駄作製造機

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【宝物】

みんなが完全に寝静まった深夜1時。
僕は今日も、僕の宝物に会いに行く。

ガタンッ、、ギギギ、、

音に気づいたのか、黒い塊がコチラにかけてくる。

ニャオォン

『しーっ、、バレたらまずからね。』

黒猫。これが僕の宝物。

路上で倒れているところを見つけて、その金色の瞳に魅入られた様に動けなくなってしまった。

そこから惹かれるように家に連れて帰って、もう使われていない蔵の中で飼っている。

普通猫は懐かない印象だが、僕にならすぐに懐いた。
甘え方も上手で可愛い。

僕の大切な、宝物。

僕は大手企業の御曹司らしい。

草木は短く整えられ、専属の庭師もいる。
優しい使用人とお母さんとお父さんに囲まれて暮らしている。

この屋敷とみんなが、僕の大切なタカラモノ。

ーーー

いつから、こんなになってしまったのだろうか。

僕の前には倒れて動かない黒猫。

僕の手にはロープが握ってあり、縄の感触が妙にリアルだ。

あれ?今、、夢なんだっけ?
気がついたら此処にいて。

気がついたら猫は倒れてた。

ーー

ギギギ、、バタンッ

蔵の扉が閉まった瞬間、僕はハッとして周りを見まわした。

草木はボーボーで、何も手入れされてない。

そびえ立つ屋敷は廃墟と化し、肝試しに来たのであろう不届者達の落書き、飲みかけの缶、お菓子のゴミが散乱している。

今までの、綺麗な屋敷がない。
使用人も、お母さんもお父さんも。

『え、、?』

掠れた声を出すのがやっとで。
現実だと認めたくなくて。

でも地面に落ちている血濡れのナイフが全てを物語っていた。

そうだ。思い出した。
僕は、、

『アハッ、、アハハハハハハハハハ』

嗚呼、、タカラモノなんて、持たなきゃ良かった。
どうせ、壊したくなっちゃうから。

みんなみーんな、タカラモノ。

でもそれは、いつかなくなるから、タカラモノっていうんだよ。

そう。いつかなくなるタカラモノ。
なくなって悲しむより、なくして悲しむんだ。

僕は最後のタカラモノを壊しにロープを木の枝にかけた。

"僕"という、最後のタカラモノをね。

11/20/2023, 11:58:49 AM