やわらかな光が私の部屋のカーテンの隙間から刺してくる。
もう、起きなさいと言わんばかりに。
「駿さん……もう起きる時間………」
「うーん。もう、も、少し……………くー」
「駄目です。早く起きて」
そういうと私はベットからスッと降りる。
恋人の制止の腕をかわしながら…
「……今日は駄目です」
「………………」
力なく恋人の腕はベットに落ちる。
その腕は一度落ちたまま、動かなくなった。
…………また寝たな……。
「駿さん、早く起きてっ!遅刻しちゃう」
そう言いながらベットへ戻り膝をベットに置くと、手を優しく引っ張られ、バランスを崩しベットに私は倒れてしまった。
「ちょっ!なんですもうっ!!」
「………たまに敬語になるの、いつになったら辞めてくれるの?……それに、名前もまださん付け……年だって一個しか違わないのに………。」
「忙しい朝にいじける題材じゃないですっ。早く起きて、準備してください!」
「起こしたいなら、一度でもいいから名前にさん付けやめて……そしたら起きる……」
「〜っあのねー。」
「早く……」
私だって本当は名前で呼びたい。
でも、まだ、何だか名前でさん付けをしない呼び方で呼ぶのは、何だかむず痒いのだ。
「…………っ、どう、しても?」
「どうしても」
「………………………………………ん」
「…、なに?聞こえないよ?」
「………くん」
「まだ聞こえない…………」
「駿くん、早く起きて!」
そういった後の沈黙……………
「なんでだまってるのよーーーー!!!!」
こっちは凄く恥ずかしかったのに、黙るなんて狡いっ!!!
「何か言って!!」
そう言うと、彼は静かに私と目があったもののすぐにそらし、こう言った…。
「ごめん……。自分で頼んだくせに、いざ言われたら、なんか凄く恥ずかしくて、むず痒くなった………………
でも、嬉しい。」
鋭い眼差しが見つめる先は………
「いやだー!!!!拓斗ー!!!」
「何。どうしたの!大きい声出して」
「g〜!!!!!gが出たー!!!!」
「えっ!?g!」
晩ごはんを作っていた私の足元に現れたそれは紛れもない茶色いつややかな色、不気味に動く触覚をもつ、正真正銘のgだった。
「早く!早くやっつけてー(泣)」
私からg討伐を命じられた拓斗は、騒ぐ私を尻目にgを討伐するための装備を揃えていく。
「茜。ゆっくりこっちにおいで」
拓斗にそう言われた私は野菜を切っていた包丁を静かに置いて、ゆっくり拓斗の方へと向かう。
「そこにいてよ」
「うん。拓斗も気をつけてね」
私の足元にいたgは動くことなく静止をしたまま。ゆっくり、gに向かって拓斗は少しずつ足を進めていく。
そして、
スパーーーーーン!!!!
拓斗の即席丸めた新聞紙で、ものの見事にgは一撃。
してやったりである。
「うわー!!!凄い拓斗っ!!!さすが元野球部キャッチャー!!」
「はいはい。もう大丈夫だから、晩御飯の続き、よろしくお願い致します。おいしいおいしい晩御飯をお待ちしています。」
「はーい。ありがとう拓斗」
こうして我が家に平和が戻った。
g……君のことは多分、一生苦手。
けれど、君が現れた時、私には心強い騎士が居る。
「拓斗ー!好きっ!!」
「はいはい。俺も好きですよ」
何気ない会話をしながら、私は晩ごはんの続きを作るのだった。
高く高く、誰よりも高く翔べ。
「彰宏(あきひろ)っ!早くっ!!」
「はいはいはいっ!」
「何で彰宏は何時もこうやって時間にルーズなのっ!!こういう事で後で後悔することになってもしらないよっ!!」
「えへへ、後悔することにはならいね。
真昼(まひる)がいるから」
「…………(# ゚Д゚)馬鹿言ってないで早くいけっ!!」
私の彼氏、彰宏はとても時間にルーズでのんびり屋。遅刻なんて日常茶飯事。
そんな彼でも、人々は彼に一目を置く。
何故なら、陸上高跳びの日本記録保持者になったからだ。
「間に合った?」
社会人陸上部の先輩マネージャー、夏美さんに聞かれた。
「はい。何とか間に合いました。といっても、すぐに出番来ちゃうんですけどね」
彰宏の順番はこの次の次。
本当にギリギリだった………。
「今日は?調子良さそう?」
「どうでしょう?いつもの感じと全然変わらないですし、仮に調子が悪くても何時と変わらないから、難しいんですよね」
「そんなもの?お付き合いしてても」
「はい。私にはまだまだ……。修行ですね」
彰宏とお付き合いを始めてから3年近くなるが、まだまだ掴めない事もある。
けれど、最初の頃に比べれば気付けることも増えてきている。
うん。まだまだ!
