いしか

Open App
10/11/2023, 11:35:15 AM

カーテンを閉めたら、部屋は間接照明の明かりだけになった。

私はついさっき失恋した。
私から別れを切り出した。浮気した最低彼氏に、私から別れを切り出したのだ。

「クソ野郎っ…………、罰当たれっ…っ!」

一人間接照明の中、悲しみ、暴言をぶちまけていると〜♫とスマホが鳴った。
誰からだろうとスマホをのぞくと、そこには男友達の将吾(しょうご)からだった。

「ずっ……もしもし」

『みずえ?今、平気?』

「平気……、へいきだよ〜〜っ」

『えっ?何!?どうした?』

私は将吾にどうして今こんななのかを説明した。私の説明の間、将吾はただ静かに相槌を打つだけだった。

「どうしてっ!どうしてっ男はこうなのっ!どうして浮気するのっ!私、わたし……っ何か………っ浮気されるようなこと…っしたの?ねぇ、どうなのっ!!」

私の電話の声は、きっと音割れしていたに違いない。それでも将吾が耳を傾けてくれているのが伝わってくる。

『………みずえ、』

「………………なに?」

『そんな奴、別れて正解だよ。そんな奴にみずえは勿体無いよ……。
ごめんな…みずえの元彼だった奴、今思いっ切りディスってるわ』

「……良いよディスって……あんな、最低なやつ………」

『……みずえ、…』

「だから、なに?…………ズッ」

『今から、みずえのうち行っていい?みずえの大好きなものばっかり買ってくるからさ』

「………ス。」

『うん?何?』

「アイスが一杯食べたい。チョコ味の……」

『チョコ味ね。はいはい。ちゃんと買ってくるよ。………それじゃあ、いまから行くから、待っててな』

「………うん。」

これから将吾がうちに来る。
私の好きなものを沢山買って来てくれる。

私は立ち上がり、部屋の明かりをちゃんと点ける。少し部屋を掃除して、座布団を一枚置く。

私の我儘や愚痴に、何も言わずいつも付き合ってくれる将吾…。
それに甘えっぱなしの私。

ごめんね将吾。ありがとう将吾。

私、将吾にちゃん返せるかな?
色々な事、ちゃんと返せるかな?

そんな事を考えていたらチャイムがなる。

私は玄関に向かい、将吾を迎えるのだった。

10/10/2023, 11:33:15 AM

涙の理由は、考えたくない。
自分で流している涙だけれど、私はその理由を今以上に思ったり、考えたりしたくない。
それに、泣いてる理由なんて、思ったり考えたりしなくても平気。私はそんなことしなくても、もうちゃんと知ってる。

「私……、泣かないって決めてたの……
 でも………っ私、今自分で自分との約束破った……っ」

鏡と向き合った私は、テーブルの上に置かれた鏡の前に座り、自分の不細工な顔を見つめている。

「………真尋(まひろ)………、2位だって………、凄くない?あのレースで2位に入ったんだよ」

真尋とは、私の彼氏。
彼氏である真尋は、普段は物腰も柔らかく、優しい人だ。
けれど、一度自転車に乗るとその顔つきは変わり、アスリートの表情に変わる。

真尋は、私が働いている会社に所属する自転車選手の一人でもある。

いわゆる、プロアスリートだ。

「……凄いな……、お祝い、しなきゃ」

大きい大会での表彰台。きっと、真尋も喜んでいる事だろう。本当は、今日、会場へ観に行きたかったけれど、私はダイレクトに風邪をひいてしまった。泣いている今も、熱は37.8度ある。
このまま熱が下がらなかったら病院に行こうねと、大会当日の真尋に言われたのだった。

〜♫〜〜♫

聞き慣れた着信音。

「ばい、もしもし?」
『もしもし楓。熱は?大丈夫?』
「分かんない。今熱はかってないがら…、」
『駄目だよ。ちゃんと計んなくちゃ。はい。今すぐ測る!』

真尋に促され測った熱は下がらず37.8度のままだった。

『……俺が帰ったら、一緒に当番医に行こうね?いーい?』

「ばい。わがりまじた。」

『凄い鼻声だね。本当大丈夫?』

「大丈夫だよ。ごの鼻声は、真尋の事でうれじなぎしただけだから……。
2位、おめでとう」

『………うん。ありがとう。ほんとは、優勝……、したかった……』

「うん。ちゃんとわがっでるよ……」

『あはははは!鼻声だと真面目なこと言ってても面白いね!表彰式終わったら直に帰るから、大人しく布団で休んでるんだよ?
わかった?』

「はい。わかりました……」

真尋との電話は、一旦ここで終わり。私は布団に戻り、ウトウトする。
真尋が帰ってきたら、風邪引いてるけど、抱きついていいかなー?


