過ぎた日を想う事は、今に始まった事じゃない。けれど、今私は、とても幸せで、恵まれて自分で選んだ事なのに、物悲しく思うのは、何故なのだろう?
「明(めい)様。如何なされました?」
「えっ?」
「何処か遠くを見つめていらしたので、如何されたのかなと思い……」
「ごめんなさい。大丈夫よ。
………凛、お願いがあるの」
「はい。何でしょう。明様」
「この花瓶の花が、何時もより早く弱かっているの。水を変えてきてくれる?」
「はい。かしこまりました。」
「………一人だわ……」
私は明。この国の王様の側室だ。
元々は宮中の女官だった私は、王様に見初められ、側室になった。
王様の奥様、王妃様はとてもお優しく、側室である私にも優しく接してくれて、気を使って下さる方。
まさに、国の母、として相応しい人。
「…それに比べ……私は……」
私は王様の事を慕っている。心を完全に許してはいけない。そう、思っていたのに、私は王様を思ってしまった。
いらっしゃらないと、心悲しくなる。
側室は、ただ待っているだけ……。
なんだか、悲しく思うことがある。
「私……、今の立場で、何かを成す事が出来るのかしら……」
私の顔に、一粒の涙がながれた………その時
「明。息災か?」
声のした方に顔を向けると、そこには王様がいた。まだいらっしゃる時間ではないのに。
「お、王様……、はい。息災です」
私は自分の座っていた場所を王様にお譲りしようとしたが、
「あ!席は移動しなくて良い。そのままで」
そう言うと、王様は静かに私の所へやってきて、私の前に腰を降ろした。
「明の使いの者に、たまたま会ってな、何をしているのか聞いたのだ…。そしたら、明が少し一人になる時間を設けているのだと聞いてな、少し顔を伺いに参ったのだ…」
凛は、気付いていた。気付いて、花の花瓶の水を変えに行ってくれたのだ。
「私は大丈夫です。王様……」
「…強がっているのは、私にも分かる。……私を、恨んでいるか?」
「えっ……?」
「私は明から、女官という仕事を奪い、自由も………奪った。こうして待つ事しか出来ないと思うような立場にさせた。
……………すまない。
……それでも、私は、明の事を好いているのだ。これは私の我儘。恨むなら、恨んでくれて良い」
「う、恨むだなんて、そんな事はありません。」
少しの沈黙が流れる。
まだ明るい部屋の中が、静寂に包まれる。
王様と過ごす、貴重な時間なのに………
私は、言葉を浮かべる事が、出来なかった。
10/6/2023, 9:06:56 PM