転がる石を追いかけた
傷だらけの足で砂利道を駆ける
小さな小屋に転がり込む
誰にも見つからない秘密基地は今日もまだそこにあった
僕と君は手をつないで震えていた
凍えるような寒さの中、君の体温だけが神様みたいだ
風が小屋を揺らしている音に慣れてきた頃
死にたいと言ったきみは泣きつかれて寝てしまった
僕はまだ泣いていた
夜が起きてしまわないように 口を塞いで泣いた
僕たちは逃げてきたんだ
何もかもを捨てて 何一つとして持たずに
この寒さの中を生きていける気はしない
でも 僕たちは逃げてきたんだ
僕たちは ようやく 人になれたと思うんだ
君の手をぎゅっと握る
その暖かさはきっと明日には消えている
大丈夫
もう、怯えなくていい もう、泣かなくていい
もう、死にたいなんて思わなくていいんだ
僕たちは人として ただの人として眠りにつく
だんだんと閉じていくまぶたに 少しだけ抵抗しながら
白い息と一緒につぶやいた
どうか、この幸せなさいごが夢じゃありませんように
ザアザア ザアザア 空の涙が僕に降りかかる
小さな扉をくぐって雲の上
そよそよ そよそよ 優しい吐息が僕の髪で遊ぶ
雲のかけらを食べたらくるくると世界がまわった
よたよた ふらふら 足がもつれてしりもちをついた
目を開けたらそこは砂浜で
ざざーん ざざーん 大きな大きな涙の池があった
どうしてこんなに泣いてるの?
僕は空に聞いた
ざざーん ざざーん 波は変わらない返事をする
ざざーん ざざーん ざざーん ざざーん
僕はひらめいた!
僕が涙を拭いてあげるよ
ズボンのポケットから四角いハンカチを取り出して
ハンカチを波に近づける
あっ
ざざざーんとひときわ大きな波が出てきて
僕の体ごと飲み込まれてしまった
からい涙に埋もれて ぐるぐると体が回る
ぐるぐる ぐるぐる かき混ぜられて
僕の体が溶けちゃうんじゃないかと思ったとき
ぐるぐるぐる ざざざーん と砂浜に転がされた
頭を振って 世界に地面があることを思いだして
あっ
僕のハンカチ とられちゃった
じりじりとフライパンで焼かれているみたいな熱さだ
あたりは一面赤色の砂で、時々赤色の石と赤色の巨大な蛇が見える
どんよりと空は赤色の雲が覆っている
この星には赤色しかないのだろうか
ざくざくと砂に沈む足を動かして歩く
この星には緑がない、空の青もない、おまけに水もない
生き物と言ったら遠くに見える巨大な蛇くらい、何を食べて生きているのだろうか
そういえば、地球に置いてきたあの子も何を食べているのか知らないな
僕が星を旅する理由を作ってくれた空を泳ぐ小さなくじら
地球はそろそろ8月が始まる頃だ
そう思うとこの暑さも懐かしく思えてくる
ひんやりとしたあの子を撫でたいなあ
宇宙を旅する星鯨
あの子の仲間を見つけるために旅をしてるんだ
あの子は星を旅するにはまだ小さすぎるから地球でお留守番
帰りたいなあ
帰ろうかなあ
あの子に会いたいなあ
よし、それじゃあ帰ろう!
早く船に戻って帰り支度をしなくちゃ!
水たまりにうつる空
踏みならされた舗道のすみに
ひっそりとひろがる 小さな鏡
ひとしずくの雨が 世界をつつみ
空はそこで もう一度 生まれた
雲はゆるやかに泳ぎ
風のささやきも 波紋となる
ほんとうの空より 近くにあって
けれど 触れれば すぐに消える
かがんで覗いたその青は
いつかの夢に 似ていた気がした
誰にも気づかれず 誰かを映す
水たまりにうつる空は
今日も 静かに 問いかける
——君の中に 空はあるか、と
涙が嫌いでたまらなかった。
泣きたくもないのに勝手に目からボロボロと溢れて、それでいて「泣けば許されると思ってるのか?」とか「弱いふりしてたら構ってもらえて良いね」だとか好き勝手言われるんだから。
だから、泣くのは嫌いでたまらなかった。
それなのに君が何でもないことのように「死のうと思う」なんて言うから。
悲しくも無いのに勝手に目から涙が溢れてとまらない。
「死にたいならそうすればいいよ」
情けないほど震える声でそう言った。ああ、こんな汚い顔で言いたくなかった。今の君みたいにさらっと言いたかったのに。
だんだん涙だけじゃなくて鼻水も出てきて、スンスンと鼻を吸っても口元に垂れてきたから服の袖でぐいっと拭った。
赤く充血した目で君を見た。
君は困ったような、それでいてうっすらと微笑んでるようなよく分からない顔をしていた。
「別に悲しくはないからね、これは勝手に出てくるだけだから。私の意志じゃないから!」
そう言うと君は「うん」とびっくりするぐらい優しい声で頷いた。
それを見たらまたボロボロと涙が出てきて、ズビズビと鼻をすすりながら嗚咽をもらしながらより一層激しく泣いた。
それを見て君は「泣いてくれてありがとう」って優しく笑った。
ああ、本当に涙が嫌いでたまらない。
涙で君が思いとどまってくれたら良かったのに。
私の涙は本当になんの役にもたたない。
誰よりも優しい君は、一度だって涙を見せたことは無かったのに君が話をするたびに私は目を腫らしていた。
大変なこと、辛いこと、悲しいこと、寂しいこと、その全部を君はさも当たり前みたいに話すものだから。
悲しくなんかないのに勝手に涙が出てしまう。
君はもう辛い思いをすることはないのに。
君はもう心を殺す必要はないのに。
ああ、嬉しいのに、喜ばなくちゃいけないのに、こんなにも涙が止まらない。