駄作製造機

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5/16/2024, 10:52:09 AM

【愛があればなんでもできる?】

プルルルル

それは、深夜の2時を過ぎた頃だったと思う。

夏の熱帯夜、俺は寝付けずにネット徘徊をしていた。

そんな時だった。

非通知で驚いたが、深夜テンションで気が狂っていたのか、イタズラだと頭の中では理解していた。

ピッ

『も、、もしもし、』

満を持して電話に出た。

『、助けて、僕、桂馬。』

それは長年苦楽を共にしたが最近連絡をとっていない親友だった。

『桂馬?!どうした?』

どうやら泣いている様子の親友。

幼稚園の頃から一緒だったからか、親友が困っているとどうしても放って置けない。

『人、、埋めるの手伝って。』

は、、?

声も出なかった。

外では雨が降っているのか、その雨音がやけに近くで聞こえてくる。

『ひ、、と?』

ようやく絞り出した声は女性のように高かった。

『来て、、いつもの場所、待ってる。』

桂馬はそれだけ言うと電話を切った。

いつもの場所、、

俺と桂馬が遊ぶ時はいつもその場所で待ち合わせをしていた。

即座に財布とダウンを羽織り車のキーと傘を掴んで外に飛び出した。

いつもの公園には、雨でびしょ濡れになった桂馬が立ち尽くしていた。

『け、、桂馬、』

止まった車に乗り込んできた桂馬に声をかける。

『流風、、僕、どうしよ、、』

手はワナワナと震え、自分でも抑えが効かないようだ。

『とりあえず、落ち着こうぜ。な?』

ビニール袋をそっと桂馬に渡す。

桂馬の元へ急ぐ途中、コンビニに寄って桂馬の好きなココアクリームパンとバナナオレを買っておいたのだ。

桂馬はそれを見て泣いていた。

俺は少しだけ安心して、車を発進させた。

桂馬から詳細を聞き、俺は本日2度目驚いた。

桂馬が殺してしまったのは桂馬の兄、慶太だった。

桂馬の兄はどうしようもないクズ人間で、昔から桂馬に暴力を振るっていた。

そればかりか、桂馬の彼女を騙し、金銭を奪い取っていたのだ。

それが発覚し、桂馬は兄を問い詰めたが、兄はしらばっくれるどころか逆ギレしたのだそうだ。

そして桂馬や彼女を罵り、それに怒った桂馬は衝動的に兄を撲殺した、、と。

『桂馬、、その、お兄さんの死体は?』

桂馬は俯き黙ったまま。

俺は聞くのはまだ早かったか、、と思っていたら、急に桂馬が口を開いた。

『流風、、流風はさ、愛があればなんでもできるか?』

顔を上げた桂馬の目には、俺は映っていなかった。

『え、、それは、TPOにもよる、、だろ?』

『なぁ、質問に答えろよ。流風。』

虚な目で俺を見つめる桂馬。

恐ろしいとも思ったけれど、そんな桂馬を綺麗だとも思っている俺もいた。

桂馬にこんな感情が芽生えたのは、多分中学3年生の時だったと思う。

桂馬は優しく誠実で、柔和な顔が綺麗だった。

そう思っていたのは俺だけではなかったようで、桂馬はよくモテていた。

桂馬のことをよく知らない奴らの中でヘラヘラと愛想を振り撒いている桂馬を見た時、自分の心の中で渦巻く嫌な感情があった。

そこからどんどん桂馬に対しての恋情が芽生えた。

それは今でも。

今でも桂馬が好きだ。

でも、そんな自分のキモい感情を蓋をして、縁を切るつもりで連絡を絶ったのに桂馬は俺を追ってきてくれた。

『ああ。何でもできる。だから、安心しろ。』

桂馬の濡れて湿っている頭を優しく撫でた。

