あぁ、この悪夢が
醒めたら、醒められたら、
どこへ行こう。
ちょっと憧れてた弓。
でも夢の中では
ただの武器だった。
家で普通に過ごしてた。
特に変なこともなくて
いつも通り2階で寝たり、
アニメ見たり、
ぐだぐだしてた。
1、2時間してから
1階に降りたら
誰もいなかった。
今日は休日だから
家族はみんないるはずだった。
けどリビングは静かで
何をしていたかの痕跡すらない。
すると、
私はずっと気づかなかった、
背が高く弓を持つ男がリビングにいた。
着いてこいと言われ、
庭まで歩き出した。
私は嫌な予感がして聞いてみる。
誰を殺したの?
弓を持つ男は答える。
さぁ?
俺にとっては全員動く的だった。
そんなことを話してるうちに
庭に着いた。
そこには私の母がいた。
泣いてはいなかった。
母以外の家族は
みんな喉に矢が刺さって
紐に吊るされてた。
やったのは2人の弓を持った男たち。
母は運良く矢を避けたのか、
無傷だった。
そして弓を持つ男は
私と母に弓と矢を渡して
これで俺たちを殺してくれ。
と、そう言った。
"Good Midnight!"
正直もう何もかもどうでもよかった。
腹に刺して
苦しませて殺そうと考えてた。
そんな考えが
私の中にあった事が1番恐ろしかった。
どうせ簡単に日常が壊れるなら、
どこかへ行きたかったな。
そこで目が覚めた。
二度寝しそうになると
またあの光景と考えが
頭をチラつく。
ぬるい炭酸と無口な君と
五月蝿いくらいの風鈴と
あとそれから。
私を退屈させるものは
たくさんある。
なのに楽しませてくれるものは
片手で数えられるくらいしかない。
冷蔵庫に入れ忘れた炭酸ラムネは
ぬるくてピリピリしない。
黒猫の君は
無口で中々鳴かない。
暑いから部屋で寝っ転がって。
風が少しあって
1階でチリチリと
鬱陶しいくらい鳴っていた。
今は何もなくて
どうでもよくて
自分は何をしたいか
眠たいのか
お腹が空いてるのか
ちっとも分からなくて。
あー、
空っぽで暑くて
何かをどうにかしたいなーって
なんとなく思ってきて
君を起こした。
にゃあっと
滅多に鳴かない君が鳴いたので、
少し驚いた。
いつの間にか1時間経っていて
冷蔵庫に入れたラムネは、
冷たくてピリピリした。
風は幾分かマシになっていて、
風鈴は鳴らなくなっていた。
君と外に出ると、
大きくて街を飲み込むくらいの
入道雲があって
入道雲にはとてつもない量の
水があることを思い出した。
このまま君と入道雲を目指して
夏から逃げて
飛び込んで、溺れて、
冷たくなりたいなぁって
走り出したら
君も走り出した。
"Good Midnight!"
ねぇ、私たち
今なら何でもできて
どこへでも行けるなら、
入道雲に飲み込まれちゃおうか。
その日は風が強かったんだ。
放課後ポストだか何だかに入れた手紙、
喋る変なカモメが
しっかり届けてくれるって
言ったのに。
風が強くてカモメは海に落ちた。
一瞬ボソッと
誰かの名前を呼んだ人が
いたと思ったら、
それは隣にいた少女で
海に飛び込んでカモメを助けに行った。
私も海辺まで駆けつけた。
2人ともずぶ濡れで
高い波にさらわれなかっただけ
マシだと思っていた。
カモメも少女も
ごめんと謝りながら
ぐちゃぐちゃに破れた紙を渡してきた。
波にさらわれた手紙は
ボロボロだったけど
たしかに帰ってきた。
その事が少し嬉しかった。
多分この2人の他に
海にまで手紙を取りに行ってくれる人は
いないだろう。
クソみたいな世界に
クソじゃない人がいたなんて
それはそれで驚いた。
2人には
手紙はちゃんと届いた、
取りに行ってくれてありがとうと
言っておいた。
私が書いた手紙の宛先は
私自身だった。
当たり前のように
文通する相手なんかいるわけなかった。
私は共有・共感したいことを
私とするのだ。
そして初めて幸せを感じる。
あぁ、私を幸せにできるのは
私だけだと。
"Good Midnight!"
私が書いた私への手紙を拾ってくれた
2人に敬意を表し
私はまたクソみたいな世界で生きる。
8月、君に会いたい人が
いることを願うよ。
そう言って、
名前も覚えてないし
覚える気もなかった人は
去っていった。
1人で始まる私の物語。
怠惰に生きてきた私だけど
人とそこまで関わりはなかった。
まあ何人も勝手についてきては、
勝手に離れるから
中々目障りだ。
気になることや
好きなことには
歯止めが効かないほど
のめり込むけど、
興味が無いことには
とことん関心がない。
だから人も別にどうでもいい。
けど1人、
おかしなことを願った人がいた。
その人は7月の梅雨が開ける頃に、
8月、君に会いたいって
思ってくれる人が
出来ることを願うよ、と言い
また勝手に離れた。
当然そんな人はいるはずない。
数年経った時、
あの人に2つほど貸しが
あることを思い出し、
暇だったので返してもらおうと思って
聞き込んで見つけた。
8月に入りたての頃だった。
その人は既に亡くなっていて
貸しは返して貰えないままだった。
"Good Midnight!"
それからは
その人が拾って育てて
その人の最期を見届けたであろう
少女を引き取り、連れ出した。
驚くほど私に懐いていたので
少し聞いてみた。
もし私が君を置いて去ったらどう思う?
少女は微笑み、こう言った。
また会いたいから
何処までもついて行きたいと思います。
セミが五月蝿い8月半ばの頃だった。
私が生まれた村は
おかしな村だった。
赤いアクセサリーをつけた
毎年決められた家の子どもを
大樹に生贄として捧げ、
豊作を願い、
病が治るよう願い、
幸せを願った。
小さい命を犠牲に。
赤いアクセサリーをつけた子どもは
6歳から村の一番端にある
地下の実験室に通うことになる。
そこでは病を治す薬の投与実験、
未知の実の毒味実験、
薬と薬を混入させる変異実験、
薬物を打たれ症状を観測することも
あるんだとか。
そうしてボロボロのまま
12歳から16歳の間に生贄となる。
良くないものが身体に入っている者を
生贄として捧げて
何が願いを叶えてくれ、だ。
なんて思っているが、
私の耳には赤いピアスが
生まれた頃から付けられていた。
何度も実験台にされ、
その度に死にたいと思った。
だけど不意に現れたその人は
外は広く美しいと、
その村から連れ出してくれた。
幸い後遺症はそこまで酷くなかった。
ああ、そうそう。
外ってのは眩しくて
知らないことだらけだった。
助けてくれた人は
私に色んなことを学ばせた。
そして暖かい暮らしを教えてくれた。
私はそれを受け取って
これからの糧にした。
教会に入ったこともあったけど、
教えられたことはどれも、
助けてくれた人が毎日1つずつ
話してくれることだったので
すぐ辞めてしまった。
そのうち助けてくれた人は
不治の病にかかった。
私を置いてまだまだ世界を見るんだと
助けてくれた人は言っていたが、
私はずっとその人のそばにいた。
私は言った。
救ってくれてありがとうって。
あなたに出会えたから
生きててよかったって思えたって。
だから今は少しの眠りについて、
また私を救いに戻って来てって。
"Good Midnight!"