駄作製造機

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11/26/2023, 1:16:53 PM

【微熱】

私は昔っから体が弱かった。
雨風に少しでも当たると熱を出し、体育で走るだけで息が上がって喘息の症状が出てしまう。

勉強は好きで、特に歴史の織田信長に尊敬の念を抱いている。

私の紹介はこれくらい。
特に好きな物は歴史くらい。他はあんまり興味がない。

学校の友達だって、入退院を繰り返しているから仲良くなれてないし、する必要もないと思ってる。

『吾妻さん、血液検査しますよ〜』

病室に看護師が入ってくる。

少し、外に出るだけだと思い織田信長の住んでいたお城、安土城に行ったら風邪を引いたのだ。

今はもう下がっているが、持病もあるので一応何週間か入院中。

私の血液を迅速に摂った看護師は、さっさと病室を出て行った。

『、、、はぁ、、こりゃまだ入院かな。』

独りぼっちの退屈な病室。無機質なデザインのベッド。
見舞いに来ない両親。

『あー、、安土城、見たかったぁ。』

外で秋色に染まった葉っぱの舞い散る様を見ながら、私は深く、大きなため息をついた。

ーー

進展があったのは、そこから2日後だった。

朝の体温検査に来た看護師が、受付の人から預かったと手紙とファイルに入った紙をもらった。

どうやら、

『吾妻さんに会いたいって言ってたけど、学生だし、ご両親が面会許可を出してないからって断ったら、じゃあこの紙を渡してくださいって。』

ということらしい。

名前を聞いたら、"中村天祐"というらしい。
ありそうでなさそうな名前だな。

ていうか、誰だ。
身に覚えのない人に名前を覚えられているという恐怖。

『、、、手紙は、、後から読もう。これは学級通信か。』

いつもは渡してこないはずなのに、クラスメイトも、担任すらも私のことなんて忘れるくせに今更学級通信か。
嘲笑う様な織田信長の様な笑みを浮かべて学級通信を読む。

今の季節は秋。ちょうど文化祭があった頃か。

『、、、くだらない。』

笑顔でピースして写っているクラスメイト達を見ると、少しだけイラッとし、紙を放り投げた。

次は手紙だ。くだらないこと書いてあったら皮肉をたっぷり入れた手紙を送り返してやる。

『、、吾妻美代さん。学級通信は見てくれましたか?僕は中村天祐と言います。学級委員長をしていて、勉強はそこそこです。はっなんだコイツ。手紙の書き方を知らないのか?』

"僕は手紙を書くのがものすごく苦手です。言っちゃダメなことを書いたり、思ったことを正直に言ってしまうんです。だからどうか、この手紙を読んで気を悪くしないでください。いつも、席に座って織田信長の歴史本をゲヘゲヘと眺めている吾妻さんを見て、美しいと思いました。気がついたら、ずうっと貴方ばかりを見てしまっています。結論は、早く元気になって貴方の顔が見たいです。体調が良くなったら、また会いましょう。その時は、僕とぜひお話をしてください。中村天祐より。"

『、、後半、口説かれている?』

ていうか、ゲヘゲヘとした顔とはなんだ。
私はそんな顔をして織田信長のご尊顔を眺めていたわけではない。

実に不愉快極まれり。
織田信長なら即斬ってる。

『、、これは皮肉を詰め込んだ手紙を書くのが有効か。』

そう思い引き出しを開けたが、、
便箋が入ってなかった。

白い上品な和紙で作られた牡丹の花のイラストが邪魔しない程度に描かれていたあのお気に入りの便箋が、、ない。

『あんの、、クソ親父、、。』

やり場のない怒りをベッドにボフンボフンとぶつけた。

ーー

ガヤガヤと騒がしい教室。

結局、一時退院を許されたのはそれから1週間後だった。
どんだけ心配性なんだよ。まったく。

そのくせ見舞いにはこないのに。
考えたらイライラしてきた。

織田信長のご尊顔でも眺めよう。

そう思い本を取り出し、堂々とした風貌で座っている信長のご尊顔を拝見する。

『ほら、ゲヘゲヘしてる。』

面白がる様な声が頭上から聞こえ、顔を条件反射であげれば、、そこには四角い眼鏡をかけたいかにも真面目キャラの男が私の前の席に座っていた。

『、まさか、、中村天祐。』

『覚えててくれたんだ。よろしく。吾妻美代さん。』

差し出された手は受け取らず、また本に視線を落とす。
そんなにゲヘゲヘしていたか?

