いしか

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8/29/2023, 10:40:19 AM

言葉はいらない、ただ………、だけど……

「……どうした?」
彼の体は温かい。温かくて、仕草は優しくて
体中から私のことが好きだって事は伝わってくる。だけど、彼の口から「好きだよ」「愛してる」って言われた事はない。

「……ねえ、悟、お願い……っ言ってもいい?」
「お願い?うん。なに?」

こんな事言ったら、面倒くさい女だって思われる?別れてって言われる?

「……っ!何っ!どうしたの?」
「えっ?」
悟が何を焦っているのかと思ったら、原因は私だった。私が泣いていたのだ。

「ご、ごめんっ、泣いちゃうなんて思ってなくて、ごめん。」
「…………、なあに?お願いって」
悟はさっきよりも優しく問いかけてくれた。
大丈夫。私、ちゃんと伝えなくちゃ。

「……付き合ってから、悟、私に…、好き、とか愛してる、とか言ってくれない。
私の事、本当は……つ、どう…………っ」
言い終わる前に、悟に口を塞がれた。

「、…ごめんっ。俺、ちゃんと言ってなかった?何かいつも伝えた気になってた…
………主に、体で…………っうわ、何これはずっ!」

知ってたよ。ちゃんと伝わってきてたから、でも、……

「悟の声で…聞きたい………。」
悟は私の涙を拭ってくれた。
「うん。そうだな…、ちゃんと、口で伝えなくちゃな。」

「好きだよ。…愛してるよ。」


「愛してる。真琴……」

悟の声を聞いて、嘘のない言葉を聞いて、胸がキュンと一杯になったことは内緒。

私は悟の顔を手で覆って引き寄せ、私もそっとキスをする。

「私も好き、愛してる、悟」

私のお返しの言葉で、可愛くて、かっこいい笑顔を返した悟。

言葉で心が満たされる感覚を、私は改めて味わった気がした。

”大好き。悟“

8/28/2023, 10:38:13 AM

突然の君の訪問。

「えっ?やばっ、何で?!」
私はびっくりしながらインターホンを眺めている。インターホンの画面に写っているのは、私の友達、オネエさんの梓だ。

昨日のラインで、意気揚々と「告白してくるっ!」と宣言した梓。私は「ガンバ〜」と軽く返信をして返した。そのラインのやり取りをしたのが、つい3時間くらい前。

「……いくら何でも実行早過ぎっ!」

私は応答のボタンを押した。

「あずさー、いくらなんでも早くない?」
「まやー、聞いてよー!!あいつったらひどいのよっ!良いから早く開けてっ!」

ガチャッ。
「まーやーっ!!!傷ついたーっ」
「分かったから、取り敢えず部屋に上がってくんない?私寝付いたばっかだったんだからねっ!」

部屋に上がってから聞いた話は、私的にはいつものことだった。精一杯告白したのに、断られたしまった。梓の好みは分かっていたけれど自分がとは思わなかった。
そう、言われてしまったそうだ。

「…もうっ!やってらんないわよっ!」
「本当、酷いやつだなー」
「でしょっ!!」
こうして梓の文句を聞いていれば、梓のどこにも行けなかった気持ちも、少しずつ収まっていく。けれど、梓の心の痛みまで、私は治して上げることはできない。

「………あずさー」
「…なによっ、…」
「泣きたいなら、泣いてくれない?私、今梓を抱きしめたいんだけど、泣いてくれないと、きっかけつかめないの。」

「…、…何よそれっ。そんな、そんなきっかけなんかなくても、抱きしめてくれていいわよっ、…、……」

その言葉に甘え、私は梓を抱きしめた。
背中をトントンってして、赤ん坊をなだめるように私は梓を慰めた。

「ぐす……っ、わたし、まやを友達に持てて、幸せよ」
「私だって、優しくて思いやりがあって温かい梓と、友達でしあわせだよ?
こんな素敵な梓の事わからないなんて皆見る目がないんだよ…」

「、…そうよっ、皆っ…………、みるめがっ、ないのよーーー!!!」

こんなやり取りを繰り返しながら、今日の夜は更けていく。

「今日は、一緒に寝ようか?ベッドダブルだし。うん、そうしよう」
「ぐすっ、相変わらず、イケメンよ、まや」
「当たり前でしょっ!ほら、カモーン!」
「はーい!カモンするー!!」

ベッドの中で友達のじゃれ合いをしながら、私と梓は明日を迎えるのだった。

8/27/2023, 10:38:07 AM

雨に佇む君がいた。傘もささず、ただ静かに、閑静な道に一人佇み空を見ている君がいた。

「………あの、大丈夫ですか?」
普通だったら声なんてかけない。このご時世、自分から危険に足を突っ込むなんてしたくない。でも、何故か…この人に話しかけなければ、そう、思ったのだ。

「……えっ……俺に、話しかけてますか?」
雨の中に佇んでいた彼は、ゆっくり私の方を向いてきた。なんて顔が整った人なのだろう。こんな綺麗な顔の人に私は今まで会ったことはない。

「はい、話しかけてます…、このまま雨に濡れ続けたら風邪ひいてしまいますよ」
「……別に良いんです。好きで、こうしているんですから。雨、冷たくて気持ち良いし、色んなこと、このときだけ忘れられるから…」

彼は一体この雨に何を思っていたのだろう。
何を、忘れようとしていたのだろう。
今出あったばかりの私に、たずねる資格はない。

「……そう、かもですが、私が心配してしまったので家で雨宿りしていきませんか?

