【クリスタル】
真夜中のクリスタルは何処に存在しているのかさえわからない
何かに…誰かの手に光を与えて貰わないと光る事が出来ない…否、自ら光ることを拒んでいるのかも知れない、それは自分がそういう性質だから故、暴君でもなく諦めでもなく、ただ自分はそうなのだと自然を受け入れている揺るぎ無い自信だ
光を与えられたら自らの性質を余すところなく思う存分にキラキラと誰に遠慮する事もなく
邪魔としかめっ面をされても臆することなくキラリキラリと輝いて見せる
「この他力本願ヤロウ」と真夜中に呟く真司は
わかっていた、ただの八つ当たり
自分は人として生まれ自ら輝をを放さないと
どんなに光を当てて貰っても、いつかくすんでいくことを知っているから、こんなにしがみつくんダロウ…いつまでも真夜中に住んでいてはいけないと踠くのだろう、人は太陽に照らされて生を感じられるように出来ている性質なのだから…クリスタルの様にただ自分はそういう性質なのだと受け入れて、明日の風に吹かれるしかない…力を抜いてそろそろ寝ないと
太陽が昇ってしまう…いいんだよ、何度目かの太陽で起きられても、心置きなく真夜中にいて
何も持たない自分でも、恥ずかしがる事はない
太陽にアタロウ…それが人だから
【夏の匂い】
中学から制服の変わった高校でも
君と一緒に居る時を思い出すのは
春の日も秋の日も冬の日もあったのに
いつも夏の匂いがした
茹で上がったばかりのトウモロコシの匂い
自宅前で花火した煙の匂い
バイバイのキスの感触
絡めた指の柔らかさをいつまでも触っていたかった
夏休みが始まって彼女から「好きな人が出来たから別れて欲しい」と告げられた雨上がりの夏の匂い
僕との6年間、ティーンエイジャーの季節はいつも君が居て、大切に大切にプリンセスを守る騎士で居るつもりでいたんだ
君を見送る公園でやけに纏わりつく緑の葉の匂い
落ちているセミの亡骸と自分を重ね合わせていた、こんなセンチメンタルな所が
新しい彼氏には無いと、男らしい人だと
僕の胸を君は言葉のナイフでサクッと切り裂いた
夏の終わり、新しい彼女と部屋でキスをしていた、彼女の髪の匂いを思い切り抱きしめていた夜
「アイス買ってきたの…一緒に食べよう」と
いきなりの訪問で
「無理だから今日は帰って」と告げる僕に
「私達の6年間ってその程度の物だったの?
別れて1ヶ月もしないで彼女を作るなんて
ヒドイ…」と言う
「今は新しい彼女が居るから」応えられないと言う僕にアイスの袋を投げつけた
先に去った君の涙の匂い
取り戻せない夏の匂い
【カーテン】続き… 主人公の胸の内
ヒロシは午後の陽を纏ってひらりひらり舞うカーテンを長くなった芋虫の様になった灰の煙草を持ったまま、ぼんやりと見ていた
白いカーテンは幸せな家庭の象徴の様に結婚当初は思って眺めていた
いつの間にか「ダイニングテーブルで煙草吸わんといて!今時、紙煙草なんて親父臭い!
笹山さんのとこのご主人も飯田さんのご主人も
電子タバコに替えたと言うのに、アナタって本当に進歩のない人ね」
「私…カーテンは絶対に白がいい!ねっ!良いでしょ?」と可愛い声で家具屋で話しかけた同一の女とは思えない声の女房が私の背中に向かって投げつけた日々は何年前の事だろう
それだって、幸せな家庭の形だと…
独りになって…孤独になって
話し相手が居る、空気が波打って伝わる
此処に居てくれるだけでいいと
しみじみとあの怒鳴り声を愛しく思い出すんだ
私は耳を傾けなかった、カーテンが揺れる様な物だと感じていた
耳障りにさえ感じていなかった
このままで良かったんだ
みんな多少我慢して生きてるだろ?
