涙が嫌いでたまらなかった。
泣きたくもないのに勝手に目からボロボロと溢れて、それでいて「泣けば許されると思ってるのか?」とか「弱いふりしてたら構ってもらえて良いね」だとか好き勝手言われるんだから。
だから、泣くのは嫌いでたまらなかった。
それなのに君が何でもないことのように「死のうと思う」なんて言うから。
悲しくも無いのに勝手に目から涙が溢れてとまらない。
「死にたいならそうすればいいよ」
情けないほど震える声でそう言った。ああ、こんな汚い顔で言いたくなかった。今の君みたいにさらっと言いたかったのに。
だんだん涙だけじゃなくて鼻水も出てきて、スンスンと鼻を吸っても口元に垂れてきたから服の袖でぐいっと拭った。
赤く充血した目で君を見た。
君は困ったような、それでいてうっすらと微笑んでるようなよく分からない顔をしていた。
「別に悲しくはないからね、これは勝手に出てくるだけだから。私の意志じゃないから!」
そう言うと君は「うん」とびっくりするぐらい優しい声で頷いた。
それを見たらまたボロボロと涙が出てきて、ズビズビと鼻をすすりながら嗚咽をもらしながらより一層激しく泣いた。
それを見て君は「泣いてくれてありがとう」って優しく笑った。
ああ、本当に涙が嫌いでたまらない。
涙で君が思いとどまってくれたら良かったのに。
私の涙は本当になんの役にもたたない。
誰よりも優しい君は、一度だって涙を見せたことは無かったのに君が話をするたびに私は目を腫らしていた。
大変なこと、辛いこと、悲しいこと、寂しいこと、その全部を君はさも当たり前みたいに話すものだから。
悲しくなんかないのに勝手に涙が出てしまう。
君はもう辛い思いをすることはないのに。
君はもう心を殺す必要はないのに。
ああ、嬉しいのに、喜ばなくちゃいけないのに、こんなにも涙が止まらない。
小瓶には七色の飴がはいってる。降るとカラコロとかわいい音がなる。赤、青、黄、白、緑、オレンジ、ピンクがあってそれぞれ味が違う。
大事に一日一個だけ食べるようにしている。どの味も美味しくて口に入れるとたくさんの幸せを感じる。
一番好きな味は白色の飴だ。綿菓子みたいに甘くて雲みたいにふわりと溶けてく。
今日はオレンジの飴を食べた。口に入れた途端、飴なのにあったかくて体がぽかぽかしてくる。味はちょっと酸っぱい。きっとお日様をぎゅって丸めて作られているんだと思う。だって今日はお日様がでていないから。
お空のまんまるお日様をたべちゃった!明日からお日様がいなくなったらどうしよう?
その時は残っているオレンジの飴を神様に返してあげなきゃ。
神様はきっとお日様を返してくれてありがとうってたくさん頭をなでてくれる。そうしてお礼にたくさんの飴を貰うんだ。
口の中でころころと飴を転がしながらつい、にこにこしちゃう。
オレンジがお日様なら黄色はお月さまかな?お月さまはどんな味がするんだろう?
明日が早く来るように今日はうんと早く寝よう。そして、起きたら一番はじめにお空を見てお日様がいるか確認しよう!
窓越しにみえるのは
日はてっぺんまで登り、足を動かすのも億劫なほどの熱気が地面から立ち込める。
こんな日に限って外回りの仕事を任される。本当にひどい話だ。
すぐ隣を走っていく車の風すら生暖かくて嫌になる。
右手に手提げかばんを持って、左手の服の裾で顔の汗を拭う。
大通りをひたすらあるいていく。ふと横を見ると知らないビルの窓越しにPC作業をしている人が見えた。
きっと冷房がきいているのだろう。
自分の会社は冷房のききがわるいせいで、あまり涼しさを感じない。羨ましい限りだ。
外回りついでにどこかの店で休憩してやろうか、、そんな考えが頭をよぎる。けれど、結局どこにも寄らずにまっすぐに帰社するのだろう。真面目というような性格ではないが、だからといって仕事中にサボるようなことはできない。
青々とした空を睨んで、ため息を付きながら歩みをすすめる。
仕事が終わったらコンビニでアイスを買おう。そう心の中で決めた。
ここではないどこかへ行きたい
仕事、食事、家事、外出、意味のない人間関係
何もかもに嫌気が差す。
お金のことなんか考えずに生活したい。
貯金なんてできやしないし、クレカの支払いで来月には収入のほとんどが消える。
どうやって生活しろって言うんだ。
にげだしてしまいたいくらいになにもかも面倒だ。
溜まっていくゴミ、干されてない洗濯物、洗われてない食器たち、
ため息が出る。
そうえいば日曜日は会社の先輩に外食に誘われてるんだった。
せっかくの日曜日なのに、先輩と会わないといけないなんて面倒くさい。嫌なことばっかりだ。
一度しかない人生は、からっぽで地獄の拷問のような無意味だとしか思えない日々の連続だ。
テレビやネットで笑う人たちが憎らしい。手を伸ばすことすらしないけれど、彼らからしてみれば私はなんの努力もせずに文句ばかり垂れているクズ野郎なのだろう。
いい人間になりたいわけじゃない、金持ちになれるならなりたいけどそこまでの裕福さを求めてるわけじゃない。
私は、誰かに必要とされて、そして誰かに感謝される存在でありたかった。
何もない手のひらに、涙ばかりが溢れる。
こういうときに人は消えたいと願うのだろうか。
理想は叶わない。というか叶えようとする努力すらしていないのだから当たり前だ。
ただの日常を幸せだと思えたらどんなに幸せか。
毎日が苦痛の連続だ。
ここから逃げないのは、別の場所でもっと苦しくなるんじゃないかって考えてしまうからだ。
誰もが輝けるわけじゃない。誰もが心の底から笑えるわけじゃない。
救われることのない日常という地獄の中でかろうじて息をしている。延命措置で薬に頼りながら生きている。
誰も私の知らない場所へ行きたい。
仕事もお金も交友関係も何もかもを捨てて、何も考えなくていい世界へ行きたい。
ここじゃないどこかへ、、、そんな場所があるのならば
繊細な花など、雑草に覆い尽くされてしまう運命だ。繊細すぎるものは人の手ですら毒となる。
繊細なもの、儚いもの、希少なもの、それらを人は愛でるけれどそれらの存在を脅かしているのは結局人自身だ。
才能のあるもの、美しいもの、優しいもの、それらに目を輝かせながら人々は足元の花を踏みつけて歩く。踏みつけた花の尊さを知ろうともせずに光り輝くものばかり追い求める。
君の足の下には潰れた花がある。
花を避けて歩く人ほど、遅いと馬鹿にされる世の中だ。置いていかれて、焦って走って花の事なんか考えてるだけ無駄だったと考えるようになる。
繊細で希少な花ほど、踏まれてしまえば、たちまち枯れていってしまう。
小さくとも、不格好でも、世界で1つしかない花だというのに誰もその価値を知ろうとしない。
踏み潰されてく花を見て、足を止める人もいない。
それが当たり前だからだ。当たり前だと思わないとやっていけないんだ。
花のどれもが踏まれても強く生きれるものじゃない。
人々に追い抜かれて、遅いと馬鹿にされても、小さな花を踏まないよう丁寧に歩く人になりたい。