「……、良いんですか?初めて会った男にそんなこと言って、嫌なことをするかもしれませんよ。親切な貴方に…」
「貴方はしません。そんな事」

私は迷わず、そう言い切った。そんな私を見て、彼は静かに目を丸くし、驚いていた。

「…行きましょう。私と、お話しして下さい。」
彼の手を静かに取り、私は家路へと行く。
彼は大人しく着いてきてくれている。

「私の名前は若原優花(わかはら ゆうか)っていいます。貴方の名前は?」
「……俺は、矢間 蓮月(やま はつき)って言います。」
「蓮月君、って言うのね。素敵な名前!」

こうして私と彼は、私の家に帰っていく。
これから、もしかしたら始まるかもしれない、二人の恋の物語を纏いながら……。

8/26/2023, 12:34:51 PM

私の日記帳を見ては駄目。
彼女はそう言って僕に日記帳を渡した。
なら、渡さなければ良いのに、と思ったけれど、そんな彼女は留学先の国で事件に巻き込まれ、とう二度と帰ってこない。

残ったのは、彼女が見ては駄目、といって渡してきた日記帳だけだ。

彼女を亡くしてから数日後。僕宛に一通の手紙が届いた。それは外国の封筒でそこに書かれている筆跡を見れば彼女からの手紙だと、一目で分かった。
その封筒をそっと開け、中から手紙を取り出し、折れているのを開いてみる。すると、ある一行の分だけ、書かれていた。


”日記帳。私が帰国したら、見ても良いよ。
大好きっ!“

「……何だそれ、……それじゃあ僕は二度と日記帳を見ることができないじゃんかっ…… 


けれど、この日記帳に何が書いてあるのか、何となくこの手紙で分かった。
このことが書いてあるから、彼女は日記帳を渡しても、見ては駄目、といったんだ。

「ばーか。僕だって思ってたんだ。帰国したら、気持ちを言おうって、伝えようって…」

涙が一粒、二粒、一粒、と絶え間なく落ちていく…。

「僕だって、大好きだよ、大好きだったよ」

僕は静かに、彼女からの手紙を元に戻し、日記帳と共に机の引き出しに入れた。
ずっと、忘れないように。思いをつなげるように。


”大好きだよ。ずっと、ずっと大好き”

8/25/2023, 11:26:42 AM

向かい合わせの席に座った、同級生だった女の子。
何年か振りの中学の同窓会が開かれた今日。その同級生の女の子、「町田彩奈」に俺は目を奪われた。彼女は決して目立つ存在ではなかった。けれど、運動も勉強も出来て、俺は密かに憧れていた。

「ひ、久しぶり。町田。俺の事、覚えてるかな?」
少し不安に思いながら、俺は彼女に話しかけた。
「うん。もちろん覚えてるよ。久しぶり、武元君。」
彼女は大人の女性に声も、姿も、変わっていた。俺達は今年で25歳になる。変わるなんて当たり前の事だ。

「武下君って、今警察官なんでしょ?凄いね。」
「あはは、いや、そんな事ないよ。周りの先輩や同期に比べたら、俺なんて駄目な方で……、」
「そんなことないよ。周りはそんな事少しも思ってないと思うな……。」
「そ、そうかな………、」

町田はこういう女の子だつた。目立たない子ではあったけれど友達には慕われていたし、先生にも頼られていた。
そんな、生徒だった。

中学生の頃のあどけなさは今はもうない。
お化粧をして、髪も整え、見違える程綺麗になった。そのままでもかわいい。
そう言ってしまいたくなるが、それはきっと失礼な事で、彼女がそれを自分で許さなかったのだろうと思うし、こうして戦っているのだろうなと勝手に思った。

「あ、あのさ、町田、変な意味とか、気持ち悪いとか、そういう事を思わないで、素直に受け止めてほしいんだけど………、」
「えっ?何?なんか、怖いよ(笑)」

こんなこというなんて、きっと変で、おかしい。けれど、今伝えないと、もうだめな気がする。もちろん、告白ではない。

「あのさ、町田、中学の時のあどけなかった時も、かわいいなって思ってたけど、あ!もし彼氏がいたらごめん!ほんとっ!聞き流してくれていいんだけど、…、」

「彼氏はいないから大丈夫だよ。それに、聞き流したりなんかしないよっ。」

そう、改めて言われしまったら、何だが心臓がドキドキしてる。いや、おかしい人だろ俺っ!

「なあに?」
「……っ、だから、昔の町田も可愛かったけど、今大人になった町田も可愛くて、とっても綺麗だなって思った!それだけ!」

「し、失礼だったらごめんっ!」

アタフタしている俺を尻目に、町田の顔が少し涙目にしながら、優しく笑っていた顔の事に俺は気づかなかった。

けれど、この時確かに、何かが始まる音がした。確かに、音がした。

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