「あっ、来るんじゃない?」
ついに彰宏の番が来た。ウォーミングアップも良い意味で完璧(笑)
彰宏が、出てくると会場は歓声に湧く。
今日も彰宏に合わせて手拍子がなる。
翔べ、高く!誰よりも、高く!!
翔んで見えた景色を私に教えて欲しい。
助走からの足音が聞こえる。
そして、舞い上がる。
空、高く。
子供のように泣けたら、私はきっと狡い女になるような気がする。
そんな女に、私はまだなりたくない。
なりたくないから、私は本音を押し殺し、彼に別れを告げたのだ。
彼に別れを告げ私は、抜け殻になったように
帰宅した。部屋着になることなく私はソファに座り、横になる。
「はーあ、辛い日だなー今日………」
テレビもつけず静寂が響く部屋の中で、私の声だけが響いている。
私の別れを告げた彼氏は、私には勿体無いくらい私にとってはいい人だった。
物腰も柔らかくて気が利いて、何も言わなくても察することが出来る稀有な人だった。
「なのに、された事は最低だったなー
私が、悪かったのかな……」
彼は、浮気した。
それも、既婚者と。2年も前から……。
信じられなかった……。
悔しさを通り越して、気付かなかった自分に嫌気が指した……。
別れた今も、彼は不倫をしている。
ずっと好きだという。
せいぜい楽しんで、そして崩れればいい。
幸せになんて、絶対になるな……。
「あははは、サイテー、私………っ」
明日は、友達の恵美と遊ぶというのに、この気分をどうしたら良いのだろう……。
そう思いながらもソファから動けない私は、もうしばらく、ソファに寝続けるのだった。
放課後は、俺にとっては嫌な時間だ。
俺は自業自得だが勉強が出来ない。そのせいでいつもテストは赤点。
ほとんどの教科で補修を言い渡される。
今日は、国語の補修だ。
「あー、わかんね。めんどくせぇ……」
漢字はまだしも、文章問題が難しい。
何となくわかるものの、答えのまとめ方が分からない。
「あー、今日は何時に帰れるかなー」
教室で何時ものようにわからず項垂れていると教室に誰か入ってきた。
「林君。どうしてまだ教室に居るの?」
声をかけてきたのはこのクラスで一番の優等生で、眼鏡をかけていて、髪の毛はロング。
新学期でたまたま席が後ろ前になった俺達は、何となく話すようになったものの、席替えをしてからは話さなくなってしまった。
彼女の名前は松輪 ひかり(まつわ ひかり)
「どうしてって、見りゃわかるだろ?
補習だよ補習。ま、わかんねーからいつ帰れるかわかんないけどね?……そういう松輪は?いつもならもう帰ってるじゃん」
「今日は、先生に頼み事されて、職員室に行ってたの」
「ふーん。先生のお気に入りは大変だな」
「あはは、うーん。正直、少し面倒くさかった」
彼女はそう言いながら、俺の机に近づいてきた。
「国語の補習?」
「そうだよ。漢字はわかるけど、文章はむりだわー」
そう、俺が言うと彼女は俺の前の席の椅子を後に引いて、背もたれをこちら側に向け、座った。
「?なにしてんの?」
「国語、私得意だから。早く終わりにして、帰ろう」
いわゆる、勉強を教えてくれるという事だろうか。それは、とても助かる。
彼女の教え方はとても分かりやすく、今まで悩んでいたのが嘘かのようにスラスラ解けた。そして、あっという間に終わってしまった。
「……スゴッ……もう終わった」
「はい。お疲れ様でした」
「うん。ありが……………」
補習のプリントから彼女に目を移すと、彼女は、とても綺麗に、可愛い顔で笑っていた。
夕日に照らされてそう見えるだけだったのかどうかわからないが、俺は………見惚れてしまった。
「…、林君?どうしたの?」
「えっあっ、いや、その!!」
彼女に見惚れてました、なんて絶対に言えない!!そう思いながらも、小さな恋の芽が生まれようとしている事をこのときの俺は、何となく感じたのだった。