『、、、、、』
『、、、』

『、、、、、』
『、、、』

『、、、なんか用?』
『いや。本を読んでる君も綺麗だなって。』

『は?!?!』

大きな声を出してしまい、クラス中の注目を集めてしまった。

『ゴホゴホ、、口説いているの?』
『まぁね。』

変人に目をつけられた。

ーー

また、熱が出てしまった。

ちょっと寒暖差が出ただけで喘息の症状が出てまた入院。

退屈だ。何故か前よりもっと退屈になった。
最近は頭の中に中村天祐の顔がチラつく。

細い糸目に四角い眼鏡。顔立ちの整った真面目キャラ。
だけど本当は思ったことをすぐに口に出すタイプのアホ。

でも、、、悪い気分にはならない。
病院の無機質な天井を眺めるよりも、中村天祐の顔面を眺める方がマシだな。

そう思いながら私はベッドに横たわる。
体が熱い。熱が少しあがってる。

ーー

退院できたのは、意外にも早く、4日後だった。

久しぶりに教室に入ると、こんな子いたっけ?という目を感じる。
織田信長はこんなの気にしない。そう言い聞かせながら自席に座り教科書を出す。

『美代ちゃん、久しぶり。顔色良くなったね。』

『、、、ああ。まぁ、、』

これは決して、学校にこれて嬉しいとかじゃない。
こいつに会えて嬉しいとか、そういう感情じゃない。
だから口角静まれ。

『、、僕は、貴方に会えて嬉しい。』

心を見透かされた様な気持ちになり、顔を上げると中村天祐と目が合う。

糸目が開かれており、優しい瞳が奥に構える。
まるで全てを見られている様な、射抜かれた様な気持ちになり、鼓動が早まる。

『、、ずっと、会いたかった。4日でさえ、長く感じた。』

彼の、真剣な顔と声色が、、、私をまっすぐに見ている。

『あ、う、、』

出てくるのはただの声のみ。
彼の瞳に捕まえられて、動けない。

『、、、ほ、保健室行ってくる。』

かろうじて搾り出た言葉と共に席を立ち、真っ先に保健室へと向かう。

『先生、、熱が、あるみたいなんです、、。』
『あら、、念の為ご両親を呼んでおくわね。熱を測りましょう。』

ドクドクとうるさい心臓。血液が高速で流れる感覚。
熱の時と同じだ。熱がぶり返したんだ。

ピピピピッ

『あら、、平熱ね。』
『、、、じ、じゃあ、この胸のドキドキと、息がしづらい感覚は、、?』

先生も首を傾げ、悩む。
本当は、わかっていた。織田信長に抱いている感情とはまた違う。

これは、、恋心だ。

『、、、微熱か、恋という名の、、』

顔が熱いと見なくてもわかるくらい熱っている。
これが、、恋。

何故だろう。
初めての感覚に恐怖している自分もいれば、ドキドキワクワクしている自分もいる。

今まであらゆる分野を学んできたが、恋心というのは読解不可能だ。

ただ、わかるのは。
彼のことが、好きだということのみ。

彼女はこれから、段々と微熱が熱になり、高熱になるでしょう。
"初恋"という名の、微熱がね。

11/25/2023, 3:18:33 PM

【太陽の下で】

私は1000年生きている吸血鬼。

もちろん夜型で人の血も吸って吸って吸いまくる。
ニンニクは嫌いで十字架も苦手。

いたって普通の吸血鬼だ。

いつも黒いカラスが住む大きなお城に独りぼっち。
でも退屈だと思ったことはない。

ここに度胸試しに来るやからを揶揄う事ができるから。
街の人間の間では吸血鬼の噂はもちろん、城に住んでる私を討伐しようと兵士をよこされた時もあった。

まあ、全員血を吸って栄養にしたけど。
紹介しているうちに度胸試しに何人か武装した人間が来た。

『ね、、ねえ僕帰りたい、、』
『うるせえ!置いて行くぞミョーセル。』