どうでもいい事を考えながら、わたしは大好きな真尋が返ってくるのを寝ながら待つのだった。

10/9/2023, 11:30:22 AM

ココロオドル。

カタカナで変換された文字。
何だが凄く軽く感じる。
文字の威力が一気に無くなった気がした。

連絡をしようと思って、やめた。

心躍る、なんて、どんな内容の連絡なんだ。

「でも……、顔が見たかった……」

こんな変な文章で送れば、何これ?って返信が直に来そうな感じがした。
けれど、私はそれが出来なかった。

なんだか、邪魔になったら嫌だなって思ったから。

「せいじー、会いたいー」

私の彼氏の誠司は、今大学の野球部の合宿で
遠方に居る。
なかなか連絡は繋がらず、すれ違い気味。

それでも、ちゃんと連絡を文面でしてくれる所が私は大好きだ。

「……もう一度……、してみようかなー」

スマホを持っては置いて、持っては置いてを繰り返している私。
早く連絡すれば良いのに…、と、もう一人の私が言っている気がする。

意を決してスマホを持ったとき、
〜♫とスマホが鳴った。


そこに書いてあった名前は、私の大好きな人
誠司からだった。

10/8/2023, 9:19:22 PM

束の間の休息は、別にいつもと変わらない。

特に予定も立てず、気分次第で動いていく。
それで良い。
だって、束の間の休息なんだから。

「はあー、うだるーーーー」

ぐだぐだ、ぐだぐだ、まるで自分がこのまま液体になるかのように、私はうだりまくっていた。


そんな時……………

ピロンッ

スマホが鳴った。

「うーん。だれだ〜」

スマホをのぞくと、そこには友達の桜があり、「今から会えない?」という文言が書いてあった。

私は特にやる事もなかったので「準備に時間かかるけど行けるよー」と返信をした。
すると、「分かったー。待ってる!」との返信。

「準備しなくちゃ………」

私は重い腰を上げ、なるべく早く準備を済ませていく。
あっという間に出来た準備に、やるじゃん私!と思いながらも家を出発。
桜に指定されたお店へ向かっていくと、そこに桜は居らず、代わりに樹(いつき)がそこに居た。

「なんで樹がここに居るの?桜は?」

「綾崎は先に帰った。俺が頼んで、真琴を呼んで貰ったんだ。……ごめん。騙して」

樹とは、高校生の頃に出会って、数少ない喋れる男の子だった。
当時の私は、樹に淡い思いを持っていた。けれど、樹はいつもその時付き合っていた彼女と一緒にいて、私に入れる隙はなかった。

「……何で、呼んだの?」

「……真琴に会いたいと思ったから。綾崎とは今日、ここでたまたま会って、無理言って呼んで貰ったんだ。」

別に気まずくなった訳では無いけれど、私の記憶は高校生の頃の私の感情に戻っていく。
楽しかったことも、悲しかったことも、全部。

「樹は、どうして私に会いたいと思ったの?……彼女が居なくなって寂しくなった?」

「違う。そんなんじゃない。もっと、その、純粋な気持ちだよ」

「ふーん。そっか……」

これからどんな話をするのか、私には想像も出来ない。
束の間の休息は、あっという間に流れて消えてしまった。

10/7/2023, 10:45:41 AM

力を込めて、私は貴方の手を握る。

私の力が、思いが、少しでも貴方につたわる様に。貴方が無事にゴールできるように。
無事に、私の所へ戻ってきてくれるように。

「かな恵、そんな力強く握らなくても大丈夫だよ。もう、充分過ぎる位伝わってきてるから」

「まだ、まだ、もう少し……」

私の彼氏は、珍しい仕事をしている。
私の彼氏、隼人の仕事はプロライダー。
バイクのモータースポーツをしている。

隼人の所属する階級では何回も優勝を果たしている。凄い彼氏だ。

「かな恵、俺、もう手が痛いよ」
「あっ!ごめんね。もう、離す。やり過ぎましたっ!」

そう言って、私が手を離すと、隼人は私の離した手を優しく掴み、自分の手で包んできた。

「ぎゅーっ!あははは、お返しー」

「だめだよ!お返しなんてっ!せっかく私が送ったんだから…………っ!!」

チュッ…………

私の手を掴んでいる手を隼人は隼人側へ優しく引き寄せ、私にキスをした。
びっくりしてしまった私は、少し固まってしまった。

「思いや気持ちは、唇でも伝えられるんだよ?かな恵」

やんちゃそうな顔で笑う隼人。

隼人、私の好きな人…。
大切で、大好きな人。

私はお返しにとばかりに、隼人にキスをする。すぐに離れると思った唇は、思ったよりも長く重なっていた。

「…………つ」

「あははは、かな恵、顔真っ赤だ。」

「……うるさいなー。…………行ってらっしゃい、隼人。」

「うん。行ってきます」

今日もレースに行く隼人を、私は見送る。

それが、私の日常。

それが、私達二人の日常。

Next