遠野 水

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【眩しくて】
小学生までは幼なじみの隣の家の美和姉と
よく遊んでいたんだ
美和姉はよく擦り傷をつくる僕にいつも手当てをしてくれて「これでもう大丈夫」「痛かったよね」と優しく僕の顔を見て痛みを分かち合うように微笑んでくれた。
僕が中学生になった頃、美和姉は高校1年生で
それからは流行りのリップをつけて
とても綺麗になって行ったんだ
その艶めいた唇にドキドキして
僕は美和姉の全てが眩しくて、うつむいて
自分が年下だって事が、背の小さい事が、自分の細い腕が恨めしかったんだ
小学生からちょっと大きくなった僕には
手の届かない知らない大人の世界を知る人に見えて。
そんな美和姉が病気になった
治らないってお母さんがお父さんに夜中こっそり話すのを聞いたんだ
美和姉はだんだん親戚や友達に会いたがらなくなって行ったようで、僕も会えずに半年が過ぎた
ある日、美和姉のお母さんが家に訪ねてきて
美和姉が僕に会いたがっているというから
僕は美和姉に似合いそうなネックレスを買って
病室へ向かった、大変な病気なようでお母さんも病室前まで着いてきてくれた
個室に寝るベッドには骨だけの細い腕をした
美和姉が僕を待っていた
びっくりして動けなくなった僕を見て
美和姉が「驚かせて…ごめん」と言った
僕は平気な顔をしていられない自分が情けなかった、美和姉を困らせるのに……
もし高校生だったら僕はもっとしっかりしていられたのかな?子供の自分が嫌だった
「たっくん…此処に来て」と美和姉の白い手が
僕を招く
「たっくん、これ覚えてる?
たっくんが夜店で買って私にくれた指輪
これを天国へ持って行ってもいい?
遊んでいた小さな頃を思い出に指輪を見て頑張るよ」と最後は泣きながら美和姉が僕の腕を掴んだ
僕は「今、頑張れよ!何で行ってからなんだよ……」とめちゃくちゃ無理な事を言った
美和姉は「ごめんね…疲れちゃったから」と涙を拭いて僕に謝った
僕は左手の薬指に赤色のおもちゃの指輪を美和姉にはめて
「僕がおじいちゃんになって天国へ行った時に美和姉を見つけるから指輪をしていて」と言うと美和姉は花が開くように微笑んだ
僕は「写真を撮ろう」と言ってベッドにふたり並んで携帯電話で写真を撮った
赤色のおもちゃの指輪をはめて微笑んでいる美和姉はとても綺麗で眩しかった
僕は現在(いま)もその写真を飾って毎朝の珈琲を飲みながら美和姉に「おはよう」と声をかけている

7/31/2025, 12:36:50 PM