『さっさと来いよ。』

1人は少し伸びてる髪を後ろに縛って丸メガネをかけている。

1人は短髪でいかにも戦士っぽい。

もう1人は髪を真ん中でわけてチャラチャラした印象だ。

城を汚される前に気絶させて血をもらおうかな。

私はコウモリの様に天井のシャンデリアに足をかけて逆さまになり、3人固まって進んでいく団子を見つめる。

『シキャー、、シキャー、、』

1・UMAの様な奇声をあげて驚かす。

『ぎゃああ!カラス?コウモリ?!怪物?!?!』

2・窓ガラスをわざと割り、コウモリを驚かし操って暴れさせる。

『コウモリだ!!逃げろ!!』
『ま、まま待って!置いていかないで、、』

3・玄関の扉を閉めて閉じ込め、逃げ場をなくす。

『なっんで閉まってんだよ!!』
『早くぶっ壊してでも逃げよう!』
『うわああぁん、、怖いよぉ、、。』

スタッ

3人固まっている前に降り立ち、私は姿を見せる。

『だ、、?!』
『ヒッ、、』
『あばばばば』

3人とも震えて喋れない様だ。

『さぁて、、誰から吸われたい?』
『ギャアアアアアアアアア』

答えをやるはずもなく、1番筋肉質なやつを拘束し血を吸う。

『ん〜、、普通。』

2人目もさっさと血をいただき、3人目。

『こ、殺さないぇ、、』

相手は後退り、私は近づく。
腰が抜けているので逃げられず、捕まえやすい。

ガリッ

『ぎゃうぅっ!!』

ジュルッ
チュル

、、格段に美味い。
私好みの血の味だ。

うーん、、死なせるのは勿体無いし、、

首から口を離し、男を見る。

細い体躯に潤んだ瞳。
ふるふると震え、息が上がっている体。

1000年生きてても体験したことのない感情が湧き上がってきた。

コイツを側に置きたい。
直感でそう思った。

『、、、お前、名は?』
『み、、ミョーセル、、』

2つの牙の跡から血が出ている。
そこを指で押さえながら男の頬に手を滑らせる。

『ヒッ、』
『大丈夫。痛い様にはしない。ただ、、お前を側に置きたい。お前の血を永遠に飲んでいたい。』

そう言うと、目を見開き固まった。

『返事は?』

そう言うと、コクコクと首が千切れるくらい頷いた。
そこから、ミョーセルと私の生活が始まった。

『ミョーセル、太陽ってどんなものだ?』
『大きくて、あったかくて、神様みたいです。』
『、、、そうか、、。私も太陽を見てみたいな。』

吸血鬼は太陽に当たると死んでしまうから、いつか太陽を見たいという夢は叶いそうもないな。

2人の生活は意外にも楽しいものだった。
ミョーセルは毎晩私に血を飲ませ、外の話をし、私はミョーセルの衣食住を保証する。

まさにgive &takeの関係だ。

ーーー

今日は私の1027歳の誕生日。

ミョーセルは買い物に出かけており、腕を奮って料理すると意気込んでいたから楽しみだ。

鼻唄を歌いながら暗い部屋でミョーセルを待つ。

今日は特別な日だった。
別の意味でも。

ーーー

僕が帰ってくると、妙に城が騒がしく、何故か胸騒ぎがした。

慌てて城の中に入れば、聖女様と騎士達が化け物だと言って何かを取り囲んでいた。

何か、、それは1つしかない。

『ユーリさん!』

その輪の中にむりやり入り、中心に横たわっていたユーリさんを抱き起こす。

あちこち切り傷があって、聖女様の浄化能力なのか少しだけ弱っていた。

『おい吸血鬼。この者は仲間か?』

殺気を含んだ視線を感じ、体が強張るけど、逃げたい衝動に駆られるけど、優しくて聡明で僕の話し相手になってくれたユーリさん、、僕を認めてくれた唯一の光を見捨てられない。見捨てたくない。

