明日にはいない人

Open App
6/8/2024, 10:44:11 AM

人生の岐路なんて、いくつもあった。

一番最初の岐路。

私にとってのそれは本との出会いだ。幼い頃から家にあった分厚い辞典を眺めるのが好きだった。文字の意味はわからなくとも何度も何度も見返すほど気に入っていた。

小学生になり、文章が読めるようになってからは学校の図書室の常連だった。

初めは低学年向けの絵本などを読むことが多かったが次第に物足りなくなり、小学3年生で高学年向けの本棚から本を探すようになっていた。

そこで出会ったのが「ダレン・シャン」だ。皆はこの小説を知っているだろうか?本の題名も「ダレン・シャン」、著者の名前も「ダレン・シャン」なのだ。

不思議だろう?

その上、書き出しもまるで自伝のようなものだから当時の私は本気でヴァンパイアが存在するのではと思ったほどだ。(ダレン・シャンはヴァンパイアの物語)

まあ、内容には触れないがとにかく私はこの「ダレン・シャン」がきっかけで読書の世界に深くのめり込むことになった。

それ以来、本を読まない日はないと言ってもいいほど毎日、本を読んだ。

当時、私が通っていた小学校の図書室は一度に借りれる本は3冊までだった。期限は1週間。私は数日おきに頻繁に借りては返却してを繰り返していた。

そんなこんなで小学校高学年に上がった頃、担任が変わりとあるルールが追加された。

その先生は読書を推進しており、宿題の漢字ノートを10ページ書くごとに図書室で本をプラス一冊借りれる券を作ったのだ。

その結果、普段は宿題を忘れて頻繁に怒られていた私は漢字ノートだけは提出率が高くなり、なんなら1日に2ページ3ページ書くこともあった。

本を読みたいがために私は漢字ノートだけはちゃんと書き続け、結果としてかなりの頻度でプラス一冊借りれる券を手に入れていた。この券のために頑張っていたのは同学年でも私ぐらいだったろうと思う。他の人が券をもらうのを見たことはあるが、正直、使っているのを見た記憶がない。ちなみに、自分は使わないからと譲ってもらった記憶はある。

と、まあ当時の私は本当に本を読むのが好きだった。中学に上がってからは授業中もこっそりと読んでいたぐらいだ。急にクラスが静かになったと思えば先生が真隣に立っていた、、、なんてことがよくあった。しかし、不思議と強く叱られたことはない。

今は昔ほど読書にのめり込んでいるわけではないが、それでも本を読むのは好きな方だ。

子供の頃、家にあった分厚い辞典。今読んでもぶっちゃけ理解できないぐらいの高度な内容の本なのだが、意味がわからなくとも当時から本に興味があったのだろう。


家にその辞典がなければ、、

学校の図書室に「ダレン・シャン」がなければ、、

もしも、「読みすぎだ」と誰かに怒られていたら、、

なんだかこういったIF世界線はSFにありそうだと思ってしまうのは読書家あるあるではないだろうか。

とりあえず、読書が嫌いな私なんて想像すらできない。自分を形作った物が無くなったとしたら、他の物で代用しているのだろうか?それとも空っぽのままよく分からない人生を歩むのだろうか?

結論。私は、これまでの岐路について「今生きているのならばそれらはすべて必要だったのだ」と思うことにしている。

6/7/2024, 12:43:50 PM

世界の終わりに君と。なんてロマンチックな表現だろう。

もし世界が終わるなら、誰とともに過ごしたいだろうか?やはり一番は兄弟だろう。私にとって最も愛する家族だから。

兄弟と一緒に語り、そして兄弟とともに終わりを見届けたい。

私の答えは家族に決まっている。けれど、せっかくこんなに美しいお題が出たのだから現実的な話じゃなく、ロマンチックな物語を作ってみよう。


「世界の終わりに君と」

しゃらしゃらと舞うように花びらが踊る桜並木を君と並んで歩く。

彼女が言った。

「ピンク色の蝶々も居たら良いのにね」

そのとたん、目の前を通った花びらがふわりと舞い上がりピンクの可愛らしい蝶々へと変わる。

蝶々はパタパタと重そうに羽を動かしながら彼女の周りを2.3周回って再び花びらへと戻った。

彼女の言葉は魔法だった。信じられないほど美しい彼女は名前も住んでいる場所も年齢も教えてはくれなかった。

けれど、なぜか私にだけ魔法が存在することを目の前で証明して見せた。

「桜はさ、儚いよね。すぐに散っちゃう」

彼女は私に笑いかける。その笑みは桜並木の中でひときわ輝いているように見えた。

「人もさ、儚いよね」

その言葉は、まるで自分は人ではないかのような言い草だ。

君は、、、そう言いかけて彼女に遮られた。

「何も言わないで。君は何も知らなくていいの」

彼女は桜よりも華やかな笑顔で続ける。

「私はね。ただ世界の終わりに君と一緒にいたかったの」

「このきれいな景色の中で君は幸せなまま最期を迎えられる」

世界の終わり?幸せな最期?何を言ってるのか全く分からなかった。

「どういうこと?」

思わず私は問いかける。

その瞬間。眼の前にあったのは美しい桜並木ではなく燃え盛る街と逃げ惑い叫び狂う人々だった。

困惑して、辺りを見回すも彼女はもうどこにもいなかった。

耳をつんざく爆発音が聞こえ、体が宙に浮く。

そのときに彼女が言ったことを理解した。


6/6/2024, 10:46:48 AM

最悪。最悪ね。

最悪な日?最悪な人?最悪な出来事?

