「勿忘草」
凍りついた時の中でただ君を想う
君がいなくなってしまってから何百年経っただろうか
ずっとずっとこの街は変わらない
君が来るまで永遠を彷徨い続ける
「必ずあなたに会いに行くから待ってて」
君はそう言ってくれたから
それだけを信じて待っている
何の力もない僕が永遠の魔法を使う為には多くの代償が必要だった
僕はもう目が見えない
僕はもう人間の姿じゃない
君が綺麗だと褒めてくれた僕の姿はどこにもない
君を抱きしめる手は鋭い爪になった
君の名前を呼ぶための声も獣の唸り声になった
雪に埋もれた城で僕はただ泣いている
涙は凍って厚い氷になって冷たい壁を作った
君を待ってる
君だけを想ってる
こんな僕じゃあ君も怯えてしまうだろうけど
何もない僕には
もう君しかいないんだ
君を信じてる
君を忘れたくない
どうかどうか
君も僕を忘れないで
僕はずっとずっとここにいるから
僕の体に花の種を植えたんだ
君は僕の顔が好きだったけど今はこんなに醜くなってしまったから
僕が死んだら沢山の花が咲くはずだ
君は綺麗なものが好きだから
きっときっと見つけてくれるって僕は信じてる
どうかどうか
僕のことを忘れないで
「旅路の果てに」
旅路を人生に例えるなら、「果て」は死を指すだろう
祖父母が死んだとき、私は想像していたよりもずっと簡単に身内の死を受け入れられた
祖父は優秀な人で、地元の議員だった。長年勤めた功績を讃えて国から賞を貰うほど勤勉で真面目で優しい人だった
祖母もとても優しい人だった。人の為に怒れる人で、数え切れないほどの友人がいた。人の為に尽くし、人を褒めるのが好きな人だった。
祖父も祖母も長い旅路を歩んだ
果ての先に、ふたりはどこへ行ったのだろうか
仕事を真面目にこなし、子供にも孫にも恵まれ、家族みんなに愛された。傍から見れば幸福な人生と呼べる人生だろう
でも、本人がどう思ってたかなんて誰にもわからない
辛いことも悲しいこともあったはずだ
二人共、息を引き取る瞬間は一人きりだった
家族の誰にも看取られることなく
祖母は病院で、祖父は老人ホームで、
長い長い旅路の果てに何を思ったのだろうか
そして私は
いつかたどり着く旅路の果てにいったい何を思うのだろうか
「優しさ」
あたたかくて ふわふわしていて まるくて つつみこまれるような感じ
ぽかぽかする陽だまりと寝起きのまどろみ
ひとりでもひとりじゃなくても ぜんぶ 大丈夫になって
みんなが好きになる
「今」が好きになる
そんな「優しさ」
でも、ぜんぜん違う「優しさ」も知ってる
つめたくて するどくて なみだのあじがする いたくてずきずきする感じ
氷水と塩をバケツであたまからかけられたように
どうしてそんなことを言うの
どうしてそんなことをするの
裏切られたような 捨てられたような ひとりぼっちになったような
痛くて 悲しくて 寂しくて やるせない怒りがわいてくる
そして
ずっとずっとあとになって
自分はひとりぼっちじゃなかったんだって気づく
裏切ったのは自分だったんだって気づく
長い道をあるいた先で ふと振り返ると その人がいる
優しい顔で 私を見てる
遠い遠い場所まで来た
随分と長いこと二人で旅をしてきた
焼けるような砂漠に古樹が立ち並ぶ深い森、石と塩に囲まれた真っ白な街
色んな景色を見て、色んな人と出会った
けれど、どこも誰も僕たちを受け入れてはくれなかった
はての果てまで歩いて僕たちの居場所を探してきた
ここは地図には描かれてない場所
誰もいない場所
誰も来れない場所
ちょっとさみしいかな?
でも、僕たちふたりならきっと大丈夫だよ
言葉を持たない君と、形を持たない僕
もうひとりぼっちじゃない
ふたりぼっちのこの場所で楽しく暮らそう
過去の悲しみも恐怖も寂しさも痛みも憎しみも
全部全部どうだっていいんだ
君と一緒ならなんにも不安なことなんかない
いつか眠りにつくその日まで
どうか
君と一緒に
切り裂くような冷たさも、とうの昔に感じなくなった
何も見えない暗闇の中、膝上まで積もった重たい雪をかけ分けていく
息を吸うたびに肺が痛くて咳き込んだ
体の表面はもう何も感じなくて、体の中心だけが熱く拍動している
頭が痛い 心臓が痛い
ふらふらと歩く、どうしてまだ足が動くのか、もはや分からなかった
ぐしゃりと雪に足を取られてバランスを崩した
手を出す余裕もなく 冷たい雪に全身が沈む
雪は冷たいはずなのに皮膚が焼けるように感じた
倒れ込んだまま、もう指1つ動かせなかった
閉じていくまぶたの間に見えたのは
ただただ純白の雪だけだった
すべてを覆い隠して
あとに残るは
雪明りの夜