『そ』
『違う。コイツは私が飼っていた人間だ。コイツは、、ゴホッ、血が美味いからな。』

そうだと肯定しようとしたら声をかぶせられた。

『だからコイツは関係ない。』

ユーリさんは僕の手を払ってよろよろと立ち上がった。

『、、、そうか。サリー様、トドメを。』
『はい。』

聖女様の手が光り、ユーリさんに当てられる。

『待って、、待ってください、、』
『ミョーセル。ーーーーーー』

僕はその場に崩れ落ちた。
聖女様と騎士は動物を駆除したみたいにさっさと引き上げていった。

『ぅっ、、うぅ、、ユーリさん、、』

床に涙のシミができては消える。

"好きだ。"

ユーリが口パクで伝えた言葉は、これだった。

『、、、次は、太陽の下で。貴方が、綺麗な太陽を見れる様に。』

ミョーセルはユーリの輪廻転生を願い、今もこの城に住み続けている。

50年後。

『おじいちゃん、このお城にずっと住んでるの?私のなのに?』

お城の前で掃き掃除をしている老人のもとに、幼女がかけより声をかける。

『え、、?』

老人は手を止め、まさかと振り返る。

『ふふふ、、ミョーセル。ずーーっと会いたかった。』

幼女はイタズラっぽい笑みと、慈愛の目で老人を見つめる。

『っ、、、ユーリさん、、僕もです、。』

老人も愛おしそうに幼女の頭を撫でた。
2人は太陽の下で、再会を果たした。

11/24/2023, 11:19:26 AM

【セーター】

彼女はいつも、セーターを着ていた。
夏には夏のセーターを。
季節に限るのではなく、一年中ずっっと。

初めて見た時は、どんだけセーター好きなんだこの人、、と若干引いたが、今では年がら年中セーターを着ている彼女が愛おしい。

毎日色のとりどりのセーターを見るたびに、彼女がセーターを選んでいる様子が脳裏に浮かんできて一人でニヤけてしまう。

今日はそんな彼女と一緒に図書館で勉強。

予定の十分前に着くのは俺にしては珍しい方。
これにはちゃんとした目的と理由があるのだよ。

その理由は、彼女はいつも五分前に着くから、『ごめん、待った?』『いや、今来たとこだよ。』とにこやかに答えるという彼氏のやりたいことTOP5には入るシチュエーションにならせるためである。

そんなことを頭の中で妄想していたら、十メートルほど先から彼女が歩いてきていた。

俺に気づいた彼女は小走りになって黒髪を靡かせながらこっちに近づいてくる。

『ごめーん!待った?』

予想通りの反応。可愛いな。

『いや、俺も今来たとこだから大丈夫だよ。』

そういうと、ニッコリ微笑んで俺に自分の腕を絡ませてくる。

『じゃあ、行こうか。』

先を促せば、幸せそうに左右に揺れながら俺を引っ張る。

『ねえ、綺麗だよ!イルミネーション!』

時刻は午後六時。
冬なので日が沈むのが早く、真っ暗の空の中にキラキラと輝くイルミネーションが幻想的だ。

『そうだね。』

彼女の後ろに立ち、一緒にイルミネーションを見上げる。

光に照らされて彼女のセーターもキラリと光る。
ん、、?

セーターに短い髪の毛がついている。
、、、彼女はロングヘアーだ。

『、、、ねえ、短い髪がセーターに絡まってるよ。』

そう言うと、慌てて振り返って誤魔化す様に笑った。

『えへへ、、猫の毛かな、、。』

、、彼女が飼っているのは犬だ。しかも短毛種。
嘘をついている。浮気か?

