時間よ止まれ
わかってるよ、貴方が誰にでも優しいこと。
私への態度にも、善意以外の他意はない事。
それなのに、勘違いしそうになる。
貴方が太陽の様な笑顔で私を見つめるたび、私に笑いかけてくれるたび、話しかけてくれるたび。
このままの関係でいたいのに、私は貴方の彼女ではないのに。
周りの子にもそう接していると思うと嫉妬してしまう。
貴方がいるから入った環境委員。
放課後、貴方とたわいの無い話をしながら花に水をあげる。
今、ここには私と貴方の二人きり。
私はふと校舎の時計に目をやる。
時計の針は、この時間があと十五分しか続かない事を教えてくれる。
じょうろを握る手にぎゅっと力がこもった。
ああ、このまま時間が止まってしまえば良いのに。
夜景
夜景って、夜の景色ていう意味だそうだ。
まあ、漢字を見たまんまだけれど。
でも、こんなにも田舎だと夜景って感じがしない。
だってほら、夜景って聞くと大体の人はビルの光が綺麗に輝いているのを想像するでしょ。
田舎者としてはそんな夜景は憧れでしかない。
けれど、上を見上げると空一面の星と大きな月が綺麗に輝いているこの夜景も悪くない。
花畑
はあ、はあ。
息を切らしながらも、足を止めることはない。
「…もうすぐ、つくからね」
私は下を見て、彼の頬をそっと撫でた。
「ちょっとまだ土臭いね、もう少し洗ってあげるべきだったかな」
そう話しかけ、小さく笑う。
彼が返事をしてくれる事はない。
前に、彼と約束をしたのだ。
結婚式は、花畑の中でやりたいね、と。
ウェディングドレスを花畑の上で引きずり、明るい太陽の下で、みんなに祝ってもらうの。
二人でシャボン玉を吹いて、お花で冠を作って…。
ずっと夢だった。
だから今日、叶えに来たのだ。
まだ夜で森は暗いし、予定していたのはここでは無いし、シャボン玉も祝ってくれる人達もいない。
それでも私は叶わない。
貴方と結婚式を挙げられるのなら。
君からのLINE
十二月二十五日、今日は恋人と夜を過ごす人が多い日。
けれど、それは私とは遠い世界の話。
私は三日前、ずっと思いを寄せていた宏太に告白をした。
宏太とは幼馴染で、その日も一緒に買い物に行っていた。二人きりで買い物に行ったりは良くしていた。
だからこそ、宏太も私からあんな事言われるとは思いもしていなかったんだろう。
俯いていて表情は見えなかったけれど、声や仕草から驚いているのがわかった。
結局、返事は待って欲しいと言われ、そのまま帰る事になってしまった。
帰りの電車も空気は重くて、正直良い返事は期待していなかった。
だから私は、あの日の出来事を忘れたくてヤケになって今日バイトを入れた。
(あの時、告白しなければ今頃宏太と過ごせていたかもしれないのに。)
上の空の私を気にかけて、先輩が「休憩してきな」と声をかけてくれた。
ロッカールームへと行くと、私は椅子に腰をかけスマホを開いた。
すると、そこには宏太からのLINEを知らせる通知が二件。
私は震える手に力を入れながら、LINEを開いた。
『おばさんから今日バイトだって聞いた』
『終わったら少し会えないかな、迎えに行く。返信待ってるね。』
この日に、呼び出しって…。期待、しても良いのかな。
「先輩、今日早めに上がっても良いですか」
私は急いでコートを着て、さっきのLINEに返信をした。
夜明け前
夜明け前の静けさが心地よい。
張り切りすぎて、設定していたアラームよりもずっと早くに目が覚めてしまった。
まだ外は暗いけれど、部屋の中は温かい光に包まれている。
僕は彼女のために作った朝食をテーブルに並べながら、心の中で小さく笑っていた。
仕事人間である彼女の朝は早く、僕の目が覚める頃には居ないのが当たり前となっていた。
仕事の準備だけでも大変なはずなのに、彼女はいつも僕に朝食を作ってくれていた。
僕は胸がいっぱいになるくらい嬉しかった。
けれど彼女は「冷めたご飯しか出せなくてごめんね」なんて悲しい顔で言うものだからとても申し訳なくなった。
だから今日からは、僕が君に朝食を作ろうと思う。
君みたいに上手くは作れないかもしれないけど、休日に練習する予定だから今日は許して欲しい。
そんな事を考えながら食器を並べていると、優しくゆっくりと寝室の扉が開いた。
出てきたのは、目を擦りながら驚いた表情でこちらを見ている彼女。
その顔を見るだけで僕の心臓は高まっていた。
「おはよう。」
これから毎日、彼女との時間が増えるのなら早起きも悪くないかもしれない。