【8月、君に会いたい】
僕はトウモロコシ畑を歩いていた
川から吹く風で揺れるトウモロコシの波の中で…
あれは幼い頃見た幻なのか
僕は祖母の家に夏休み遊びに来ていた
少し高台にあるトウモロコシ畑
背の高いトウモロコシの間を歩くのが僕は好きだった
夕方と夜の間、太陽が落ちてほのかに光る頃
トウモロコシ畑を抜けて野原に出た
其処には青い瞳の君が居た
金色に揺れる長い髪に花冠を付けて座って野の花を摘んでいた
まるで絵本の中みたいで……僕は立ち尽くしていた
だけどそれは絵本の中なんかじゃない
その女子は野原の向こうに住んでいる「エリス」と教えてくれた
僕達は野原を走ったり、テレビで流行ってるアニメの歌を歌ったり、学校の話なんかもした
エリスは軍の中の小学校へ行っていた
僕は今にも消えてしまいそうな、とても綺麗なエリスに「また毎年、此処に来るよ、必ず来るからエリスも来て」と伝えてトウモロコシ畑をくぐり抜けて祖母の畑に出た
あれから僕は毎年、8月に君に会いたくて
こうして夕方と夜の間のトウモロコシ畑を歩く
今年も歩いている
あの野原を目指して
もう一度、あの8月の夢のような、君に会いたい
僕は何故か走り出した
分からないけど勝手に思い切り走り出した
野原に抜けて
エリスは花冠をつけて僕を見付けた
僕は驚いた
エリスは小学生のまま何も変わっていなかった
僕はとてもとても怖くなって祖母の畑まで戻った
祖母にはトウモロコシ畑には入らないように言われていた【魔除け】なんだと言っていた
お風呂に入って鏡を見て恐怖した
背中に小さな手の跡が紅く付いていた
8/1/2025, 10:29:31 PM