いしか

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本気の恋?何だそれ。
本気、なんて、そんなやっすい言葉、
俺は信じたくもないし信じるつもりもない。

そう、思ってた。

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「まーだ遊んでんの?良夜(りょうや)」
「遊んでるって言わないでくれる?一夜の恋を楽しんでんだからさ。」
「サイテーだな、お前」
俺と喋っているのは、幼馴染の慎也(しんや)俺と違って、慎也は真面目。いいヤツ、そんな慎也が何で俺と向かい合って居酒屋で飲んでくれてるのか、疑問でもある。

「良いんだよ。俺は、来る者拒まず、去るもの追わずで生きてくんだよ」
「ふーん。まあ良いや。俺が言ったところで変わんねーだろうし、俺は別に、そんな良夜でも良いしっ」
「はっ!それは有り難いねー」

慎也とは色々な話をしながら、今日はお開きになった。そして慎也とは駅で別れ、俺は自分の家へと帰っていく。

そんな時………

「あの……っ」
……誰かから話しかけられた。
「はい。何でしょうか?」
俺は愛想笑いの営業スマイル全開で、声のした方へと振り向いた。

「これ、落としましたよ」
振り返った先には、髪の毛がサラサラとしていて頭の端と端で三つ編みをしている女性だった。

彼女が手に持っていたのは、昨日あった女の子のハンカチだ。

「あー、それ、捨てて下さい。俺のじゃないし、多分、もう会えないので、持ち主」
「………そう、なんですか?」
「ええ。お手数かけてすいませんけど…。それじゃあ、失礼します。」

俺は帰ろうと向きを変えようとした時、

ガシッ!

「…………!!」
彼女に服を引っ張られた。

「……っ、何ですか?!」
「あ、あの、泣いてませんか?」
「はいっ?」
「泣いてないですか?」
「泣いてません」
「顔じゃないです。私が聞いているのは、心の方です。」

何なんだこいつは。わけのわかんない事を。
段々と面倒くさくなってきた。

「俺は悲しくないし、泣いてません。いい加減離してくれませんか?」
「嘘です。泣いてます。心が」
「〜っ何でそんな事わかんです!」
「私、わかります。」

「とにかく、その掴んでる手、離して下さい。」
俺は彼女の手をむりやり離し、前へと進み始める。

「あっ、待ってください!まだ、お話、」
「俺はする事ない」
「あのー!」
「しつこいっ!!」

そんな彼女との出会い。彼女と出会い、俺が本気の恋を知ることになる事を、この時の俺は、まだ知らない。
一世一代の、恋になる。
そんな出会いだった。

9/12/2023, 11:43:35 AM