け出した。

2/24/2024, 7:00:18 PM

大勢に小さな命と称される私の命を貴方は平等に扱った。
他者を値踏みする、いわば弱肉強食とも言える場所で、貴方は値踏みをせず、すべての民に平等に命の価値を10とつけていた。
私はそんな貴方が好きだった。そして貴方は私を甚く大切にしているのがわかった。貴方にお前が一番だ、と囁かれたとき、私は涙が溢れて堪らなかった。だってこの一番が飾る言葉は、今まで他者が私に口々に言った命の大小でも価値を表すものではないのだから。

2/23/2024, 3:12:55 PM

「love you」が貴方の最後の声だった。もう関係は終わったのだ。「I love you」と伝えあっていた頃には想像もつかない事だった。勿論、さよならの意味でもなく「love you」と伝えあっていた頃にも言葉はラフだけど関係はより親密になったと思っていた。まああの時は一瞬ばかりでも多分そうだったのだろう。少なくとも自分にとっては。
「I」も「愛」もなくなった今、私には「逢」だけが残り、「哀」と「会」が生まれた。運命のように貴方と逢った事実は消えない。でももうそんな事はないから、もう戻れないけど、やっぱり貴方にもう会いたくて、だけどきっと会ってしまったら、きっと哀は深くなってしまう。背を向けて呟いた「me too」は酷く掠れていた。

2/22/2024, 11:12:28 PM

彼は、自分は太陽の対にもなれぬと言った。あれはまるで太陽の眩しさの裏、路地裏にあるような真っ暗な影と同値だ、と彼が嫌う彼の周りの人間も彼をそう称した。でも、私が彼を見てきた時間なんざ、その周りの人間よりも勿論彼よりも少ないけれど、私は彼をひと目見たとき「この人はまるで太陽のようだ」とはっきりそう思ったのである。それか、月だ。
この時太陽か月かなどは関係ない。とどのつまり、どちらにせよ私にとってきっと彼は光だったのである。

Next