踊らされているみたいで嫌なんだ
【君が見た景色】
君は怯えていた
「私……死んでしまうの…どうしよう…
あんな物を見てしまって…」と泣きながらおびえている
「何を……、見たの」僕は何度も美紗に尋ねた。
この夏休みを利用して美紗は祖母の家に遊びに行き、帰ってからはそう言って
ただ…ただ泣いている
「話してみてよ、何とかするよ」僕はダイニングテーブルの椅子に座り自分の肩を抱いている手に、そっと手を重ねた
美紗は僕の重ねた手に頬を押し当てて
「拓真……死にたくないよ」と言った
少し落ち着いた美紗はポツリポツリ話してくれた
祖母の田舎の言伝えでは、狐の嫁入りの幻を見た時に、花嫁の顔を絶対見ては行けないと
「見たら……死ぬと」
「そんな幻なんて、疲れている時に見たりするもので自分か作り出しているんだよ」と
僕は優しく美紗の顔の近くで、そして力強く言った
美紗は首を振る「見たの…幻でも何でもそんな事いいの…見てしまったの
そして、いつものついていない私はその狐の嫁入りの花嫁の顔を見てしまった」と
「花嫁は私を睨んで牙を向いたの」怒りで顔が歪んでいたと言う
僕は幻であってもその話は怖くてゴクリと生唾を飲んだ
「僕も…僕も見に行くよ」
「えっ?……」
「僕もその幻の狐の嫁入りの花嫁に会って
美紗が顔を見た事を、謝ってくるよ」
「どうやって?…」
「美紗のお祖母ちゃんに相談しよう」
「ダメよ!お祖母ちゃん倒れてしまうわ」
「それなら美紗が狐の嫁入りを見たっていう場所まで連れて行ってよ……僕だって見えるさ…それしか方法が見つからないんだよ!」
力を込めて言いながらも僕は恐怖で気が遠くなりそうだった……僕も…その時は死んでしまうのかな?
美紗と僕は美紗のお祖母ちゃんの田舎へ行き
セミの鳴く神社の近くの通りを歩いていた
林に面した辺りからジメッとした空気が土の匂いと共に重く漂っていた
「ここで見たんだね……その幻を」
美紗はコクンと首だけで返事をした
「ここで待とう」
その時、小さな笛の音がした
美紗は「あっ……」と息を飲んだ
僕と美紗は此処へ来る前に
僕の先祖の眠るお寺のご住職に相談して
御札を貰ってきた
それを貼ると花の嫁入りの狐達には見えない
だけど声だけは伝わると
美紗と僕に手渡してくれた
僕と美紗は慌てて御札を額に貼った
そして頭を下げていた
音が次第に大きくなる
僕の心臓は死んでしまうくらい高鳴っていた
僕は大きな声で「花嫁さんの顔を見てしまって
ごめんなさい!」と詫びた
行列は止まり、僕は恐怖でしにそうだった
どうせ死ぬなら美紗を死なせたくない
もう一度「ごめんなさい!」と謝ると
「謝りに来ましたか……そんな子は初めてだ」と柔らかな男狐の声が話しかけてきた
僕は生唾を飲んだ
「この前の女の子の友達ですか?」
僕は「はい」と返事をした
「そうですか……今、この瞬間
君たちは異世界に来ています
狐の嫁入りの花嫁の顔を見ては行けないと言う言い伝えは私達も知っています
人間は私達を恐れる余り、そんな話をしていますが…例えたまたま見てしまっても
静かにやり過ごしてくれさえすれば良いのです」
「狐の嫁入りを祝う心で居てください」と言い
離れようとした
僕は「と、と、友達の命は……」と言うと
「死んだりなんかしませんよ……牙を向いて威嚇した事は、叱っておきました」と聞くと
風が突然吹き
僕たちの御札が額から剥がれ落ちた
僕たちの姿は狐達に見えているはずだ……
僕と美紗は暫くぶるぶる震えながら頭を下げていた
そしてもう一度今度は爽やかな風が吹いて
僕と美紗の下げた顔に1輪ずつたおやかな牡丹の花が見えた
僕と美紗は顔を上げた
狐の行列は遠く小さくそして消えて行った
【言葉にならないもの】
溢れる出る相手への想いほど【言葉にならないもの】だろうと思う
だってそれは途切れ途切れの言葉になってしまうから
ジグソーパズルの様に溢れ出て散らばった言葉を繋ぎ合わせているうちに……
アナタは行ってしまう
笑顔の可愛いちゃんと言葉になるあの子の元へ
こんなに想っているんだよ
こんなにアナタだけ目で追ってしまうんだよ
焦る気持ちがまたジグソーパズルを崩してしまう
言葉にならないから
アナタの背中に寄り添った
『行かないで……』心は叫んでる
こんな大事な時でさえどうして言えないの
このワイシャツにアイロンをかけたのは私
「ワイン買ってきたの」やっと出た言葉だった
【風を感じて】
風を感じていられる程 余裕なんてなかった
ただこの街で生きていられる
それだけで心が弾んだ
人々に埋もれるだけで安心出来た
電車から見るぎゅうぎゅう詰めの街並みに安堵した
人が行き交う街が好きだ
他人に対して希薄なのが心地良い
誰も私なんか見ていない
自然の中で誰一人いない自然が私は怖い
漠然と怖い
景色が綺麗でも人が居ない所は
人間が恐怖するように出来ている気がする
人が人を求めて村になり町になり街になる
私は地方都市でも誰も歩かない所は嫌いだ
人の息遣いを感じない街が嫌いだ
たまに風を感じられる位で十分だ
【やさしさなんて】
「やさしさなんて」と言うタイトルに違和感があった
子供にお腹いっぱい食べさせる為に子供に構えず直接やさしく出来なくても、その心と行いは【やさしさ】
まだ小さくて言葉も分からない子供に必死に
ダメな事を泣いている子供に躾をする事も【やさしさ】
この子の為を思う、その気持ち
やさしさなんてのなんてって何だ?と考えた
【やさしさ】+【なんて】=【やさしさなんて要らねぇ】だろう
そんなやさしさなんて要らねぇから
早く旦那(奥さん)と別れてよ
そんな心情が垣間見える気がした
相手がその人の為に家庭を壊すとしたら
鬼になれと言う事
鬼になって私の所へ来て欲しい
自分だけの物になれ
やさしさなんて要らねぇから
早く家庭捨てて来いよ
その家庭を捨てたら
欲しいのはやっぱり【やさしさ】なんじゃないかと思った
だから【やさしさなんて】という心境は
人には無いんだと思う
【夢じゃない】
近づいてきた顔
これは夢に決まってる
『昨夜は遅かったの」と心で呟いて寝返りをうつ
何か変な気配……生温かいような波動
「ドア…開いてましたよ…用心してくださいね」
だっ誰?!
見知らぬ男は
向かいのアパートから毎日私を観ていると
「心配ですからね……君と僕は結婚するんだから」と全く知らない男は私に言った
狂気とはこのこと
私は無言でいた方が安全たと思った
見知らぬ向かいのアパートの男は
ただ私の歯ブラシを1つだけ持って帰って行った
こんな事ってあるんだ
夢じゃない