桂馬は安心したように柔らかく笑い、瞳にやっと俺を映してくれた。

俺は桂馬の秘密の片棒を、一生背負うつもりだ。

俺は、愛のためならなんだってできるさ。

5/15/2024, 10:12:08 AM

【後悔】

思えば、この人生は後悔しかなかったな。

選択肢をどれか一つでも誤れば、いつのまにか奈落の底へと向かうバスに乗っている。

時に自分にしか出来ないことは何か、と三日三晩考えた日もあった。

でも結局は、自分が出来ることはみんなも出来ることで、自分だけが持つ自分だけの特別な、、というものはない。

その虚無感と悲観的な考えがどんどん膨らんでいき、次第に私は産まれてきてもよかったのかと考える。

考え出したら止まらず、そのまま悪い方向へと思考は加速していく。

そこで初めて私は後悔する。

産まれてきてしまったこと、あの時の選択を誤ったこと。

どうにもならないけれど、あの時ああしていれば、、そんな思いが心の中で渦巻き、自分の心にズンとした重いものを背負う。

もう変えられない過去をいつまでもいつまでも引きずる自分に嫌気がさして、それでも後悔をやめられない。

後悔って、そういうものだと思う。

それでも、それでも。

今日も私は息をしている。

ちゃんと眠たいし、お腹も空く。

生きている。

後悔しながらも、健気に生きているのだ。

人生を終わらせたいと考えたことは少なくない。

時に突然泣きたくなって、枕を涙で濡らした夜だってあった。

それでも生きている。

息をする、爪が伸びる、髪が伸びる。

当たり前のことだけれど、私はその一瞬一瞬の中で生きている実感を持つ。

多分この先も、ずっとずーっと、後悔だらけの人生を歩むのだろう。

それでもしぶとく自分は生きているのだろう。

今日も私は、後悔しながら生きている。

4/26/2024, 10:46:12 AM

【善悪】

『お疲れ様でーすっ!』

殺風景な部屋の中に弾んだ声が響き渡る。

パソコンに向かっていた1人の若い男性は顔を上げ、ビニール袋を下げてこちらへと歩いてくるもう1人の男を見やる。

『おう。差し入れか。ありがとな。』

『いえ。先輩も少し休憩しましょう。』

真っ白なデスクの上に黒のパソコン、ホワイトボード、白い蛍光灯、白い色の部屋。

白黒で統一されたシンプルな此処は、東京都千代田区にある都道府県警の連続殺人事件捜査本部だ。

連日の聞き込みと地道な調査により疲れ果てた捜査員達は仮眠室にて仮眠をとっている。

彼らは交代した捜査員の中の1人だ。

『んぁーっ、、きちぃなー。』

2人はサンドイッチを頬張りながら小休憩を挟む。

『ふー、、此処の防犯カメラにも映ってないっすねー。』

食べながらチラリと見るのはダンボールに入った大量の防犯カメラの記録CD。

『あとこれだけあるー、、』

絶望に似た声を漏らしながらも自分に喝を入れるようにして立ち上がり、大きく伸びをする。

もう1人も隣へ座り、仲良く2人で防犯カメラの確認に戻った。

『やっぱり何処にもいなかったですねー。黒スウェットの男。』

彼らが血眼になりながら探しているのは、今回の八王子連続殺人事件の容疑者候補、波沼だ。

というのも、彼が何故容疑者に上がったかと言えば、彼が必ず事件の日に現場に映っているからだ。

それだけで彼は疑われている。

警察は無能だと思っただろうか。

いいやそれは違う。

それしか手掛かりがないのだ。

それほどに狡猾で、陰湿な事件。

殺されているのは大企業の重役ばかり。

警察は怨恨の可能性も見ているらしい。

え?俺は誰かって?

