涙の理由は、考えたくない。
自分で流している涙だけれど、私はその理由を今以上に思ったり、考えたりしたくない。
それに、泣いてる理由なんて、思ったり考えたりしなくても平気。私はそんなことしなくても、もうちゃんと知ってる。
「私……、泣かないって決めてたの……
でも………っ私、今自分で自分との約束破った……っ」
鏡と向き合った私は、テーブルの上に置かれた鏡の前に座り、自分の不細工な顔を見つめている。
「………真尋(まひろ)………、2位だって………、凄くない?あのレースで2位に入ったんだよ」
真尋とは、私の彼氏。
彼氏である真尋は、普段は物腰も柔らかく、優しい人だ。
けれど、一度自転車に乗るとその顔つきは変わり、アスリートの表情に変わる。
真尋は、私が働いている会社に所属する自転車選手の一人でもある。
いわゆる、プロアスリートだ。
「……凄いな……、お祝い、しなきゃ」
大きい大会での表彰台。きっと、真尋も喜んでいる事だろう。本当は、今日、会場へ観に行きたかったけれど、私はダイレクトに風邪をひいてしまった。泣いている今も、熱は37.8度ある。
このまま熱が下がらなかったら病院に行こうねと、大会当日の真尋に言われたのだった。
〜♫〜〜♫
聞き慣れた着信音。
「ばい、もしもし?」
『もしもし楓。熱は?大丈夫?』
「分かんない。今熱はかってないがら…、」
『駄目だよ。ちゃんと計んなくちゃ。はい。今すぐ測る!』
真尋に促され測った熱は下がらず37.8度のままだった。
『……俺が帰ったら、一緒に当番医に行こうね?いーい?』
「ばい。わがりまじた。」
『凄い鼻声だね。本当大丈夫?』
「大丈夫だよ。ごの鼻声は、真尋の事でうれじなぎしただけだから……。
2位、おめでとう」
『………うん。ありがとう。ほんとは、優勝……、したかった……』
「うん。ちゃんとわがっでるよ……」
『あはははは!鼻声だと真面目なこと言ってても面白いね!表彰式終わったら直に帰るから、大人しく布団で休んでるんだよ?
わかった?』
「はい。わかりました……」
真尋との電話は、一旦ここで終わり。私は布団に戻り、ウトウトする。
真尋が帰ってきたら、風邪引いてるけど、抱きついていいかなー?
どうでもいい事を考えながら、わたしは大好きな真尋が返ってくるのを寝ながら待つのだった。
10/10/2023, 11:33:15 AM