だけど、女房は私を進歩のない人間だと言った
伝わらない怒りを、もどかしさに、真摯に向き合わなかったあの時の自分に
見るのはカーテンじゃなく女房の顔だと
離婚を切り出されて……普通の生活が当たり前だと思っていた…そう思っていたんだ
明けない地平線を持つ娘へ
満天の空は青く夜なのに青く存在していて落とした目の先の闇は深く遠く果てしなく
見えて実はその先なんて無いのかも知れない
其処の地が一足進んだら森の闇に私の悲鳴と共に響き体を叩き付け森の闇に深く深く深く滑り落ちて行くのかもしれない
何てヒカンテキ、クスリと笑う
「星と言うのは良いだろう?」そんな娘の思いとは裏腹な感に満ちた父の声
『何故、ココに連れてきたの?
アナタの見せたかったのは本当は満天の星ではなく地平線の闇ではないですか?』
たまたま帰った家に迎え出た父
外出先ではクスリで飛ん出るって知ってるんだよね
脳内の満天の星を見ながら暗闇へ墜ちてるのと同じなんだと教えたいの?
現実と脳内で繰り広げられる空の青、地平線の闇
「どちらが怖い?」と突然聞く
父の顔は暗闇では見えない
「今…」そう答えた私に
「そう思うだろ…父は舞衣の闇を知らないけど
今はとても怖いよな、だけど朝になればこの闇を救う地平線から太陽は出て周りを明らかにする、地上を喜びに照すんだ
舞衣の闇は明けた後、舞衣を喜びにしているのか?
もし見ているのが孤独なら
抜け出せるうちにその闇から抜けて欲しいと
思う。
世の中はツマラナイサ
だからって捨てる程 酷くもないよ
舞衣…この満天の星空の美しさと
地平線の暗闇の深さの怖さを
覚えておいてほしい
そして人生はその先は無いのかも知れないと言うことを
みんな命の保証はこの一瞬にしかない
それでも次の一瞬をチェーンの様に繋いで生きている、父も舞いも。
父と舞衣の違いは
ツマラナイ人生を楽しくする方法が違うだけなんだ
父には明ける地平線はあるけど
舞衣にはあるのか?
【夏の気配】
一般的に夏の気配って雲の形だったり木の葉が黄緑色だったり空が薄い青だったりだんだん空気が淀んで来ると言うか……それは湿度が高くなっているのか、だけどその淀んだ空気の中に
在るのは本当に物質的な物だけなんて言いきれないよううな、、、そんな時は肩を払ってみてや…
そうそうサラッとでいいよ、
パンパンと手を叩いてもいい…そう神社にお参りの時にする
2回パンパンて……神様のオワストコロニハする事に意味が有るんやて……
ハレルヤハレルー
制服のスカートも捲れ上がり脚なんか見えるのも気にしないで自転車をかっ飛ばしながら
ずっと頭の中で呟いている
『ハレルヤハレルーハレルヤハレルー』どこかで聞いた事のある言葉、意味なんか知らない
知る必要もない、ただ今だけ私の頭の中は
その言葉を呟いている
一番空に近い場所へ行きたかった
両手を高く広げてあの無限に広がる青空に向かってただ手を伸ばしたかった
私の行きたい未来も自由も全て油まみれの弁当屋に縛り付けられている
それを思い知らされた……高校を卒業したら
母親が営む弁当屋の手伝いではなく二代目の下働きになる…みんなが言う都会さ行きたかった…渋谷とか山手線とかそういう中で暮らしたかった…小学生の時から貯めたお金もいつか夢の為に使おうといつか夢の為に使おうと思っていた。その夢は今は叶えられないし、まだ弁当屋になりたくないまだ弁当屋になりたくない私がここに居る……この思いの丈を一番空に近い場所からぶつけたかった、空に拾って欲しかった、悔しい思い、母を助けたい気持ちを全て預けたかった……私は弁当屋二代目になる
『ハレルヤハレルーハレルヤハレルー』
未来はそう捨てたもんじゃないと誰か言ってくれ