いしか

Open App

力を込めて、私は貴方の手を握る。

私の力が、思いが、少しでも貴方につたわる様に。貴方が無事にゴールできるように。
無事に、私の所へ戻ってきてくれるように。

「かな恵、そんな力強く握らなくても大丈夫だよ。もう、充分過ぎる位伝わってきてるから」

「まだ、まだ、もう少し……」

私の彼氏は、珍しい仕事をしている。
私の彼氏、隼人の仕事はプロライダー。
バイクのモータースポーツをしている。

隼人の所属する階級では何回も優勝を果たしている。凄い彼氏だ。

「かな恵、俺、もう手が痛いよ」
「あっ!ごめんね。もう、離す。やり過ぎましたっ!」

そう言って、私が手を離すと、隼人は私の離した手を優しく掴み、自分の手で包んできた。

「ぎゅーっ!あははは、お返しー」

「だめだよ!お返しなんてっ!せっかく私が送ったんだから…………っ!!」

チュッ…………

私の手を掴んでいる手を隼人は隼人側へ優しく引き寄せ、私にキスをした。
びっくりしてしまった私は、少し固まってしまった。

「思いや気持ちは、唇でも伝えられるんだよ?かな恵」

やんちゃそうな顔で笑う隼人。

隼人、私の好きな人…。
大切で、大好きな人。

私はお返しにとばかりに、隼人にキスをする。すぐに離れると思った唇は、思ったよりも長く重なっていた。

「…………つ」

「あははは、かな恵、顔真っ赤だ。」

「……うるさいなー。…………行ってらっしゃい、隼人。」

「うん。行ってきます」

今日もレースに行く隼人を、私は見送る。

それが、私の日常。

それが、私達二人の日常。

10/7/2023, 10:45:41 AM