駄作製造機

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【微熱】

私は昔っから体が弱かった。
雨風に少しでも当たると熱を出し、体育で走るだけで息が上がって喘息の症状が出てしまう。

勉強は好きで、特に歴史の織田信長に尊敬の念を抱いている。

私の紹介はこれくらい。
特に好きな物は歴史くらい。他はあんまり興味がない。

学校の友達だって、入退院を繰り返しているから仲良くなれてないし、する必要もないと思ってる。

『吾妻さん、血液検査しますよ〜』

病室に看護師が入ってくる。

少し、外に出るだけだと思い織田信長の住んでいたお城、安土城に行ったら風邪を引いたのだ。

今はもう下がっているが、持病もあるので一応何週間か入院中。

私の血液を迅速に摂った看護師は、さっさと病室を出て行った。

『、、、はぁ、、こりゃまだ入院かな。』

独りぼっちの退屈な病室。無機質なデザインのベッド。
見舞いに来ない両親。

『あー、、安土城、見たかったぁ。』

外で秋色に染まった葉っぱの舞い散る様を見ながら、私は深く、大きなため息をついた。

ーー

進展があったのは、そこから2日後だった。

朝の体温検査に来た看護師が、受付の人から預かったと手紙とファイルに入った紙をもらった。

どうやら、

『吾妻さんに会いたいって言ってたけど、学生だし、ご両親が面会許可を出してないからって断ったら、じゃあこの紙を渡してくださいって。』

ということらしい。

名前を聞いたら、"中村天祐"というらしい。
ありそうでなさそうな名前だな。

ていうか、誰だ。
身に覚えのない人に名前を覚えられているという恐怖。

『、、、手紙は、、後から読もう。これは学級通信か。』

いつもは渡してこないはずなのに、クラスメイトも、担任すらも私のことなんて忘れるくせに今更学級通信か。
嘲笑う様な織田信長の様な笑みを浮かべて学級通信を読む。

今の季節は秋。ちょうど文化祭があった頃か。

『、、、くだらない。』

笑顔でピースして写っているクラスメイト達を見ると、少しだけイラッとし、紙を放り投げた。

次は手紙だ。くだらないこと書いてあったら皮肉をたっぷり入れた手紙を送り返してやる。

『、、吾妻美代さん。学級通信は見てくれましたか?僕は中村天祐と言います。学級委員長をしていて、勉強はそこそこです。はっなんだコイツ。手紙の書き方を知らないのか?』

"僕は手紙を書くのがものすごく苦手です。言っちゃダメなことを書いたり、思ったことを正直に言ってしまうんです。だからどうか、この手紙を読んで気を悪くしないでください。いつも、席に座って織田信長の歴史本をゲヘゲヘと眺めている吾妻さんを見て、美しいと思いました。気がついたら、ずうっと貴方ばかりを見てしまっています。結論は、早く元気になって貴方の顔が見たいです。体調が良くなったら、また会いましょう。その時は、僕とぜひお話をしてください。中村天祐より。"

『、、後半、口説かれている?』

ていうか、ゲヘゲヘとした顔とはなんだ。
私はそんな顔をして織田信長のご尊顔を眺めていたわけではない。

実に不愉快極まれり。
織田信長なら即斬ってる。

『、、これは皮肉を詰め込んだ手紙を書くのが有効か。』

そう思い引き出しを開けたが、、
便箋が入ってなかった。

白い上品な和紙で作られた牡丹の花のイラストが邪魔しない程度に描かれていたあのお気に入りの便箋が、、ない。

『あんの、、クソ親父、、。』

やり場のない怒りをベッドにボフンボフンとぶつけた。

ーー

ガヤガヤと騒がしい教室。

結局、一時退院を許されたのはそれから1週間後だった。
どんだけ心配性なんだよ。まったく。

そのくせ見舞いにはこないのに。
考えたらイライラしてきた。

織田信長のご尊顔でも眺めよう。

そう思い本を取り出し、堂々とした風貌で座っている信長のご尊顔を拝見する。

『ほら、ゲヘゲヘしてる。』

面白がる様な声が頭上から聞こえ、顔を条件反射であげれば、、そこには四角い眼鏡をかけたいかにも真面目キャラの男が私の前の席に座っていた。

『、まさか、、中村天祐。』

『覚えててくれたんだ。よろしく。吾妻美代さん。』

差し出された手は受け取らず、また本に視線を落とす。
そんなにゲヘゲヘしていたか?

『、、、、、』
『、、、』

『、、、、、』
『、、、』

『、、、なんか用?』
『いや。本を読んでる君も綺麗だなって。』

『は?!?!』

大きな声を出してしまい、クラス中の注目を集めてしまった。

『ゴホゴホ、、口説いているの?』
『まぁね。』

変人に目をつけられた。

ーー

また、熱が出てしまった。

ちょっと寒暖差が出ただけで喘息の症状が出てまた入院。

退屈だ。何故か前よりもっと退屈になった。
最近は頭の中に中村天祐の顔がチラつく。

細い糸目に四角い眼鏡。顔立ちの整った真面目キャラ。
だけど本当は思ったことをすぐに口に出すタイプのアホ。

でも、、、悪い気分にはならない。
病院の無機質な天井を眺めるよりも、中村天祐の顔面を眺める方がマシだな。

そう思いながら私はベッドに横たわる。
体が熱い。熱が少しあがってる。

ーー

退院できたのは、意外にも早く、4日後だった。

久しぶりに教室に入ると、こんな子いたっけ?という目を感じる。
織田信長はこんなの気にしない。そう言い聞かせながら自席に座り教科書を出す。

『美代ちゃん、久しぶり。顔色良くなったね。』

『、、、ああ。まぁ、、』

これは決して、学校にこれて嬉しいとかじゃない。
こいつに会えて嬉しいとか、そういう感情じゃない。
だから口角静まれ。

『、、僕は、貴方に会えて嬉しい。』

心を見透かされた様な気持ちになり、顔を上げると中村天祐と目が合う。

糸目が開かれており、優しい瞳が奥に構える。
まるで全てを見られている様な、射抜かれた様な気持ちになり、鼓動が早まる。

『、、ずっと、会いたかった。4日でさえ、長く感じた。』

彼の、真剣な顔と声色が、、、私をまっすぐに見ている。

『あ、う、、』

出てくるのはただの声のみ。
彼の瞳に捕まえられて、動けない。

『、、、ほ、保健室行ってくる。』

かろうじて搾り出た言葉と共に席を立ち、真っ先に保健室へと向かう。

『先生、、熱が、あるみたいなんです、、。』
『あら、、念の為ご両親を呼んでおくわね。熱を測りましょう。』

ドクドクとうるさい心臓。血液が高速で流れる感覚。
熱の時と同じだ。熱がぶり返したんだ。

ピピピピッ

『あら、、平熱ね。』
『、、、じ、じゃあ、この胸のドキドキと、息がしづらい感覚は、、?』

先生も首を傾げ、悩む。
本当は、わかっていた。織田信長に抱いている感情とはまた違う。

これは、、恋心だ。

『、、、微熱か、恋という名の、、』

顔が熱いと見なくてもわかるくらい熱っている。
これが、、恋。

何故だろう。
初めての感覚に恐怖している自分もいれば、ドキドキワクワクしている自分もいる。

今まであらゆる分野を学んできたが、恋心というのは読解不可能だ。

ただ、わかるのは。
彼のことが、好きだということのみ。

彼女はこれから、段々と微熱が熱になり、高熱になるでしょう。
"初恋"という名の、微熱がね。

11/26/2023, 1:16:53 PM