君は泣きながら今日も自分を責める
誰が言うだろうか 君を貶す言葉を
誰が言うだろうか 消えろだなんて酷い言葉を
誰が言うだろうか 君に価値などないと
君が見てきた世界は 盲目で貪欲な人たちで溢れていた
そんな世界で
誰が言うだろうか 君に優しき言葉を
誰が言うだろうか 君を救う言葉を
たった一人で孤独に戦っている君に
私の言葉は届くだろうか
私の手は君を傷つけてはいないだろうか
私の心は君にとって恐ろしいものではないだろうか
君の涙を拭うことは罪ではないだろうか
いつか
君が前を見れるようになったとき
その時に君が見る景色は
どうか美しいものでありますように
その隣に私がいなくとも
砂浜の足跡
テストの花丸
目にかかる前髪
キラキラ光るシール
窓ガラスを伝う雨粒
明日の天気
吹けない口笛
底のすり減った靴
言おうと思って 口を開けて
やっぱりいいやって 口を閉じた
伝えたいことはたくさんあって
けれど 言葉にしたら単語1つで終わってしまうような
きっと それはどうでもいい話で
なんてことない事で
言うだけ無駄なのだけれど
やっぱり無駄だから 言葉にするのはやめた
タオルのしわ
自転車のペダル
昨日の電車
鏡の中の景色
つまらないなんて言われたくないから
くだらないなんて言われなければ
これらは皆 特別な宝物でいてくれる
石畳に甘いかたまり一つ
半分ほど溶けて地面にシュワシュワと吸い込まれていた
じっと見ていると
どこからともなく アリの子がやってきて
甘い宝の山を見つけた
1匹から2匹 3匹 4匹と増えていって
気付けばアリの家まで真っ黒な道ができている
甘い幸福をせっせと運ぶアリたち
炎天下の焼けるような陽射しの下で今日も働くアリたち
不満も言わず 贅沢も言わず
よくやるなあ と思う
茹だるような暑さでジワジワと鳴くセミの声が耳に響く
甘いかたまりはもうほとんど液体になっていた
ため息ひとつ
深呼吸ひとつ
さて、2つ目のアイスを買いに行くか
優しいねと言われるたびに 、どうして特別なことのように言われるのか分からなかった
子供の頃は自分の事なんて考えてなかった
大人に呆れられようが、馬鹿にされようがいつだって誰かのために行動してた
小学校の5年生のとき、初めての環境で一歩も動けず、助けも求められなかった一年生の子がいた
朝の掃除の時間、その子はいつもじっと立って何もしなかった
話しかけても一言も話さなかった
先生たちは諦めて放っておきなさいと言ったけれど、私はずっとその子のそばにいた
他の子たちは、その子に対して挨拶してから私に今日はどう?と聞いてくれた
その子を受け入れなかったのは大人だけだった
全校生徒が30人の小さな学校で、子どもたちは皆、理解し合うことを最初に学んでいた
次第にその子は学校に慣れ、私が卒業する頃には学校一のお喋りになっていた
互いを理解し合い、意図を読み、見守り、時に手を貸す
小さな学校では、当たり前に皆が知っていた
その学校を出たあと、私はそれが当たり前でないと知った
その小さな学校の卒業生は、私の知る限り半分が中学以降、不登校を経験している、もちろん私も含めて
私のひとつ上の先輩が言っていたことを思い出す
私も先輩も不登校になっていて、偶然街で顔を合わせた時のこと
二人でベンチに腰掛けてぼそぼそと静かに近況を話しあった
少しして、先輩は笑って言った
「〇〇ちゃんはいつも丁度いい距離をたもってくれるよね。近すぎず遠すぎず、本当に心地良い距離感」
私はそうですかね?と少しはにかみながら返した
「うん。すごく優しいよ。小学校の皆も優しかった。」
先輩はゆっくりとうつむいて目を伏せた
「小学校が良すぎたね」
私は何も言えなかった
優しさを知っているがゆえに、社会を生きていけない辛さは私も充分に知っていたから
何度人生をやり直すとしても、同じ学校を選ぶだろうと思うほどに良い学校と良い友人に恵まれた
けれど、それを経験してしまえば私達は卒業後にまともに生きていけなくなる
先輩と別れたあと、私はじっと考えた
優しさを知らなければ私達は今、普通に笑えていたのだろうか
きっと、笑えていただろう
人を無視して、馬鹿にして、のけ者にして、自分だけ笑っていたのだろう
その方が幸せなのだろうか
優しさなんてはじめから知らないほうが良かったんだろうか
転がる石を追いかけた
傷だらけの足で砂利道を駆ける
小さな小屋に転がり込む
誰にも見つからない秘密基地は今日もまだそこにあった
僕と君は手をつないで震えていた
凍えるような寒さの中、君の体温だけが神様みたいだ
風が小屋を揺らしている音に慣れてきた頃
死にたいと言ったきみは泣きつかれて寝てしまった
僕はまだ泣いていた
夜が起きてしまわないように 口を塞いで泣いた
僕たちは逃げてきたんだ
何もかもを捨てて 何一つとして持たずに
この寒さの中を生きていける気はしない
でも 僕たちは逃げてきたんだ
僕たちは ようやく 人になれたと思うんだ
君の手をぎゅっと握る
その暖かさはきっと明日には消えている
大丈夫
もう、怯えなくていい もう、泣かなくていい
もう、死にたいなんて思わなくていいんだ
僕たちは人として ただの人として眠りにつく
だんだんと閉じていくまぶたに 少しだけ抵抗しながら
白い息と一緒につぶやいた
どうか、この幸せなさいごが夢じゃありませんように