力を込めて、私は貴方の手を握る。
私の力が、思いが、少しでも貴方につたわる様に。貴方が無事にゴールできるように。
無事に、私の所へ戻ってきてくれるように。
「かな恵、そんな力強く握らなくても大丈夫だよ。もう、充分過ぎる位伝わってきてるから」
「まだ、まだ、もう少し……」
私の彼氏は、珍しい仕事をしている。
私の彼氏、隼人の仕事はプロライダー。
バイクのモータースポーツをしている。
隼人の所属する階級では何回も優勝を果たしている。凄い彼氏だ。
「かな恵、俺、もう手が痛いよ」
「あっ!ごめんね。もう、離す。やり過ぎましたっ!」
そう言って、私が手を離すと、隼人は私の離した手を優しく掴み、自分の手で包んできた。
「ぎゅーっ!あははは、お返しー」
「だめだよ!お返しなんてっ!せっかく私が送ったんだから…………っ!!」
チュッ…………
私の手を掴んでいる手を隼人は隼人側へ優しく引き寄せ、私にキスをした。
びっくりしてしまった私は、少し固まってしまった。
「思いや気持ちは、唇でも伝えられるんだよ?かな恵」
やんちゃそうな顔で笑う隼人。
隼人、私の好きな人…。
大切で、大好きな人。
私はお返しにとばかりに、隼人にキスをする。すぐに離れると思った唇は、思ったよりも長く重なっていた。
「…………つ」
「あははは、かな恵、顔真っ赤だ。」
「……うるさいなー。…………行ってらっしゃい、隼人。」
「うん。行ってきます」
今日もレースに行く隼人を、私は見送る。
それが、私の日常。
それが、私達二人の日常。
過ぎた日を想う事は、今に始まった事じゃない。けれど、今私は、とても幸せで、恵まれて自分で選んだ事なのに、物悲しく思うのは、何故なのだろう?
「明(めい)様。如何なされました?」
「えっ?」
「何処か遠くを見つめていらしたので、如何されたのかなと思い……」
「ごめんなさい。大丈夫よ。
………凛、お願いがあるの」
「はい。何でしょう。明様」
「この花瓶の花が、何時もより早く弱かっているの。水を変えてきてくれる?」
「はい。かしこまりました。」
「………一人だわ……」
私は明。この国の王様の側室だ。
元々は宮中の女官だった私は、王様に見初められ、側室になった。
王様の奥様、王妃様はとてもお優しく、側室である私にも優しく接してくれて、気を使って下さる方。
まさに、国の母、として相応しい人。
「…それに比べ……私は……」
私は王様の事を慕っている。心を完全に許してはいけない。そう、思っていたのに、私は王様を思ってしまった。
いらっしゃらないと、心悲しくなる。
側室は、ただ待っているだけ……。
なんだか、悲しく思うことがある。
「私……、今の立場で、何かを成す事が出来るのかしら……」
私の顔に、一粒の涙がながれた………その時
「明。息災か?」
声のした方に顔を向けると、そこには王様がいた。まだいらっしゃる時間ではないのに。
「お、王様……、はい。息災です」
私は自分の座っていた場所を王様にお譲りしようとしたが、
「あ!席は移動しなくて良い。そのままで」
そう言うと、王様は静かに私の所へやってきて、私の前に腰を降ろした。
「明の使いの者に、たまたま会ってな、何をしているのか聞いたのだ…。そしたら、明が少し一人になる時間を設けているのだと聞いてな、少し顔を伺いに参ったのだ…」
凛は、気付いていた。気付いて、花の花瓶の水を変えに行ってくれたのだ。
「私は大丈夫です。王様……」
「…強がっているのは、私にも分かる。……私を、恨んでいるか?」
「えっ……?」
「私は明から、女官という仕事を奪い、自由も………奪った。こうして待つ事しか出来ないと思うような立場にさせた。
……………すまない。
……それでも、私は、明の事を好いているのだ。これは私の我儘。恨むなら、恨んでくれて良い」
「う、恨むだなんて、そんな事はありません。」
少しの沈黙が流れる。
まだ明るい部屋の中が、静寂に包まれる。
王様と過ごす、貴重な時間なのに………
私は、言葉を浮かべる事が、出来なかった。
星座を見つけて欲しい。
この星座を見つけたら、私に知らせて欲しい。
王子様はそう言った。
けれど、私はその星座を見つけることは出来ていない。
きっと、王子様は見つけられない星座を伝えて帰っていったのだ。
私と、もう二度と会えないから。もう二度と、会うことはないから。
「王子様。私は、王子様と出会えて幸せでした。」
私と王子様は、身分が違う。王子様御一行が困っていた時に、私の家にお招きをし、その困り事が解決するまで私の家で過ごして貰っていた。
その間、王子様と私はたくさんお話をして、私は恐れ多くも王子様に恋をした。
けれど、そんな気持ちは、今すぐにでも手放さなければいけない。
そんな夜。
「今日は、夜空がきれいね」
私は外に出て、星を眺める。
「………あら、あんな星、あったかしら?」
「この、星の形…………、王子様が言っていた星座?嘘、今まで無かったのに」
私が驚いていると
「今まで無かったのは当たり前。
今日だけしか見えない。幻の星座だからね」
その声の主は、王子様だった。
「お、王子様っ!なぜ、こちらに?」
「うん。君を迎えに来たんだ」
「迎えた?私を?どうして……?」
「私は、君の事が好きなんだ。だから、君を妻に迎えたい。」
「はい?妻?………………………………えーーーーーーーーっ!!!!」
どうやら要約するにこの星座を見つけて知らせてほしいと言ったのは、自分の事を忘れないで居てほしかったからで、そんな重要な事ではなかったらしい。
そして、私の好意は、王子様にだだ漏れで、王子様も私の事を想っていたらしい。
そんなこんなありながら、私はあっという間に王子様の妻になった。
忘れなければと言っていた日が嘘のよう。
そんな私と王子様。
私達二人は後にこう言われる。
「身分違いの恋のおしどり夫婦」
と。
あはは、そのまま過ぎて面白い。
けど、私は、きっと幸せものだ。
踊りませんか?