『そうなんだ〜。』

平然を装いまたイルミネーションを見上げる。
最近男を部屋に呼んだ記録はない。

考えすぎか。

こんなに愛おしく笑う彼女を疑うのは良くない。
そう思い直し俺は彼女とのイルミネーションを楽しんだ。

ーー

ガシャン
ヂャリ、、

鈍い金属音で意識が浮上する。

『、ここは、?』

瞬きをして視界を慣れさせると、そこはコンクリートの部屋だった。
何にもなくて、窓もない。

ドアは一つだけで、俺の右斜め五メートルくらい前にある。
確か、彼女と別れて、、そこから記憶がない。

コツコツ、、

人の気配がして、慌てて隠れようとするが、足と腕をぎっちり固定されていて動けない。

ガチャ

ドアが鳴きながら開いた。

そこに立っていたのは、、
愛おしい彼女だった。

『やっほ〜。』

ロングヘアーを後ろに縛って、全身白いレインコートを着ている。
手にはゴム製の手袋。

暗い部屋、縛られている俺、汚れない格好の彼女。

何がどうしてそうなったのかはわからないが、一つだけわかることがある。

今、俺は危機的状況にあるということだ。

『俺、、何かした?』

まずは目的を探ろう。
浮気をした記憶はないが、人によって浮気の線引きが違う。

『ううん。何も。』

彼女は平然と答え、俺に近づく。
一歩。一歩。

近づいてくるたびに、困惑と恐怖が入り混じり背中が冷たくなるのがわかる。

『何が目的、?』

恐る恐る聞けば、彼女はキョトンとした顔をして首を傾げた。

『、、、ん〜、、強いて言えば、、髪、かな。』

髪、、、?

まさか、この前俺がロングヘアーよりショートが似合うと言ったことか?!

