遠野 水

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【波にさらわれた手紙】
私はいつも海辺でサッカーのボールを蹴ってランニングするアナタの横で応援しているトイプードルのエミリです
毎日アナタが通るのを心待ちにしています
どうにかしてお友達になりたいけど
近づき過ぎると私はランニングの邪魔になります
そんなある日…私の可愛いの天敵チワワを連れたアナタと親しげに話す女性がいました
そうです……今の私の敵はその女性に他なりません
私はアナタを取られまいかと悲しい気持ちで二人を見ていました
私は思い余って道端のお地蔵様に「人間にして欲しい」とお願いしました
それを聞いていた科学者の太平教授が
私を可愛い女性に変身させてくれました
注意しなければならないのは濡れると元の犬に戻ってしまう事でした
私は太平教授の家で暮らしシャワーを浴びる度に犬に戻りドライヤーで乾かすと女性になれました。
私は太平教授に文字を教えて頂き、アナタへラブレターを書きました。
風の吹く海辺で私はアナタへラブレターを渡そうとしていました
アナタは未だ人間の私を見る前でした
突風が吹いてラブレターは波にさらわれました
私は咄嗟にラブレターを追って海へ飛び込み
犬かきで手紙を追って
トイプードルに戻ってしまいました
それでも想いを届けたくて
咥えたラブレターをアナタに渡すことが出来ました
アナタは「アレ?誰かのお使いなの?」と言い微笑んで受け取ってくれました
あの瞬間、あの微笑みは私だけのもの…心は満たされていきました
私は犬に戻っていたのでアナタの言葉が分からず「ワン」とシッポを振って返事をしました
私は犬に戻った自分を見て
何事にも無理があり行き過ぎは良くないと知りました
教授にもう人間にならないようにしてもらいました
完全に犬に戻った夏の日の午後でした
翌朝、私はアナタのサッカーボールのランニングを、少し遠くから応援していました

8/2/2025, 9:24:10 PM