たった今、先輩にサンドイッチを差し入れた沼野だ。

初めて先輩と会った時は、冴えない人だったから大丈夫かななんて心配していた。

実際ミスも多いし、よく上の人から怒られている。

でも、彼の観察眼はずば抜けていると思う。

この前だって、聞き込みをした時に話した人が犯人だと1発で見抜いていた。

だから俺は気をつけなければならない。

今回だけは、失敗したらボスから殺される。

"俺が殺人事件の犯人だと、知られてはならない。"

殺した理由はボスの指示だ。

どんな人でも殺す。

俺は子供の頃から育てられたプロの殺し屋。

つい2、3年前、この連続殺人の計画が始まった。

まずは6ヶ月間、警察学校で警察官になるために訓練を積み重ねた。

そこから出世を重ねて捜査一課へ配属された。

先輩とペアになったのはつい3ヶ月前。

俺のキャラは気さくで明るく、苦労を苦労と思わないポジティブな人間。

次に殺すのは10日後。

それまで証拠も何も出さずに逃げ切ってやろう。

ところでみんな、この世に善と悪が存在するのは知ってるか?

俺はよく思う。

善と悪は人によって変わるのだと。

例えば、親切心で浜辺のゴミ拾いをした。

だが、実はそのゴミはゴミではなく、何かに使う大切な物だった。

前者の方は善行だろう。

ゴミ拾いを進んでする。なんて心の優しい清らかな人間なのだろう。

後者は悪行だ。

ゴミと判断し、使う予定だった恐らく持ち主にとって大事な物を捨てた。

俺の場合は、殺すことで喜ぶ人がいるから善行だ。

先輩達正義のヒーローから見れば、それはたちまち悪行へと変わる。

人を殺すことは一般的には良くないとされている。

だが、俺にとってはそれが"善"なのだ。

みんなには"悪"にもとれるその行動は、人次第で"善"へと変わる。

何が言いたいかって?

俺は善行をやっている極めて善良な人間なんだってことさ。

今回も上手くやるよ。

俺が思う善行を。

4/15/2024, 7:39:53 AM

【神様へ】

『あそこの教会のシスターさん、信仰心が厚いのよ。』

近所のパン屋さんの口癖はいつも教会に住んでいるシスターの話題だった。

この国は神を第一とし、人々は神の下に皆平等であり、神から生まれた使徒なのだと説いた。

数々の色とりどりの家が並ぶ中、唯一共通していたのは十字架を壁に貼り付けること。

彼らは幼少時代より神を崇め称え、神こそ至高とした。

そんな国にある最大の教会。

マリア様の優美な像と、艶やかなステンドグラスが輝く神聖な場で、神の前に跪き祈りを捧げる1人の娘。

『シルウァ。今日も熱いお祈りだね。どうか彼女が救われますように。』

祈りが終わり、ロザリオを握ったまま目を開けた彼女に、黒服を着た神父が激励の言葉を捧げる。

『ありがとうございます。神父様。神様が皆を天国へ誘いてくれることを望んでおります。』

ブロンドのちゅるちゅるとした髪、宝石よりも輝かしいサファイアの瞳。

彼女はシルウァ。この教会きっての信仰心が厚い信者である。

『もうすぐ、、ですね。』

彼女は美しい金のまつ毛を伏せる。

それは何かを恐れているような、悲しんでいるような顔だった。

神父も居た堪れなくなったのか、彼女の肩に腕を回し、ここにいるというように支える。

『神が定められたものなんだ。』

『だからと言ってこんな、、』

シスターは遂に泣き出してしまった。

この国には、神の預言を聞くものが存在する。

選ばれ者としてその者も神同然のように扱われる。

その者が遂先週ほど、この国は隣国から攻め入られて戦争になるだろうと預言を出した。

そしてそれに勇敢に立ち向かうようにもと。

今まで何気ない日常を送っていた人々は混乱し、どうしていいかわからず涙した。

『神父様。私はその日まで此処で祈ります。皆が救われるように。』

『ああ、、貴方も救われますように。』

2人はお互いに十字架を切った。

ーーー

ドオォォン
ドオォォン

爆撃音と悲鳴が交差する深夜。

地響きが鳴り教会が軋みを上げる中、月夜に照らされた金髪が輝く。

『皆様が救われますように。』

彼女は誰もいなくなった教会で尚も祈り続けていた。

バタン!

