命が燃え尽きるまでって…………
実感なんかわかないし、現実味がない。
良く、アニメのキャラクターでこんなセリフをいうキャラクターが居るけれど、それは二次元だから許されることで、日常でそれを使うやつなんか居ない。
いたら、きっと引く………。
「命が燃え尽きるまで、亜理沙に好きだって言いたいな……、」
私の彼氏が、今日、こんな事を言った。私は呆気にとられてしまった。
「命が燃え尽きるまでって、やめてよ。なんか、気色悪い」
「どうして?俺は強い意志を感じるけれど」
彼はそういうと椅子から立ち上がり、ビール缶を一缶持ってきて、それをプシュッと開けながらこう続けた。
「世の中には、毎日命を燃やしている人達が少なからず居る。命を張って、戦っている人達が居る。
俺達は、当たり前の日々を過ごせているけれど、俺達の当たり前とは違う日々を過ごしている人達だって居る。」
「俺達だって、どうなるか分からない。そんな不安定な世界に居るんだと、俺は思ってる。だから言うんだよ?
命が燃え尽きる事があるのなら、命が燃え尽きるまで俺は愛とか、優しさを伝えたいって。馬鹿にされようが何を言われたって構わない。
俺が、そうしたいから」
あ、これ伝えなかった、って、後悔したくないからさ。彼はど真面目にそう言い切った。
彼のことばに圧倒され、私は何も言えなくなり、何だが恥ずかしさを感じただけなのかも
けれど、私は彼の、真宙(まひろ)のこういうところに惚れたのだと、改めて思ったのだった。
夜明け前に私は起きて、ベランダへ出た。
ベランダにある椅子に腰掛けて、そこで朝と夜の境目の空を眺めている。
空や空気は静かで澄んでいる。
私は、この時間の空が何だが好きだ。
「………眠れなかったの?」
後から声をかけられた。
「宏和(ひろかず)、ごめん。起こしちゃった?」
「ううん。何時もの温もりがないから自分でも起きたー」
「はぁ?(笑)何言ってんのよ」
「だって、あつみ、温かいじゃん。心地いいんだよ。その温かさ」
「夏だったら暑いだけじゃん」
「今は夏じゃありませんっ」
「……………………確かに」
宏和は、話し方がおちゃらけているようで、何処かまるさを持っている。
私は、そのまるさが好きだ。
「…………目が、スッて覚めちゃったの
本当は、もう少し寝ていたかったけど……休みだから。けど、何だが、目が覚めちゃった」
「だったら、もう一回布団にはいろ?
眠れなくても、横になろうよ。」
宏和にそう促され、手を取られ、私は寝室へと戻った。
「スッて目が覚めたのは、本当で嘘だね。
あつみ、何だか自分でも分からないけれど、心配になっちゃったんじゃないの?」
宏和は、何でわかるのだろう。全部正解だ。私、そんなにわかりやすい?
「………、うん。正解……」
「お、当たった?あはは、流石だな。俺、伊達に あつみの彼氏やってないわ」
「なんだそれっ」
宏和は宏和の近くにある方の私の手を優しく包んできた。
「………大丈夫だよ。平気。
あつみ、だけじゃないから。俺が居るから
だから、大丈夫。大丈夫だから、もう少し寝てな。………ね?」
宏和の手の温もりと声に、私は段々と落ち着き、眠りに落ちていく。
宏和だって、手が温い(ぬくい)。
宏和の温もりを感じながら、私はもう一度、眠りの世界へと入っていく。
夢にも出てきた宏和と、幸せな時間を過ごしている、そんな夢を見ながら。
本気の恋?何だそれ。
本気、なんて、そんなやっすい言葉、
俺は信じたくもないし信じるつもりもない。
そう、思ってた。
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「まーだ遊んでんの?良夜(りょうや)」
「遊んでるって言わないでくれる?一夜の恋を楽しんでんだからさ。」
「サイテーだな、お前」
俺と喋っているのは、幼馴染の慎也(しんや)俺と違って、慎也は真面目。いいヤツ、そんな慎也が何で俺と向かい合って居酒屋で飲んでくれてるのか、疑問でもある。
「良いんだよ。俺は、来る者拒まず、去るもの追わずで生きてくんだよ」
「ふーん。まあ良いや。俺が言ったところで変わんねーだろうし、俺は別に、そんな良夜でも良いしっ」
「はっ!それは有り難いねー」
慎也とは色々な話をしながら、今日はお開きになった。そして慎也とは駅で別れ、俺は自分の家へと帰っていく。
そんな時………
「あの……っ」
……誰かから話しかけられた。
「はい。何でしょうか?」
俺は愛想笑いの営業スマイル全開で、声のした方へと振り向いた。
「これ、落としましたよ」
振り返った先には、髪の毛がサラサラとしていて頭の端と端で三つ編みをしている女性だった。
彼女が手に持っていたのは、昨日あった女の子のハンカチだ。
「あー、それ、捨てて下さい。俺のじゃないし、多分、もう会えないので、持ち主」
「………そう、なんですか?」
「ええ。お手数かけてすいませんけど…。それじゃあ、失礼します。」
俺は帰ろうと向きを変えようとした時、
ガシッ!