機嫌の悪い顔をしている私に話しかけてきた、この舞踏会一番人気の伯爵様。
「あの、私に話しかけるのは、辞めたほうが良いと思います」
「どうしてですか?自分が話したいと思ったから、話しかけたのです。貴方の事を、知りたいとおもったから」
伯爵様は余裕だ。
その優しく余裕な立ち振舞が、私は何だが嫌だった。周りには、まだ伯爵様と踊りたい女性が待っている。
正直、私には構わないで欲しい。
「申し訳ありません。少し疲れたので、外の空気を吸ってきます」
私はそういうと、足早に舞踏会の会場から逃げた。何時までも居られる場所ではない。
それに、案の定、私が伯爵様の誘いを断ると、待ちわびていた他の女性達が伯爵様に群がった。
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結局、私は最後まで舞踏会の会場に戻る事はなかった。
夜の風にあたりながら、私は迎えの馬車が来るのを待っている。
その時……………………
「結局、戻られませんでしたね」
声のした方を振り向くと、伯爵様が居た。
何でまた来るのよ。
「どうして私に構うのです?他の方と楽しんでいれば良いのに」
「他の女性と貴方は違う。
私は、貴方だから話しかけているのです」
「辞めてください。他の方に見られたら、嫌味を言われるのは私なのですっ!」
これは本当のこと。伯爵様はとても人気がある。誰もが伯爵様の妻にと思っている。
そんなキラキラした人に、私が話しかけられる理由がない。
「私は、貴方の事が気になるのです。貴方の事が知りたいし、貴方に、触れたいのです」
「は?」
伯爵様は、何を言っているのだろう。
私に触れたい?なぜ?
私よりは素敵な人が伯爵様の周りには沢山居るのに、なぜ私なの?
「あの、伯爵様………。どうして、私なのです。どうして、私の様な女性に触れたいと思うのです」
少しの間が空き、伯爵様が口を開いた。
「…………貴方に、恋い焦がれているから。
私は、貴方の事が好きなのです。
好きだから、触れたいし、知りたいと思う のです」
伯爵様のいきなりの告白……。
驚きの方が多かった。けれど、私は今までに感じた事のない感情になったのは事実。
あー、私、こんな不意打ちで ほだされてしまったの?
「あの。伯爵様………。じょ、女性から誘うのは、いけないのかもしれないのですが……、」
「はい………」
私と伯爵様を明るく晴れた夜空と月が照らす
「私と、踊って頂けますか?」
私の今の精一杯の強がり。でも、伯爵様は、何だがとても嬉しそな顔をした。
「………っもちろん。喜んで」
私は恋愛に限っては、色々な事に疎い。
けれど、この方となら、と初めて思った。
単純でもいい。
悲しくてもいい。
私は今、この人と恋をしたい。
そう、思ったのだ。
「巡り会えたらって、どこに巡るっていうの?」
「知らないよ。そんなのそういう経験した人にしか分からないよ」
辞書で調べてみると、長い期間を経て、思いがけずに人や求めていた物と対面する。
という意味らしい。
うん。確かにそうだよね。と納得するものの何だがいまいち腑に落ちない。
「私達って、この意味だったら巡り会った事になるの?」
「巡り会うって?うーん。言われればそうなるのかもね」
私と彼は、高校生の頃にお互い好意を持っていたことは薄々お互い気付いていた。
けれど、お互い勇気が持てずに友達のまま高校時代を過ごし、卒業してしまった。
卒業式の日。勇気を出して告白しよう。
そう思っていたけれど、いざ当日になると、何も言えなかったのだ。
そんな私と彼が再会したのは、高校を卒業してから7年後。
たまたま打ち合わせをする企業にお互いが居た。という感じで再会をし、お互い高校生の頃好きだった。という事を確認しあい、今も好きだ。という結論に辿り着き、今お付き合いをする仲になったのだ。
私達のこの出会いは、辞書の意味なら、
また巡り会えた事になるのだ。
「でも、やっぱり巡り会うっていう言葉じゃないなー。なんか巡り会うって、なかなかの奇跡が起こってこそ使う言葉の気がする」
「俺は今のこの状況。なかなかの奇跡なんだけどなー、」
「えっ?なあに?」
「ううん。何でもない」
並んでソファに座っていた私と彼。
そんな私の頬に彼がキスをした。
「うわっ、びっくりしたー」
「あははは、不意打ち。どう?ドキってした?」
「………………っしたよ、馬鹿っ」
巡り合い、なんて、そんな高尚なものじゃない。けれど、こうして好きだった彼と今こうして一緒に居られる事に、私は幸せをかんじるのだった。