いや、、髪、、髪、、

『もしかして、俺が勝手にお前の部屋に入って浮気の疑惑がないか調べていた事か?』

その時に髪の毛も採取した。まさかそれに気づいて?
彼女はまたキョトンとし、そして納得した様な顔になった。

『あ〜だからか、、まぁ、いいや。』

『そ、そのことは謝る。怖かったんだ。俺から離れて行く事が、、だから』

ドスッ

包丁は綺麗に男の胸に刺さり、男は絶命した。
女は包丁は抜かずに手に持っていたバリカンで男の髪を刈り始めた。

『気づかれたら、材料になってもらうしかないよね。また新しいセーターが作れる〜。』

さも楽しそうに、男の頭を刈る女。
彼女は特殊なタイプだった。

セーターが好きという男の見解は正しいが、付け加えるなら、、

"髪の毛が一緒に編み込まれたセーター"が好きなのだ。

『みんな平等に、着てあげるね。編むのが楽しみ〜。』

彼女のクロゼットには、歴代の彼氏の髪入りセーターが並んでいるのだった。

11/20/2023, 11:58:49 AM

【宝物】

みんなが完全に寝静まった深夜1時。
僕は今日も、僕の宝物に会いに行く。

ガタンッ、、ギギギ、、

音に気づいたのか、黒い塊がコチラにかけてくる。

ニャオォン

『しーっ、、バレたらまずからね。』

黒猫。これが僕の宝物。

路上で倒れているところを見つけて、その金色の瞳に魅入られた様に動けなくなってしまった。

そこから惹かれるように家に連れて帰って、もう使われていない蔵の中で飼っている。

普通猫は懐かない印象だが、僕にならすぐに懐いた。
甘え方も上手で可愛い。

僕の大切な、宝物。

僕は大手企業の御曹司らしい。

草木は短く整えられ、専属の庭師もいる。
優しい使用人とお母さんとお父さんに囲まれて暮らしている。

この屋敷とみんなが、僕の大切なタカラモノ。

ーーー

いつから、こんなになってしまったのだろうか。

僕の前には倒れて動かない黒猫。

僕の手にはロープが握ってあり、縄の感触が妙にリアルだ。

あれ?今、、夢なんだっけ?
気がついたら此処にいて。

気がついたら猫は倒れてた。

ーー

ギギギ、、バタンッ

蔵の扉が閉まった瞬間、僕はハッとして周りを見まわした。

草木はボーボーで、何も手入れされてない。

そびえ立つ屋敷は廃墟と化し、肝試しに来たのであろう不届者達の落書き、飲みかけの缶、お菓子のゴミが散乱している。

今までの、綺麗な屋敷がない。
使用人も、お母さんもお父さんも。

『え、、?』

掠れた声を出すのがやっとで。
現実だと認めたくなくて。

でも地面に落ちている血濡れのナイフが全てを物語っていた。

そうだ。思い出した。
僕は、、

『アハッ、、アハハハハハハハハハ』

嗚呼、、タカラモノなんて、持たなきゃ良かった。
どうせ、壊したくなっちゃうから。

みんなみーんな、タカラモノ。

でもそれは、いつかなくなるから、タカラモノっていうんだよ。

そう。いつかなくなるタカラモノ。
なくなって悲しむより、なくして悲しむんだ。

僕は最後のタカラモノを壊しにロープを木の枝にかけた。

"僕"という、最後のタカラモノをね。

11/19/2023, 10:52:24 AM

【キャンドル】

ゆらゆらと揺らめく炎。
目の前にあるのは大好きなケーキ。

『お誕生日おめでとう!!』

たくさんの祝福を受け、火をフッと消し去る。
余韻の煙が揺蕩い、天井に昇って消える。

それと同時に目が覚める。
瞬間に漂う凶悪な匂い。

嫌な気分になりながら私は体を起こす。

『うぅ、、昔の夢見た。』

保存食を貪り食べ、ゴミは、、自分の良心が許さないからちゃんとゴミ箱に入れる。

『さ、、一狩り行きますかね。』

廃墟には、私の声がポツンと響かず残る。

バンバン!
ギャアアアア
グオオオォ

2025年、東京。

世界的に流行し、世界中の人々に恐怖と絶望をもたらしたウイルス。

20××年。

今では、ゾンビウイルスと化し、人工の大半がゾンビになっていた。

彼女はそんな中の生き残り。

数少ない食料と、劣悪な環境から彼女の命の灯火はもう少しで消えようとしている。

『はぁ、、寒くなってきたな、、。ゾンビも冬眠するかな。』

彼女は独り言を呟いて今日も眠る。

"これが夢であります様に。"

ーー

また、誕生日の夢だ。
昨日見た時より蝋燭の長さが小さい。

『おめでとう!』

幾分か小さい蝋燭は、私の前でゆらゆらり。

『、、、ふーっ』

私の息で炎は簡単に消え、真っ暗闇。

そして目が覚める。
また凶悪な匂い。

ゾンビ臭。

『はぁ、、これで最後か。』

最後の保存食を食べてまたいつものルーティン。
ゾンビ殺し。

初めて殺した時はグロさとキモさに吐き気を催したけど、大事な食料を吐き出すわけにもいかず、何とか我慢した。

でも2年も過ぎた今はもう慣れっこ。
家族だったゾンビを殺したけど、慣れっこ。
家族はもういないけど、慣れっこ。
慣れっこなんだ。

私は適応能力があるから。

『、、、おやすみ。』

もう、明日はないかも。

そう思い今日は寂れた家族写真におやすみの挨拶をキスをして寝た。

ーー

また、目の前には蝋燭が。
前の夢の時よりもっとずっと小さくなって、ゆらゆらり。

『お誕生日おめでとう!』

『、、、ありがとう。』

今日は違った行動をしてみよう。
どうせもう死ぬ。

保存食だけじゃ生きてけない。
栄養失調だし。劣悪環境のせいで体調悪かったし。

適応したのは心だけ。

『おめでとう。私。』

自分を祝ってあげる。

『ハハッ、、』

嘲笑しか出てこない。

蝋燭を、自分の手で削ってさ。
まさに飛んで火に入る夏の虫だ。

『もう、疲れたよ。1人ぼっちでさぁ、2年も。』

弱音でもいい。私は弱い。
自分を自分で元気づけて、まだ大丈夫だって。

それにも、もぅ疲れちゃった。

『さ、蝋燭消して〜!』

『早くしないと僕が消しちゃうぞ!』

辺りを見回せば、可愛い弟と優しい両親。

『わかったわかった。』

最後の、蝋燭。
もうロウがドロドロ溶けてケーキにかかっている。

『、、、ふーっ』

フッ、、と蝋燭の火は消えて。
寒いはずなのに、私の体は暖かかった。

だって、みんながいるから。

『ハッピーバースデー!』

『おめでとう〜!』

『ケーキ食べよう!』

ーーー

『ぅん、、た、、べよ、、ケーキ、、』

雪が彼女の体のラインに沿って降り積もる。

『ぉ、、、いし、、』

夢の中で永遠に。
その中だったら、キャンドルも永遠に。

彼女の顔は、大変安らかだった。

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