『いたぞ!』

低く鋭い声に刺された彼女だが、祈るのをやめない。

隣国の兵士は武装したまま内部に入って行き、次々に破壊した。

『おい。』

兵士が隣にいた兵士に話しかけ、祈り続ける女の元へ視線を向ける。

『おい女。祈りをやめろ。』

銃口を向け、冷酷な目で彼女を見つめる。

『いえ。私は此処にいる皆様の救いをお祈りしています。祈りはやめません。』

凛とした声で言い放った女はまた祈りに向かった。

パァン!

背を向けた女を躊躇もなく撃った兵士。

確かな憎悪と、軽蔑の念を込めていた。

『そんなもの祈っても何もならない。』

ドガアアアアアン

彼はそう言いながらマリア像を破壊した。

『ぁ、、、あ、、』

女は息ができないのか、水に打ち上げられた魚のようにはくはくとしながら壊れ落ちていくマリア像を見つめた。

『か、、みさま、、へ、、届きますように、、』

彼女の瞳は輝きを失い、やがて深海を写した。

だが、彼女は手に持ったロザリオを離さなかった。

これは、戦争により壊滅した国の、狂信的なシスターの話。

4/6/2024, 11:21:41 AM

【君の目を見つめると】

『李梨花〜?早く入りなさ〜い』

玄関先で佇む幼女。

ドアの前にしゃがみ、綺麗にラッピングされたピンクの袋を両手に抱える。

『李梨花?って、、何それ。』

彼女の母親は彼女が抱えている物を見つめギョッとした顔をする。

『わかんない。ここにあった。』

『あらそう。早く入りなさい。』

母親は彼女の小さな手を引き、家の中へ入った。

ーー

袋の中身は可愛いクマのぬいぐるみだった。

『わぁ〜!かわいい!』

李梨花はクマのぬいぐるみをギュッと抱きしめ、綻んだ顔をする。

『お母さん!わたしいっしょうたいせつにする!』

『ああそう。よかったわね。』

あまり子供に関心がないのか、母親はご飯を作りながら女の子の方を見ずに答える。

女の子は自室に赴き、ベッドの上にクマのぬいぐるみを置いた。

ーーーーーーーーーー

『李梨花ー。明日入学式でしょ。早く寝なさい。』

お母さんは今日も少し口うるさい。

『はーい。』

明日から高校生。

希望していた学校にも入学できたし、新しく使うリュックや腕時計も買った。

楽しい友達できるかな。

なんて期待を寄せながらスマホを触る。

ベッドの端にはいつの日かプレゼントでもらったクマのぬいぐるみが。

どんな時も一緒にいたし、毎日抱きしめて眠っている。

『お母さん、前まであんまり私に関心なかったのにね。クマ郎。』

ぬいぐるみを抱きしめながら話しかける。

クマ郎は私が泣いている時もどんな時も寄り添って共に過ごしてくれたいわば私の一部だ。

でももう黒く薄汚れちゃった。

洗濯しないとな。

ジッとクマ郎を見つめる。

クマ郎の目、、何だかガラスっぽい。

『君の目、、何か変、、』

右目がおかしい。

更に注意しながら見ると、瞳孔の部分が動いた。

『これ、、、カメラ?』

ジイィッと更に見つめる。

誰かが見てる?

そういえば、この人形は玄関前に置いてあった記憶がある。

誰かがこの部屋を見ていた、、

私の姿を、成長をずっとずっと、、

そう考えると恐ろしくなり、クマ郎を窓の外へ投げた。

クマ郎の目を見つめると、カメラが埋め込まれてたなんて。

今まで気づかなかった。

体が震えて息が荒くなる。

目なんか見なきゃよかった。

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