うーん、どれもピンと来ない。

まだ、私の人生では最悪に出会っていないのかもしれない。

愛犬が亡くなったとき?優しい祖母が亡くなったとき?思いついたのはこの2つだけれど、それでもまだ最悪じゃない気がする。

死は人としての最悪の状態だと思うけれど、なんだか違う。酷く悲しんだし落ち込んだけれど、最悪ではなかった。


冗談交じりで人に「最悪」と言うけれど、実際に最悪だったことはない。

うーん、難しいな。最という字が使われてるのがそもそも悪い。一番悪いことだなんて、簡単には考えつかないものだ。

そうだな、一番の悪いこと。人類にとっての最悪と言うならば地球爆発とかだろうか?

地球爆発は流石に冗談だけれど、でも最悪というからにはそれぐらいの規模になるんじゃないだろうか。

まあ、結局は日常で言われる最悪なんてものは世の中から見たら酷くちっぽけだ。

今日起きた悪いことなんて、数年後にはそれを遥かに超える悪いことが起こるものだよ。

何かが起きてしまったなら、それは未来の予行練習だ。

いつか来る本当の最悪は、きっと誰も想像つかない形で私達の目の前に現れるだろうね。

6/5/2024, 11:14:44 AM

「A兄ちゃんは私と遊ぶの!!」
そう言ってA兄ちゃんの腕にしがみつく。周りにいる小さな子達からずるいずるいと文句が飛んでくる。

A兄ちゃんは仕方ないなあと困り顔で屈んで私を肩車してくれた。

そのまま小さな子たちをぞろぞろと引き連れて空き地をぐるりと回った。しばらくして、もういいでしょ、次はあたしの番!と声が響く。

私は大声で叫ぶ。
「いや!!絶対に降りない!!」

そんなこんなで優しいA兄ちゃんはいつも私だけを特別扱いしてくれていた。最終的には私がごねるだけごねて気づけば解散の時間になるのが常だった。

私はそうやって小学5年生から1年間ずっとA兄ちゃんを独り占めしていた。

高いところが苦手な私。小さい子たちにいつも自分のお菓子を分け与えていた私。



1年間…


私はA兄ちゃんに体を触られていた。人気のない場所に連れて行かれて口を塞がれて、体を押さえつけられ、下着の中を触られる。

誰にも言えなかった。

けれど、幼い私は必死に考えた。どうすれば他の子たちを守れるか。

それが、一年間に渡るA兄ちゃん独り占め作戦だった。

私は6年生になってからA兄ちゃんがいる場所には行かなくなった。心が壊れてしまって、人と関われなくなったからだ。

けれど、当時からずっと願っている。

どうか被害者が私一人でありますようにと。

大人になってからA兄ちゃんに会った。A兄ちゃんは笑いながら「特別な」と言ってファミレスで使えるクーポン券をくれた。

言葉で表しようもない感情が心の中で渦巻いたけれど私はただうつむいて「ありがとう」と言うしかできなかった。

6/4/2024, 12:06:05 PM

ワンルームの部屋。私も弟も妹も似たようなワンルームに住んでいる。家賃は3万ちょっと、妹の場合は社宅だから1万ほどだ。(羨ましい)

生活するのに不自由はない。けれど、長く住むほど自然とものが増えていく。

棚が足りないからクローゼットに衣服は乱雑に詰め込まれている。そのうえ生活域の三分の一は布団が占拠している。床を見れば、脱ぎ捨てた服と仕事用のかばんがフローリングの床にちらばっている。

典型的に汚いと評される部屋だ。

小さな座卓が部屋の中心にあって、真後ろに倒れれば敷きっぱなしの布団に頭が乗っかる。

部屋の惨状を目にするたびに自分の生活力のなさを実感してしまう。

生きるのって難しいな。そう思ってしまう。

起きて、ご飯を作って食べて、ゴミを出して、仕事して、帰りに買い物して、帰宅して風呂入って、ご飯作って食べて、寝る。それの繰り返し。

なんだか苦しいな。そう思ってから次第に1つずつ出来なくなっていった。ゆっくりと水滴が布に染み込むように日々の生活に暗いシミが広がっていく。

一人暮らしを始めたばかりの頃はこの部屋は輝いて見えた。自分の人生の分岐点となる場所だった。

ワンルームの部屋。この部屋で希望を抱き挫折し絶望し、その中でも小さな喜びに浸れる日もあった。

部屋に愛着など湧かないが、実家を出てから今までずっとこの部屋で生活してきたせいか今の惨状になおさら焦燥を覚える。

今の季節を考えてみてほしい。夏とまではいかないが梅雨の始まりだ。じんわりとした熱と肌にまとわりつく湿気。そんな時期に汚いと評される私の部屋で何が起こると思う?

カビに虫におまけにエアコンから吹く風も眉をしかめるほどの匂いがする。

はあ。

自業自得だが、ほとほと自分の生活力のなさに呆れる。

こんなでも、仕事や家族の中でもそれなりに信頼されているんだよ。

私の本当の姿を知っているのはこの狭い部屋だけということだね。







Next