「…………!!」
彼女に服を引っ張られた。
「……っ、何ですか?!」
「あ、あの、泣いてませんか?」
「はいっ?」
「泣いてないですか?」
「泣いてません」
「顔じゃないです。私が聞いているのは、心の方です。」
何なんだこいつは。わけのわかんない事を。
段々と面倒くさくなってきた。
「俺は悲しくないし、泣いてません。いい加減離してくれませんか?」
「嘘です。泣いてます。心が」
「〜っ何でそんな事わかんです!」
「私、わかります。」
「とにかく、その掴んでる手、離して下さい。」
俺は彼女の手をむりやり離し、前へと進み始める。
「あっ、待ってください!まだ、お話、」
「俺はする事ない」
「あのー!」
「しつこいっ!!」
そんな彼女との出会い。彼女と出会い、俺が本気の恋を知ることになる事を、この時の俺は、まだ知らない。
一世一代の、恋になる。
そんな出会いだった。
カレンダーには、後一週間後にマルがついている。付き合って2年、記念日として。
けれど、その記念日はもう二度とやって来ない。その記念日の3週間前、私は付き合っていた彼氏から、別れをきりだされたのだ。
「一方的だよー!!酷くなーい!!」
「はいはい。あんまり飲まない。」
私の持っていたビールのコップを優しく手から剥ぎ取られた。
それでも私は続けて愚痴をぶちまける。
お酒の力に任せて。
「大体、理由もないけど別れて欲しいって何さっ!!ぜっーたい、他に好きな人ができたんだろーがっ!!ばーか、馬鹿っ!!!!」
我ながら、凄い醜態を晒しているなと思いながらも、一度流れた気持ちは留められない。
「もう。わかったから、それ以上飲んじゃ駄目。それに、もう帰ろう。送ってく。」
私のことをずっとなだめているのは、大学時代の男友達、博雅(ひろまさ)たまたま再会して、飲み屋入ってのこの状態。
けれど、こうして素でいられて、私でいられる唯一の人でもある。
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「はー、、家だー」
私こと、千晴(ちはる)は、博雅に連れられ、私の家のベットまで運ばれた。
「はい、お水。飲める?」
「飲めるよ?のめりゅから、そこ置いといて、えへへへへ」
「ふーん。酔ってるなーもう」
彼女は、俺が彼女のことを慕っいるなんて知らない。千晴が別れたと聞いた時、正直チャンスだと思った。行動できず、好きな人を失った俺は男友達としてずっと過ごしていた。
連絡しよう、連絡してみよう、そう思っていた時の偶然の再開。
これは、運命だと、勝手に思った。
「あー。おい、何脱ごうとしてんの」
千晴は寝ながら服を脱ごうとしている。
勘弁してくれ。
「だっーて、暑いんだもん」
「暑いからって半袖脱ごうとしないでよ、えーっと、エアコンのリモコン、リモコン」
パシッ
彼女に、腕を掴まれた。
千晴に触れられ、ドキッとした。
時が一瞬止まった。
「博雅…、…今日、ありがとう。ごめんね…私、何か、凄い、醜態さらして………、久し振りに会えたのに……、嫌だったでしょ……っほんと……っ、ごめんね………」
千晴は、段々と涙声になって、声も、弱々しくなっていった。
「………嫌じゃ、無かったよ………、合えて嬉しかったし、声、聞けたし、千晴、大人な顔になったけど、今でも、とっても可愛い、」
「……………えっ?」
鼻をすすりながら、千晴は少し顔をあげた。
千晴に掴まれた腕を利用し、俺は千晴の元へと顔を近づける。
近づけてしまったら、何かが変わるかもしれない、壊れてしまうかもしれない。それでも、止められない。
「千晴、ずっと好きだった……。」
静かな部屋に、エアコンがかかった轟音が響く。千晴の顔は、赤く染まっている。
近くで見た千晴の顔は、とっても可愛かった。
喪失感は、桜吹雪。
君は、そんな悲しい気持ちや負の感情を、良く花の一生に例えていたね。
けれど、僕は……君のように、そんな負の感情を花の一生には例えられない。
君が居ないから、そうする意味を失ってしまった。せっかく覚えた言葉も、その意味も、全部、全部……………。
ポタッ、ポタッ、
「………何で、君は居ないの?」
僕の問いかけに、君が答える事はもうない。
君が優しく笑う顔も、君が困る顔も、何もかも、もうない。
「君は、僕に沢山の事を残してくれた筈なのに、今の僕には、何も見えない。思い出せない………、嫌だな、君がしてくれた事が、全部無駄になってしまったみたいだ………」
サアアアアッ、
晴れた空を風が吹いて、今年も綺麗に咲いた桜の花びらをハラハラと漂わせる。
そんな桜の花びらが一枚。
僕の頬に落ちて、貼り付いた。
まるで、君のようだと思った。
「君が残したもの、今は無理でも、ちゃんと覚えているから、思い出すから、だから、待っててね…………」
僕は桜の花びらをそっと掴み、手のひらに乗せてふうっーと優しく息を吹き込む。
そうしたら、桜の花びらはフワッと舞い上がり、また違う場所へと運ばれていく。
桜の花びらが、今日、初めて散った日だった。
その年の桜の花びらが初めて散った日、君は桜の様に優しく散った。優しく、旅立っていった。
僕の、初恋の君。
さようなら。
さようなら。